今日も夜のミジンコ採集に行ってきたが、今日ばかりは忘れることのできない採集になった。

 いつものように蓮畑をうろうろしているとどこからかバシャ・・バシャ・・バシャと水の音がする。

 この時期、周りの水路では産卵のために大なまずや野ゴイが集まってくるので、今日もでかいのが集まってるなと思いつつ、たいして湧いていないミジンコを必死で掬っていると音が近づいてくる。いいかげん音が近くなってきたので、どんな大物かとライトで照らすとほぼ私の真後ろに血まみれ泥まみれのお爺さんの顔が。さすがにびっくりした。「助けてください…」と蚊の鳴くような声で言ってきたが、言われなくても助けないといけない状況だった。


 とりあえず水路から引き上げようとするも、水路が深く、お爺さんも弱りきってよじ登る力がなく、とにかく久々に渾身の力をこめて引きずりあげた。こういうときに水の入った重たい洗面器やバケツを持って鍛えた腕力と背筋は役に立つ。


 「大丈夫ですか?」とどうみても大丈夫じゃないお爺さんに声をかけると幸い意識はしっかりしており、傷も少し深めのすり傷だけで、自宅の電話番号を聞き出し連絡すると、老夫婦のようで、お婆さんが電話に出て、自転車で迎えに行くとのこと。とても自転車で連れて帰れる状態ではないことを告げたが、手段がそれしかないということだったのでとにかく来て貰うことに。


 待つ間に話を聞いていると、酒を飲んだ帰りに水路に落ちて水路を歩いてきたらしい。しきりに「ありがとうございます」「たすかりました」をかぼそく連呼されるので余計気の毒になった。タバコを吸うというので、お婆さんが来るまで、真っ暗な蓮畑でお爺さんと二人でプカプカ煙をふかしていたが、客観的に見てとても異様な光景だ。ちなみにこのお爺さん83歳。ある意味強い。


 そうこうしているうちにこぎれいなお婆さんがやってきた。私の車で載せていくつもりだったが、おじいさんが肩口に痛みを訴え始めたので、万全を期して救急車を呼んた。


 119に電話すると「火災ですか?緊急ですか?」と冷静に対応されたが、緊急事態に冷静に対応されると余計に冷静でいられなくなるのは私だけだろうか。


 救急車がやってきて、事情を説明したが、まず何で私が真っ暗な蓮畑にいたのかということから説明をしないといけなかったのでつらかった。「たいへんですねぇ」と言われたが、思わず『本当にたいへんなんだよ!』と言いそうになった。


 お爺さんを救急隊員に任せ終え、いそいで採集しかけのところへ戻ろうとするとお婆さんが「お礼をしたいのでご住所とお名前を」と言ってきた。『網に入っているミジンコが逃げていないか急いで見に行かないといけないので』と言いたかったが、「私のことはいいので、お爺さんについていてあげて下さい」と言い残し、小走りに網のところへ。一瞬『今の自分はかっこいい』と思ったが、泥だらけで真っ暗なあぜ道を小走りに走る格好はどう見てもカッコイイはずがない。

 

 今日の出来事はいくつかの偶然が重なって大事に至らなかった。

 ひとつはお爺さんの落ちた水路が今日はたまたま水位が低かったこと。足首くらいまでだった。日によっては腰くらいの水位で流れも速いので、その日だったら非常に危険だった。

 もうひとつは、私がたまたま普段あまりいかない側で採集していたこと。というのも日中日差しが強かったせいでいつも採集している側に泡を含んだ泥が浮き上がってきて採集できず、水の取り込み口側で採集していた。いつもの反対側で採集していたらカエルの声でおじいさんの声にも気付いてなかったと思う。さらに後10分時間が前後していても出会わなかったと思う。


 結局は爺さんが強運の持ち主だったということかな。

 

 今日のミジンコを食べた稚魚が良くならないはずがない…と言っておくか。


 蘭錦堂 飼育録 蘭錦堂 飼育録
 上は一番早い腹の仔。久々に創っているという実感がある。後続組みはもっと凄いぞ! うっしっし。