しかし、12月25日からの大寒波で日光周辺も26日だけで50~70センチの積雪が見込まれると報道があったので予定通り男体山に行くことにした。
27日当日はテヌグイがうちに四時半に迎えに来て、サンダルを五時にピックアップする予定になっていたが、オンスケジュールでスタートできた。
東北道で車二台の衝突事故がすぐ先で発生し、渋滞で進まない自分たちを慌ただしくパトカー、救急車、レッカー車などが追い抜いて行った。事故の車二台は、乗っていた方々の安否が気遣われるほど大破しており、はからずも命ということを考えさせられるシーンであった。この事故といろは坂の積雪チェーン規制のため予定より時間がかかり、登山口の二荒山神社中宮に着いたのは9時になってしまった。
雪はそれほど強く降っていないが、風が強くガスもかかっていて目の前の中禅寺湖は視界が悪い。
今日は一日中天気が悪い、ということが強く伝わってくる景色だ。
携帯で検索したピンポイント天気予報では、中禅寺湖の現在の天候は、気温マイナス9度、北西の風10メートルとなっている。
暴風雪注意報も出ている。前日に見た天気予報でも最大20メートルの風になると言っていた。
しかし僕ら三人は誰も止めようとは口にしない。
準備を整え9時半に駐車場を出発した。
二荒山神社の山門の向こう側に出る道があり、地元の人なら誰でも知っているため教えてもらって登ることができるという聞いていたが、この日は天候が悪いせいか誰も歩いていない。お店もホテルも閉まっており誰にも聞くことができない。しかたがないので自分たちで探すことにした。
中宮を左周りで裏側に回り登山道を探したが、それらしい道はなく、幅10メートル位の谷を渡らなければならない場所に出くわしたりして、登山道を見つけるのに30分かかった。もしもう少し時間がかかっていたら、登頂をあきらめ、華厳滝を観光して温泉でゆっくりしていたかもしれない。そんな時間であり天候であった。
登山道はイコール参道であるが、一合目までは階段になっている。こんな天候では他に登山者はいないと思っていたが、100メートル先を男性二人組が登っていて頼もしい。
なかなか二合目が現れず焦れていると、林道に出た所が三合目だった。前の二人組は避難小屋で休憩している。見るとこの先すぐにキツイ斜面があるのでアイゼンを装着することにした。二人組も装着しているようだ。
二人組よりも早くスタートした。思ったよりもキツイ斜面をもがくように登り、正しいと思われる道を進むが、二人組の姿が全く見えない。僕らのスピードが早過ぎるのか?
四合目を過ぎ、傾斜が再度キツクなったところで二人組が前にいることが判った。
どうやら僕らは正しくない道を進んでいていつの間にか抜かれたようだ。
日没の時間を考えると12時までに五合目を通過しなければならないと決めていたが、予定の時間を過ぎてしまっていた。
引き返すかどうか難しい判断だ。やはりせっかく来たのだからという気持ちが勝ってしまう。
いつものように無駄な荷物をたくさん背負っているので疲れも出てきた。
なぜスコップなんか持って来てしまったのか?
12月の男体山で雪洞ビバークなんてありえないのに。
まだまだ知識と経験が不足していて無駄な動きが多いと反省しながらの登山となった。
風は強いのであろうが、樹林帯なのであまり感じない。気温はマイナス5度くらいか。中禅寺湖の湖畔の方が寒かった気がする。
七合目の小屋の脇で風雪をしのぎながら、この先へ進むか引き返すか検討した。
新雪の中、疲れと寒さで気持ちは折れかかっているが、もう少し進んでみようという結論になった。
なかなか次の八合目が来ない。風はますます強まっている。
八合目で最後の検討に入った。すでに午後2時15分。
この先進むのであれば、ヘッドランプで下りることになるだろう。しかし、ここでもやはり頂きを踏みたいという結論になった。
九合目を越え、いよいよ樹林帯が終わり、吹きさらしの稜線になった。
左側から吹き付ける風は信じられないほど強く、耐風姿勢でも地面から引きは
がされそうになる。先頭を行くサンダルがなんとか岩陰まで進み風を凌いでい
る。
僕はほとんど雪面にうつぶせになるくらい身体を低くしているが、それでも雪
まじりの風に浮き上がり、何度も吹っ飛ぶそうになる。たった数百メートルく
らい進むのにどれくらい時間がかかったのだろうか。
風のあまりの冷たさ、強さに皮膚の神経はもはや機能せず、何も感じなくなっ
たようだ。
何か建造物が見える。仏像も見える。
ようやく頂上だ。
記念写真を撮ったら早々に下山しよう。
体温で温めていたデジカメを取りだし、顔面が凍っているテヌグイに向けて、笑いながらシャッターを押した。
「一枚撮って」とテヌグイにカメラを渡す。
写真を撮ろうと僕を見たテヌグイが「ヤバい!顔が凍傷になってる」と叫んだ。
稜線に出て、左側から強烈な風に吹きさらされ続け、左が側の耳から頬にかけて凍傷になってしまっていた。
良く見るとサンダルの鼻もやられているようだ。
余計なものは沢山担いできたのに、肝心な目だし帽を持ってこなかったことを反省しながらの下山となった。
下りの稜線でもまた風に叩かれたが、凍傷の恐怖もあって一気に駆け下りた。
しかし、やはり途中で日没してしまった。
サンダルがヘッドランプを忘れたため、三人で2つのランプを使って真っ暗な雪道を慎重に下りた。
テヌグイと僕は無事に下りてこられたことを感謝し、二荒神社にお参りをした。
入山料もお賽銭の形でお支払いさせてもらった。
こうして悪天候の中の山行は終わった。
軽い凍傷にもなったが、強風の中、肌を晒すような失敗はもう二度としないだろう。
温泉に浸かりたいと思って中禅寺湖畔を探し回り、ようやく日帰り入浴OKという看板を見つけた。
看板に「天然温泉」と書いてあったが、温度が低く、あまりにも冷たい世界にいたからというのもあるかもしれないが、体がなかなか温まらない。
結局、体の芯は全然温かくならなかったが、僕らの気持は熱かった。
あの稜線で強風に吹かれた時、命の危険を感じ、また生きていることを感じた。
あの熱い思いはやはり山でしか味わえないものである。
開いているお店が全くなかったので、山バッジは入手できなかった。
東京に戻ってからネットでお土産屋さんを調べ、電話をかけまくってバッジを扱っていないか聞きまくったが、NOという回答が続いた。
20軒目くらいの電話でようやく、「お土産の店 なかむら」さんが「バッジありますよ」と言ってくださり、3つ送っていただいた。とても有難かった。
でも、登ったのは過酷な条件下の雪山だったので花の絵が付いていない男体山バッジが欲しくなり(笑)、結局自主作成することにした。

