布引ハーブ園句会
天空の花園 in autumn

2011年10月30日、神戸港は雨である。
石川達三の「蒼氓」をまねて書きたくなるような雨模様でした。天気予報も「今日は降ったり止んだり」。折りたたみの傘をバッグに入れて家を出ました。
秋時雨やめども海のまだ暗し だっくす(2)(数字は句会での得点)
お世話役のだっくすさんは、さくらさんと早々に布引ロープウェイ「夢風船」に乗り込み、句会場のハーブ園山頂へ。
遠き日の秋思こぼるる北野坂 さくら(3)
北野坂を上りながら、遠き日の淡い思い出に浸ったさくらさん、思わず出た「こぼるる」の言葉に、句会では「秋思ってこぼれるもの?」のツッコミ。
布引といえば中央市民病院でした。そして当時、さくらさんは看護学生。
わが青春布引にあり燗熱く さくら(4)
その後、中央市民病院は1981年にポートアイランドに新築移転し、いままたポーアイⅡ期に移りました。
市電石屋川線の廃止は1971年。煉瓦造りの布引車庫の辺から病院の前を抜け加納町へ下る路面電車のやかましかったことを思い出します。
山麓 登山道一歩より急天まで急 誓子
布引ロープウェイ乗り場の集合時刻は午前10時30分。
20分早く着くと、誰もいません。表に回ると、ひろひろさんが一人デッキでおくつろぎ。北野異人館への散策路を歩くと、水道局北野会館の上にひろがる茶畑のような緑地の上でした。神戸の街の美しさに思わず見とれます。
誰を待つこともなく過ぐ秋の暮 一風(2)
ロープウェイ乗り場に戻ると皆さんおそろい。
女性は、先発隊のだっくすさん、さくらさんの他に、つきひさん、どんぐりさん、りっこさんの5名。男性は、ひろひろさん、播町さん、弥太郎さん、英さん、一風さん、見水さんの6名。本日の参加者は11名。
蛸地蔵さんは日曜出勤、稲村さんは温泉へ、かをるさんはアメリカのお姉さんのもとへ旅行中、菊太郎さんは菊花展で多忙、今年の神戸ビエンナーレで準優勝を獲得したカメラマンのろまん亭さんも京都撮影旅行で欠席なので、今日は播町さんが写真撮影。
「わたしはね、仕事をしていないとね」と、つきひさん、近況報告をしつつ、「きょうは、楽しくて」。
経を読み心静かに秋の声 一風(1)
秋の声に聴き入っていた一風さん、「さあ、出発」と、ぞろぞろロープウェイに乗り込んでから、「しまった」。大事な傘を置いてきぼり。駅に連絡し、帰りに受け取ることに。
展望 滝川の中行く登山道なれば 誓子
天気のせいか客は少なく、ロープウェイ「夢風船」にゆったり3人ずつ乗ります。はじめの上昇は急です。「45度ないか」「ないない」。
ゴンドラの赤色の先秋の空 一風(2)
山陽新幹線「新神戸駅」ができたのは1972年。布引の滝の登り口が、ある日都会になり、やがて地下鉄駅や巨大ホテルができて賑わいました。
布引ハーブ園のオープンは震災前の1991年。今年は開園20周年です。
「夢風船」からは東神戸の明るい街並が一望。高層マンションが増えました。
薄紅葉布引の滝よぢれつつ つきひ(2)
真下を見れば、いくつかの滝は貯水池から続くよじれた白い布のようです。
さらしけむ甲斐もあるかな山姫のたつねて来つる布引の滝 藤原師実
布引の滝は、都に近かったので平安・鎌倉時代の歌人たちも訪れ、歌に詠みました。歌枕好きな芭蕉も「笈の小文」の旅のあと、滝に立ち寄っています。
秋あそぶ災害いずこ市が原 英
市が原も見えます。英さんは、1967年に水害のあった市が原を歩くハイキング客に目が行ったようです。
ゴンドラや秋登りつつハーブ園 ひろひろ(1)
空中散歩を楽しんでいると、ハーブ園が見えてきました。
秋天に夢風船の五分間 弥太郎(3)
コスモスの群落のうえロープウェイ 弥太郎(3)
秋のさわやかさいっぱいの佳句です。

風の丘 秋風や薄著の躰吹き通る 誓子
夢風船は、ハーブ園南端の風の丘駅で、一旦停止します。ドアが開き、気持ちいい秋風。
秋風とハーブの香も客ロープウェイ さくら(1)
ひろひろさん、どんぐりさん、播町さんは、風の丘駅で降りて、ハーブ園を下から全部見よう、という計画です。
秋深むハーブの園へ迷ひ込み どんぐり(3)
ハーブ園名前カタカナ秋時雨 ひろひろ(2)
ひろひろさん、ハーブの名前がカタカナばかりなので食傷気味。
山頂 つきぬけて天上の紺曼珠沙華 誓子
メンバーの大半は、終点の山頂駅で降りて、句会場の確認。展望レストハウスは、レストランとショップだけかと思っていましたが、じっくり見ると、2階に本日の句会場の会議室「ローズマリールーム」もあり、ヨーロッパの古城のような、なかなか凝った建物です。
ハーブ園桜紅葉の句会場 つきひ(1)
わが家にも這わせてみたし蔦紅葉 だっくす(1)
開園20年を経て、樹木も庭の草花も建物となじんで、風格も感じられます。
「ローズマリールーム」で句会準備に忙しいだっくすさんとさくらさんに挨拶し、各自思い思いに吟行へ。
ハーブ園抜けて爽やか摩耶の尾根 見水
尾根結ぶ高圧線や冬節電 ひろひろ(1)
展望レストハウスの奥の柵の外には、摩耶山の尾根に向かう登山道があります。昔は「天狗道」をよく歩きましたが、その道でしょうか。
ひろひろさんは尾根や高圧線を眺めて、電力需要の心配。
ハーブよく匂ふ湿度と秋冷と つきひ(3)
「湿度」がいいですね、科学的で。雨模様だけど、今は止んで曇り空。つきひさんの好きな天気です。ちょっとひんやりして湿度があるから、今日はよく匂います。
行楽の秋に静かなハーブの香 一風
山歩きの好きな一風さん、花園に迷い込んだ今日の実感かな。
展望レストハウスの中庭には、ひっそりたたずむ落ち着いた英国風のハーブガーデンと、魚と遊ぶ子どもの石像の噴水を真ん中に配置した南欧風のバラ園があります。
秋薔薇雨粒ふふみ静かなり どんぐり(1)
バラ園でできた、お得意の「ふふみ(含み)」の句。句会では、つきひさんが、どんぐりさんの代表作の一つ「中年の女三人秋薔薇」の句を紹介。
吸い込んでハーブの香りひとりじめ 見水(2)
バラの香や丘に遊びし幼き日 見水
バラそれぞれに香りの説明案内があり、香りの違いにびっくり。香りを吸い込みすぎて、季語も吸い込んで(?)しまいました。バラの香で思い出したのは、半世紀以上前の野バラが咲くジェームス山。
句帳を手に悩んでいると、女性二人連れにカメラのシャッターを頼まれました。お二人を中心にバラ園と古城を入れてパチリ。

ハーブガーデン 山窪は蜜柑の花の匂ひ壺 誓子
広くて見どころの多いハーブ園を吟行します。
夜ならば一千万弗花野ゆく 播町
登り吐息降り溜め息山粧ふ 播町(1)
神戸港を望む雄大な山の自然に、心が開放されます。
野菊咲く港が見える丘下る 弥太郎(3)
秋冷や海光反射ハーブ園 弥太郎(1)
細い茎捩れ揺れてる秋桜 弥太郎
今を盛りにコスモスが咲き誇っています。
コスモスの濃淡互いを引き立てる だっくす
秋風にチェリーセージのすぐ揺れて だっくす(1)
サクランボに似た甘い香りのチェリーセージが気に入ったよう。
枯葉散るメタセコイアは知らんぷり りっこ(2)
秋時雨とりどりの花ふるわせて りっこ
観察眼と表現力、いつもながら的確です。
秋茄子の写真撮る娘(こ)に父母の微笑(えみ) 一風(3)
お得意の家族愛にあふれる句です。カップルや家族連れ、いろいろな人たちが、ハーブ園を思い思いに楽しんでいます。
トマトそばマリーゴールド虫さける 英
サフランのかれんな花や秋深し 英
ハーブ園いつも見ていた藍の花 英
英さんは、ハーブガイドツアーの説明もヒントに句づくり。カラフルな句ができました。

ガーデンテラス 巨き船出でゆき蜃気楼となる 誓子
ハーブ園の散策も1時間経過し、締切時刻まであと2時間。
風の丘駅と山頂駅の中間地点、ガーデンテラスになんとなく集まり、神戸港を見下ろします。
やや色づいた谷間に、第1突堤から第4突堤、ポーアイと空港島、メリケンパークやハーバーランドがよく見えます。作業船は日曜日で停泊したままです。
木製のデッキに並び秋惜む つきひ(3)
空港も沖行く船も霧に消ゆ りっこ(3)
「秋の霧は春の靄(もや)と同じ。海の霧は「じり」といいます」
句会で、つきひさんの補足解説。
わが神戸港目交(まなかい)に小鳥鳴く どんぐり(1)
ハーブ嗅ぎ港眼下に秋の汗 ひろひろ(1)
ガーデンテラスには、オープンカフェもあって、何組か食事をしています。売店もあまり混んでいないし、軽くすますならここで、と全員一致。
メニューは、薬膳カレーが人気ですが、ハーブバーガーもあります。
秋の日やハーブよしなおビーフよし 見水
バーガーにはポテトチップスも添えられ、ボリューム満点でした。
食べ終えた頃、上から播町さんの声。売店の2階はミントカフェで、播町さんらも薬膳カレーで昼食中。
秋思ありカフェテラスにハーブ茶を 播町(1)
ハーブ茶でなく、泡の飲み物でした。
グァバの実を味わい句会はじまりぬ りっこ
その頃、南国のフルーツを味わった方もいました。
ガーデンテラスの一角に足湯があります。本日のハーブはローズマリー。
セーターの娘ら足湯せるハーブ園 つきひ
爽やかや足喜びしハーブの湯 さくら
さくらさん、足湯も満喫されたようです。ハーブを、目・鼻・舌・耳・足(?)の五感で味わい、癒しとパワーがぐんぐん上昇。
景色秋句友下向きはしるペン ひろひろ
俳句5句提出は、5枚のスケッチを描いて提出するようなもの。締切時刻が迫ってくるとあせります。今日一日の感動の言葉を選びます。
秋草の名一つ覚え一つ買ふ 播町(4)
句会場はショップの2階。播町さん、ここで最後の1句をキャッチ。

ローズマリー 懸崖菊両翼ありて飛ばんとす 誓子
午後1時30分が出句しめきり時刻。展望レストハウス2階のローズマリールームに全員集合。にぎやかに句会のはじまりです。
提出された短冊をバラし、手分けして清書。選句表を完成させ、全員にコピーを配付。ついでに飲み物の買い出しも。
「ハーブティーやな」とこだわりましたが、ペットボトルのハーブティーはなく、コーヒーもない。紅茶ならある、と紅茶で。
午後1時50分、つきひさんとだっくすさんの進行で句会が始まりました。
まず、今日はたっぷり20分間かけて各自、他のメンバーの句を選びます。8句選んで、特選句1句は2点、その他7句は各1点、と各人の持ち点は計9点。参加者11名の総点数99点の争奪戦です。
今回の新趣向は、11名がそれぞれ特選句(◎)に選んだ句に、賞品をプレゼントをしようというもの(もっともすべて百均で調達したものですが)。もしその句を2人が特選句に選べば賞品は2つです。
見事特選句に選ばれたのは、次の8句でした。
おり立ちて木の実草の実風の丘 どんぐり(6)◎◎
素敵な景色が浮かびます。語呂がいい。高得点句です。
冬薔薇の誇り高さや散りてなほ りっこ(2)◎
バラは散っても高貴であってほしい。同感。
ハーブの香満ちたる園に秋惜しむ だっくす(5)◎
ハーブの癒しとパワーが「満ち」、秋惜しむ、がいい。
秋雨にローズマリーのさえる青 英(2)◎
シンプルに言い切ったのがいい。
ハーブ茶やシンプルライフインオータム 播町(5)◎◎
おしゃれな句。すべて英語でなくちょっと残したのがいい。
見はるかす神戸空港もみじ越し さくら(3)◎
遠くのものと近くのもの、遠近感のある句。
秋の雨静かに海に浮かぶ街 見水(10)◎◎
本日ダントツの最高得点句。ハーブ園でから眺める海は雨のけぶり、かつての華やかな衣装をまとったポートアイランドは静かな街のたたずまいでした。
秋深むローズマリーの足湯かな どんぐり(4)◎
素敵な癒しの句です。どんぐりさんは2句で◎3つを獲得。
以上で本日の句のすべての獲得点数が決まりました。
総点数99点の行方は、女性軍5名で51点、男性軍6名で48点。今回も女性軍勝利。どんぐりさんは出句した5句すべて得点のパーフェクトでした。

表彰式です。各賞と受賞者は、次のとおりです。
1位 優勝 どんぐり(15点) はちみつ+ハーブティー
2位 準優勝 見水 (12点) ハーブ枕
3位 殊勲賞 さくら (11点) ハーブの足枕
3位 敢闘賞 播町 (11点) ボトルスパイス+ハーブティー
5位 技能賞 弥太郎 (10点) はちみつ
6位 布引賞 つきひ ( 9点) ハーブ枕(小)
6位 布引賞 だっくす( 9点) ハーブ枕(小)
8位 布引賞 一風 ( 8点) ハーブ枕(小)
9位 逆引技能賞 りっこ ( 7点) ハーブクッキー
10位 逆引敢闘賞 ひろひろ( 5点) ハーブティー+ポーチ
11位 逆引殊勲賞 英 ( 2点) ハーブパイ
予定どおり午後4時30分に句会終了。

ザ・テラス 秋祭鬼面をかぶり心も鬼 誓子
句会を終え、お待ちかねの反省会兼懇親会。会場はさくらさんの「わが青春の布引」の跡地に建つANAクラウンプラザホテル4階「ザ・テラス」。食事はビュッフェスタイル(バイキング)。時間は午後5時30分~午後7時30分の2時間に限定されています。
10月31日のハロウィン前日なので、ウエイターやウエイトレスはカボチャ色の衣装でサービス。家族連れで満席です。
デザートもホテルらしく豪華に並べていますが、まずメインディッシュの肉料理や寿司やサラダを皿一杯に盛って席へ。グラスビール一杯1000円と聞いて、急遽、飲み放題に変更。平均年齢六十ン歳のシニアの集まりとは思えません。
「あ、忘れてた。優勝者どんぐりさん、一言!」
どんぐりさんの喜びの言葉、お聞きしました。どんぐりさんの優勝は須磨句会以来2度目です。
「カボチャがおいしい」「このカツはだめ」「チョコレートの噴水のデザート面白そうやなあ」…料理の情報交換をしながら懇親会は続き、午後7時30分でお開き。五感すべてが満たされた秋の休日でした。
雨も降りだし、季節は秋から冬へ向かっています。

海に出て木枯帰るところなし 誓子
お世話いただいた、だっくすさん、さくらさんに心から感謝。
そして、次回、来春の句会に期待。これから寒くなりますが、皆さんご健康で。少々早いですが、よいお年を。
2011.11 文/mimizu 写真/bantyo,