何の気なしに見たけど不朽の名作なんだなこれ。

年老いた夫婦とその家族の数日間を描いた作品。



戦後間もなくの日本映画ってもの凄くいいわけではないけどもの凄くいいよね。
何この言い回しw

この作品には愛と悲哀が入り混じっている。
素敵な作品に巡り合えた事が嬉しいです。




















当時のよくある事をそのまま映画にした感じでストーリーに起伏はあまりないんだけどなんか見入っちゃう切ないお話でした。


東京の長男と長女に会いにいく老夫婦。
仕事で忙しくしている子供達は老夫婦にあまり構う事もできず、少し疎ましくすら思っていた。
二人を手厚くもてなしたのは戦争で亡くなった次男の嫁の紀子。
しかし紀子も毎日老夫婦といられるわけでもなく、長男と長女は両親を東京から更に熱海に旅行に行かせてしまう。

老夫婦はそれでも優しく笑い、熱海からすぐ引き返し田舎に帰っていく。
そしてすぐに長男、長女、紀子の元に電報が届く。
ハハ キトク…。



















僕この手の作品に弱いんですよね、ふるさととか学校4とか。
ずっと面倒を見てもらっていたはずの両親、しかし大人になった子供達にもそれぞれの生活がある。
子供達も両親に対して愛情が無いわけではないがどこか愛のない行動をとってしまう。

そんなの悲しいじゃない。
両親が訪ねてきてくれても仕事ばっかりになるとかそれを優しく見守る両親とか、切ないよね。

僕は現代に生まれた日本人だから実際の戦前戦後の事なんてわからないけど、日本からは戦後人情が消えていった気がする。

現代だけかと思っていたけどこの作品内でもそういうのが見えて、昭和だろうと平成・令和だろうと日本は大事な決定的な何かを少しずつ無くしていってしまったのだなぁと悲しい気持ちになってしまった。

極端に言えば日本人は金や豊かさを求めるばかりに人情を無くしてしまったのだと思う。
人情だけでなく今でもどんどん色んなものを無くしている。
僕は金金言ってるぐらいなら貧乏でもいいから(極貧はさすがにきついけど)人情だけは捨てたくないと思った。




















老夫婦は子供達に会えただけで満足そうだったけど見ている側としては物悲しい。
そこを救ってくれたのが紀子だった。
紀子は映画を見ている僕らの悲しい気持ちを和らげてくれる存在で愛に溢れていた。

後半になって長女から出た言葉も悲しいけど、やはり紀子の存在に救われた。




















そして笠智衆!
一見セリフ棒読みで演技があまり上手くない俳優さんに見えるがそうじゃあない。
あれがあの人の持ち味であり、その演技の奥深さは計り知れない何かがある。
どの作品も笠智衆は笠智衆なんだけどでもその役柄になりきってしまっている、現代の作品みたいにどれ見ても笠智衆じゃんとはならないんですよ。

笠智衆は父親役が多いけどどの父親も違った味が出ていて、それはもちろん演出や脚本のおかげもあるのだろうけど笠智衆だからできた演技なんだなと。
こういう親父いるよな、いそうだなって毎回思わせてくれる。



















大好きな役者さんが将来は笠智衆のような役者になりたいと言っていた意味が今になってわかった気がします。




















人によっては退屈だと思うかもしれない。
僕も誰にでも勧められる作品とは思わなかったけど、日本が忘れてしまったものを思い出させてくれる映画だと思った。


★★★★★★☆☆☆☆         6.6/10
 

現代映画にはもはや表現できない世界観だと思う。