いよいよ寒い季節になる。
雪のある山では、過去、何度も怖い思いをした。
僕らはバリエーションルートなどの難しいルートを行くわけではない。あくまでも一般ルートだ。しかし、経験不足や無知、抑えきれない好奇心からとんでもなく間違った判断をしてしまい、怖い体験につながったことを今後の教訓にするためにも書き残す。
『アイスバーンでスリップ・逆走』 - 塩見岳
2009年2月、厳冬期の塩見岳に行った。
木曜日の夜、車で家を出発してから1時間くらい経って、うっかりマットを忘れてしまったことに気付いた。
しかし、すでに家に戻れる距離ではなく、ドンキホーテで代用品を買うしかなかったが、真冬なのでキャンプ用品売り場にもマットはなかった。
しかたなく購入したのは、お風呂の上に浮かべてお湯の温度低下を防ぐアルミ箔の貼られた超薄いマットみたいなもの。というか風呂のふた。
厳冬期のテント泊で実質マットなしとなってしまった。
塩川小屋ルートであったが、雪が細かい発布スチロールのようでとにかくサラサラしており、前に進みにくい。
ここ数日間は人が入った気配、トレースは一切ない。
雪が深くなり、膝上から腰、しまいには泳ぐようになってしまった。TABBSのスノーシューは高性能だがここまでサラサラの雪だと効果がない。
結局、9時間以上歩いた(途中泳いだ)が、三伏峠までも辿り着けず日没になってしまった。
疲労が激しく、もう三伏峠まで行く力はなかったので、雪で埋められている登山道に
大きな穴を掘り、そこにテントとツェルトを張った。
サンダルとテヌグイがゴアライトの二人用に折り重なるように寝て、僕はツェルトで寝た。雪を掘り下げているので風は感じず、気温もマイナス6度とそれ程でもないが、下からくる冷気が凄い。何しろ薄いアルミ箔のようなものだけなので。
しかし人間寝れるものである。ぐっすりと熟睡して朝を迎えた。
これをビバークと呼ぶのかどうかわからないが、とにかくこの時の塩見は完璧に敗退した。
この塩見山行で出会った登山者は、下山中にすれ違った単独の男性一人だけであった。この男性も行けるところまで行って駄目ならすぐ引き返すと言っていた。
実は、本当の恐怖はこの深い雪でも寒さでもない。
木曜日の夜中、塩川小屋に向かう真っ暗な林道で、サンダルの四輪駆動車はチェーンなしで快調に進んでいたが、急坂の途中で突然タイヤが空回りしたと思ったら、後ろ向きにそのままずるずると坂を下り始めたのだ。
アクセルを踏もうが、ブレーキをかけようが、何をしても止まらず、スピードは加速するばかり。
サンダルの運転席側は山、僕の座っている助手席側は田んぼになっていて、少しでも車の向きが変わると大事故になる。
本当に生きた心地がしなかった。
無言で何もできずに体が固まり、祈るだけだった。
結局、坂の下まで150メートルくらいバックで下ったが、途中は30~40kmくらいのスピードになっていたと思う。
心臓が止まりそうな恐怖だった。
しかし、テヌグイは後ろの席で爆睡していて何も知らない。
幸せな男である。
(写真は恐怖の逆走の翌朝撮影した、僕らが後ろ向きに下ったアイスバーン)
冬の山ではマットを忘れるなということと、林道を行く時はチェーンを早め早めに装着しないと死ぬ思いをするということを学んだ。(泣)
