着床前受精卵遺伝子スクリーニング | NPO法人 umi ~卵子の老化を考える会~

着床前受精卵遺伝子スクリーニング(PGS)、あなたはどう考えますか?

 

こんにちは。

 

去年11月に着床前受精卵遺伝子スクリーニング(PGS)の臨床研究を日本産科婦人科学会(日産婦)の倫理委員会が承認し、早ければ来年度春には臨床研究がスタートされるそうです。

先週末(27)に日産婦が都内で開催した着床前受精卵遺伝子スクリーニング(PGS)の臨床研究に関する公開シンポジウムに参加してきました

 

まず着床前診断とは何かというと、体外受精で得られた受精卵(分割期から胚盤胞期)において染色体や遺伝子の検査を行うというものです。

着床前診断には2種類あり、特定の遺伝子に関する異常の有無を診断する“着床前遺伝子診断(PGD)”と着床率を上げる目的で染色体の数的異常を検索する“着床前遺伝子スクリーニングPGS”があります。これまで日本では、安全性や有効性、倫理面の観点から前者のPGDを限定的に認めていました。その条件は①デュシャンヌ型筋ジストロフィー症などの重篤な遺伝性の病気がこどもに遺伝する可能性がある場合、②夫婦のどちらか、あるいは両方に染色体の相互転座があり流産を繰り返している場合に限定され、実施施設も日産婦に認可された限られた施設でのみ行われてきました。更にいずれかの条件を満たしていても、検査を希望する場合、実施施設での倫理委員を経て日産婦の倫理委員会への申請・承認される必要があり希望してから実施には半年から一年もかかります。

 日本で着床率を上げる着床前診断が禁止されている理由の一つに、海外の様々な研究でPGSを行っても妊娠率の向上や生児獲得率には寄与しないことが明らかになってきたという点がありました。この理由として、分割期胚からの細胞採取の場合にモザイク(採取した細胞が正常でも残りの細胞は異常など)という問題や、検査方法(FISH法)も限られた染色体しか検査できないなどの精度面の問題が挙げられます。しかし、最近ではより多くの細胞数を採取可能な胚盤胞期胚で検査が行われるようになり、検査方法も全ての染色体を網羅的に検査できるアレイCGH法が主流となりつつあり、検査の精度自体が向上してきました。その結果欧米では妊娠率が向上したという報告も出てきています。そこで日本でもその有効性を科学的に検証すべきだという意見を受け、日産婦の倫理委員会により検討した結果、「臨床研究」としてのPGSが承認されたというわけです。この研究結果をもとに将来臨床に導入するかを決めるそうです。

 

シンポジウムの内容によると・・・

・これまで通り原則PGSは禁止とし、PGDも条件付きでの実施とすること。PGSは臨床研究でのみ実施。

・臨床研究は3年間を想定し、PGS300症例、対照群300症例とする。

PGS実施対象は、①体外受精で3回以上不成功した方、②2回以上の原因不明の流産を経験した方。年齢の限定はなし。

・実施施設は、これまでにPGDの経験をしている施設から学会が選定する。

・検査結果は、アレイCGHで染色体のコピー数の増減があるかないかのみで判定し、増減がない胚を「適」として報告する。「適」と判定された胚の中からの移植胚の選定は各施設に一任する。

ただし、具体的な方法等は現時点では決まっていないそうです。

 

この臨床研究でPGSによって妊娠が望める胚を選ぶことが出来る(妊娠率が向上する)となれば、PGSは不妊に悩む多くの女性にとって福音となるかもしれません。

しかし注意する点としては、PGSによって「適」と判定された受精卵を移植しても必ず妊娠できるとは限りません。妊娠が成立するためには、受精卵の染色体の正常性だけではなく内膜の条件など、様々な要因があるからです。

 

また全ての染色体を調べるため、ダウン症などの様々な病気も受精卵の時点でわかるようになります。そのため「命の選別」につながるのではという議論もあります。

 

受精卵の詳細な遺伝情報が得られることから、「患者から「パーフェクトな赤ちゃんができるんですよね」と勘違いされることもある」という声が、シンポジウムのフロアから上がりました(実際にPGDを行っている施設の医療者の方)。パーフェクトというのがどういう意味なのかはわかりませんが、PGSを用いた「男女産み分け」や「デザイナーベビー」にもつながるという懸念もあるため、PGSを臨床応用するに当たってはきちんとしたガイドラインを整備する必要があります。

 

ともあれ、きちんとした臨床研究が行われ信頼性のある結果によって、PGSの進むべき道が示されることを祈るばかりです。