山に関連する本を見つけると、大抵読みたくなる。
紀行文、エッセイ、小説も好きだし、ガイドブックだって面白い。
読書の秋なので、今まで読んだ中で面白かったものを紹介したい。
⑪ 『ミニヤコンカ奇跡の生還』
山と渓谷社 著者:松田 宏也
ハエだ。ハエが編隊をなして僕にたかってくるのだった。足を見ると、靴下が破れて、真っ白にふやけた甲が露出してる。その上に何匹ものハエがたかっている。感覚がないため、痛くもなんともない。
「腐っちまったんだな.....」
この本は僕が読んだ最初の山関連の本だ。
そのためなのかどうかわからないが、その後、この本を超える衝撃はない。
著者の松田さんと山岳会の先輩である菅原信さんの二人は、ミニヤコンカのアタックに失敗し、悪天候の中、頂上直下から壮絶な下山を開始する。
その中で菅原さんは死に、松田さんは体重が半分の32キロになるという想像を絶する地獄の中から生きて生還するのである。手の指すべてと両膝から下を失う凍傷を負って。
松田さんを生きて生還させた要因の一つは、『確実に二人は死んでしまったと思い込み』、食べられる食料、コンロなど生きるためのものをすべて持ち去り、難所に張ったフィックスロープまでも解いて持っていってしまった仲間に対する復讐心だ。
「こんなみじめな殺され方されてたまるか!」と火のような憤りで使いものにならない指で絶壁を下りるのある。
しかし、病室に泣きながら入ってきた仲間に対して、「これ以上なにも失いたくない」と許すのである。
僕はこの本で、人間の気持ちという意味で3つのことに興味を覚えた。
一つは前述の気持ちの変化、振れ幅である。
二つ目は、遭難している中で、松田さんがそれまで「マコトさん」と呼んでいた菅原さんを、オマエ、スガワラと呼び捨てになっていく場面だ。
極限状態の中では先輩も後輩もないのである。
そして三つ目は、それでも「僕はまた登る」という松田さんの気持ちの強さ、前向きさである。
本を手に取ると裏表紙に写真が掲載されているのですぐにわかるのだが、膝から下が義足で手の指は一本もない。
それでも山に登るというのである。
菅原さんの分も生きるというその気持ちに感動し、勇気付けられるのである。
