【闇の底/薬丸岳】
24年前、小学1年生だった妹を殺された長瀬は警察官になった。
事件をきっかけに母親は心が病み、両親は離婚。弁護士だった父親は民事専門の弁護士として、今は新しい家庭を持っている。
妹に対する罪悪感と、犯人に対する怒りを抱きながら、長瀬は子どもが犠牲となった性犯罪の前歴者が殺害される事件と対峙する。
犯人はわざと被害者の身元が分かる証拠を現場に残し、サンソンの名で子どもの性犯罪が起きるたびに犯行を繰り返すといった内容の犯行声明文を警察に送りつけた。
警察に代わり、同類を殺害することで幼児が犠牲となる犯罪の抑止力となることを望むサンソンの意外な正体。警察官という役割と、被害者遺族という立場にいる長瀬の危うさ。最後の終章でタイトルの【闇の底】にいるのは、読者……読み終わった後に嫌な気分で終わるイヤミス……久しぶりに読んだ。
抑止になる力は必要だけど、サンソンのやり方は被害者が出た後に行動に移す後手。最後は子どもが犠牲になる犯罪の抑止力になるためではなく、“犯人憎し”の復讐殺人なのではないかと読んでて息苦しい。
本当に性犯罪者にはマイクロチップを埋めればいい。監視して制限することは被害を出さないためでもあるし、罪を犯さないためでもある。
性衝動にかられた人間の話を聞き、解決に導く『ダイヤル』があるわけでもないし、自ら性癖を治療する人間もいないだろう。“殺されるかもしれない”という不確かなものより、“罪を犯せば社会的制裁を負う”リスクを突きつける方が抑止に繋がるんじゃないかと思うわけだけど……“基本的人権の尊重”、“プライバシーの保護”に反するのかな?
題材が闇深い……
【誓約/薬丸岳】
『あの男たちは刑務所から出ています』
過去を捨て、新しい人生を過ごしていた向井聡のもとに一通の手紙が届く。
それはかつて娘を殺された母親と交わした約束だった。自分に代わり、娘を殺した2人の犯人を殺してほしい。もし約束をしてくれるなら、“別人”として生きていくための金を渡す──……
幼い頃から顔のアザが原因で荒んだ生活を送っていた向井は、その時のお金を元に今の平穏な日常を手に入れていた。手紙はそんな平穏な日々を脅かし、家族にも職場にも過去を話ない向井は、1人、手紙の差出人『坂本伸子』の行方を探る。
既にこの世に存在しない坂本伸子の名を語る脅迫者。殺人を拒む聡を許さず、過去と家族を人質にして事件に関与させていく狡猾さ。加害者を憎み、過去との断絶を許さない復讐心。被害者同士の強い繫がりは片方の死により一層強いものに変わる。
向井の行動は手紙から→拒否→調査→事件発生→逃亡と、追い詰められていくものの、ラスト20ページからの展開が怒濤。新事実に驚愕。真犯人、居たたまれない。
自身が顔のアザによって苦しめられた痛みを知っている向井だからこその言動が窺える箇所がいくつかあり、子ども(弱者)に対しては常に正しく、優しかった。
そして、そんな向井を救ったのは、過去に取り除いたアザだった。
狭い世界で人との距離が遠くて深い、そんな作品。
封筒から始まり、封筒で終わる。震える理由が異なることに救われる。