ある日、おれの前に現れた一つ年下の転入生の少女は、まるで台風のように

おれの日常を一変させたのだ。

少女の名前は、小日向かなで。

その名の通り柔らかな日向のような少女は、真っ白なまでに無垢で純粋で

残酷なまでに人を魅了することに長けた小悪魔な存在だった。



ああ、また。

榊大地は視界に映る光景に、胸中で何度目かの溜息を吐く。

視界の先には後輩である一年のハルこと水嶋悠人と自分の恋人である

小日向かなでの姿がある。

昼休みである現在、学年の違う二人が一緒にいるのはオケのメンバーでお昼を一緒に

食べようと約束をしていたからであって、浮気などのやましい行為をしているわけでは

ないということはわかっている。

けれど理性では抑えきれないのが感情というもの。

自分の恋人と、その恋人に恋心を抱いているいわば恋敵が二人でいる姿を見れば、

理性を超えたところで不快感を抱いてしまうのは仕方がないというものだろう。

ましていつも刺々しい表情を浮かべているのが常なハルが、かなでの前でだけ

柔らかい表情を浮かべるのだと知ってしまったのなら尚更。

まったく、困ったものだ。

かなでの周りには花の蜜に群がる蝶の如く、男たちが群がってくる。

それはもう、追い落としても追い落としてもきりがないまでに。

かなでの恋人の座を得たからといって、一時も安心など出来ない。

何故なら恋敵たちは隙あらばかなでを奪おうと、虎視眈々と機会を窺っているのだ。

そして、かなではそんな大地の恋敵の狙いなど知らず、無防備に彼らに近付いていく。

だから大地の気の休まる暇など一時もない。


ひなちゃんを閉じ込めてしまえれば良いのに。

何度目かわからない考えが脳裏を過る。

他の誰にも奪われないように閉じ込めてしまえれば、大地の心は安寧を得られるだろう。

けれどその代わりに、花が萎れてしまうように愛する少女の心は枯れてしまうだろう。

そう。無理に閉じ込めてしまえば、必ずそうなるだろう。

だから、少女を閉じ込めることは出来ない。


いまは、まだ。


要は、閉じ込められたと少女自身が感じなければ良いのだ。

少女が望む形で囲い込んでいけば良い。

まあ、卒業までは待ってあげるよ。

おれは辛抱強いからね。

だけどね、ひなちゃん。

おれは嫉妬深いって言っただろう?


「大地先輩ー!」

視線の先でかなでが両手を大きく振りながら、満面に笑みを浮かべて大地を呼んでいる。

その横でハルが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。

くすり、と笑みを溢して大地は二人の方へと歩き出す。


二人きりになったら、どんなお仕置きをしてあげようかな。

ねえ、おれだけの可愛い可愛いひなちゃん?




おわり。