「こんにちは」
本屋で会ったままのシャツにフレアスカート姿で、困ったような表情で控えめに玄関先に立つ鈴原。
「とりあえず、入って」
「お邪魔します」
軽く片付けてもまだ雑然とした部屋に鈴原を通す。ティーン誌の編集者がこの光景を見たらぶっ倒れるだろうなと心の内で自虐的に笑いながら、何となく買ってあった紅茶を淹れる。因みにどんな種類かは忘れた。もしかしたら買ったのではなくて、試供品とか何かのおまけで付いてきたものだったかもしれない。いずれにせよ、さっき見たら賞味期限はまだだったから大丈夫だ。
この季節だからホットはないだろう。残り少ない氷を製氷室から取り出し、僕:鈴原が1:3くらいになるようにカップに落とす。ついでに僕の方には水道水を足しておく。
「砂糖とかいる?」
「………あるなら」
どうせないっすよ!
「なんか、ごめん」
「いえ。……あ、そうだ」
いかにも今思い出しましたというような表情で隣に置いていた(椅子とかいう神々しい家具はうちには存在しない。故に、持参物は床に置くことになる)紙袋を差し出す鈴原。
「何これ?」
こちらも、いかにも今まで気付きませんでした的な表情を作って応対する。
しかし、受け取ってみると予想に反して結構重い。
「地元の洋菓子店でケーキを買ってきました。……甘いものはお嫌いでしたか?」
「いや……全然甘党だけど」
有り難うと言いながら、とりあえず一緒に食べようとうちにある中で一番洒落た皿はどれだと食器入れを漁り、パッケージの中のフルーツタルトを取り出す。自分の分は──まあ、あからさまでない程度で質は落ちるがお洒落っぽい皿に出す。
まさかとは思うが、うちに砂糖がないことを悟って甘いケーキを買ってきたのだろうか。……まさかな。
「ていうか、西麻布住みで地元とか言ったら本当に地方に住んでる人に怒られるよ」
「私、実家新潟なんです」
「…………マジか」
因みに僕の家系は三代くらい前からずっと東京である。それが普通なのか凄いのかは良く分からないけれど。
「あれ? ってことは何、新潟帰ってたの?」
「ええ、まあ。今日の早朝はまだ向こうにいました」
「そうなんだ。……ていうか、待って? 何でさっきここの本屋にいたの? お前、家西麻布だろ?」
「え? いや、それは……」
「何?」
「……………貴方に、あの……差し入れを、渡したくて!」
「……はあ……。それは有り難う」
「本当ですよ!」
察するに、鈴原は実家に帰ったとき僕への差し入れを買ってきて、それを渡しに僕の家の最寄り駅まで来たは良いが、本屋でBL本に魅せられてしまい、そこを訪れた僕を見つけて気まずくなり逃げた、とそんな感じだろう。
あれ?
でもそういえば、『貴方は行ったことがないから知らないかもしれませんが』とか言ってなかったか?
鈴原は何度か行ったことがあるのか? まあ、僕をストーキングしていたのだから当然と言えば当然か。
「…………本当は」
「ん?」
呟く鈴原の声が良く聞こえなくて、顔をのぞき込む。一瞬で身を引く相手に少し傷つきながらタルトの残りを頬張る。
「本当は、貴方と離れるのが怖くて、会いに行きたくて、良くこの駅まで来ていたんです」
本屋で会ったままのシャツにフレアスカート姿で、困ったような表情で控えめに玄関先に立つ鈴原。
「とりあえず、入って」
「お邪魔します」
軽く片付けてもまだ雑然とした部屋に鈴原を通す。ティーン誌の編集者がこの光景を見たらぶっ倒れるだろうなと心の内で自虐的に笑いながら、何となく買ってあった紅茶を淹れる。因みにどんな種類かは忘れた。もしかしたら買ったのではなくて、試供品とか何かのおまけで付いてきたものだったかもしれない。いずれにせよ、さっき見たら賞味期限はまだだったから大丈夫だ。
この季節だからホットはないだろう。残り少ない氷を製氷室から取り出し、僕:鈴原が1:3くらいになるようにカップに落とす。ついでに僕の方には水道水を足しておく。
「砂糖とかいる?」
「………あるなら」
どうせないっすよ!
「なんか、ごめん」
「いえ。……あ、そうだ」
いかにも今思い出しましたというような表情で隣に置いていた(椅子とかいう神々しい家具はうちには存在しない。故に、持参物は床に置くことになる)紙袋を差し出す鈴原。
「何これ?」
こちらも、いかにも今まで気付きませんでした的な表情を作って応対する。
しかし、受け取ってみると予想に反して結構重い。
「地元の洋菓子店でケーキを買ってきました。……甘いものはお嫌いでしたか?」
「いや……全然甘党だけど」
有り難うと言いながら、とりあえず一緒に食べようとうちにある中で一番洒落た皿はどれだと食器入れを漁り、パッケージの中のフルーツタルトを取り出す。自分の分は──まあ、あからさまでない程度で質は落ちるがお洒落っぽい皿に出す。
まさかとは思うが、うちに砂糖がないことを悟って甘いケーキを買ってきたのだろうか。……まさかな。
「ていうか、西麻布住みで地元とか言ったら本当に地方に住んでる人に怒られるよ」
「私、実家新潟なんです」
「…………マジか」
因みに僕の家系は三代くらい前からずっと東京である。それが普通なのか凄いのかは良く分からないけれど。
「あれ? ってことは何、新潟帰ってたの?」
「ええ、まあ。今日の早朝はまだ向こうにいました」
「そうなんだ。……ていうか、待って? 何でさっきここの本屋にいたの? お前、家西麻布だろ?」
「え? いや、それは……」
「何?」
「……………貴方に、あの……差し入れを、渡したくて!」
「……はあ……。それは有り難う」
「本当ですよ!」
察するに、鈴原は実家に帰ったとき僕への差し入れを買ってきて、それを渡しに僕の家の最寄り駅まで来たは良いが、本屋でBL本に魅せられてしまい、そこを訪れた僕を見つけて気まずくなり逃げた、とそんな感じだろう。
あれ?
でもそういえば、『貴方は行ったことがないから知らないかもしれませんが』とか言ってなかったか?
鈴原は何度か行ったことがあるのか? まあ、僕をストーキングしていたのだから当然と言えば当然か。
「…………本当は」
「ん?」
呟く鈴原の声が良く聞こえなくて、顔をのぞき込む。一瞬で身を引く相手に少し傷つきながらタルトの残りを頬張る。
「本当は、貴方と離れるのが怖くて、会いに行きたくて、良くこの駅まで来ていたんです」