
少年や六十年後の春の如し 耕衣
有馬温泉にはそれぞれに思い出があります。
炭酸泉を飲んで、鼓ヶ滝で記念写真を撮ってもらった子供の日の思い出。親になってわが子とヘルスセンターの金泉・銀泉で遊び、にじますを釣って唐揚で食べた思い出…。
つきひさんと一風さんは若い日に何度も六甲越えハイキングをして温泉で汗を流した記憶が鮮明に蘇るようです。
今日は旧知の連衆との吟行。有馬の吟行は8年を経て2回目です。
8年前は、初めて句会で顔を合わせた緊張感もあって、
花の坂人形筆は行儀よし さくら
重さうに八重桜活け有馬籠 つきひ
金泉に春愁の身を沈めをり だっくす
など、心に残る名句がたくさん生まれました。
今回はそれら8年前の懐かしい句をサブタイトルに添えました。
若桜 春なれば心さわぐや出合いあり 蛸地蔵
集合は4月4日(日)午前11時、神戸電鉄・有馬温泉駅。
酔うものに花、湯、優勝、まさかの恋 播町③(数字は句会獲得点数)
有馬まで2時間以上かかる播町さんは、朝からそわそわ。「酔うもの」は清少納言の枕草子の発想で、しかも「まさか」という俳句に似合わない言葉が浮かんだと自慢の句でしたが、支持少数でした。
真っ先に朝日届きし桜かな つきひ①
満開の桜の駅を始点とす つきひ②
つきひさんは明石から出発。「桜の駅」は眼前に明石公園が広がる明石駅でした。
老ひしかな少し厚手の花衣 だっくす②
参加者は、男性が弥太郎・一風・播町・蛸地蔵・見水・英・ろまん亭の7名、女性がつきひ・りっこ・さくら・だっくすの4名の11名。気温が低いので、全員少し着込んできました。
吟行して目に触れたものを詠む「嘱目句会」の各自5句の出句は、午後2時が締め切り。句会場は今も人気の高い「かんぽの宿有馬」です。
幹事のだっくすさんは、前もって賞品を購入するのにひとりでは無理と、さくらさんにお手伝いを依頼。さくらさんは快く引き受けた上、ご主人に車で送迎までしていただいたとのこと。
有馬は絶好の日和、どこもかしこも若桜が咲き誇っています。
若桜花に艶あり宵を待つ 蛸地蔵①
有馬川 ねね像に挨拶もして桜狩り さくら
有馬温泉駅から、有馬川沿いの「さくらの小径」を歩きます。川に桜の枝が張り出し、桜のトンネルをくぐっているよう。
春昼の湯らりめぐりの御一行 だっくす②
有馬川しだれ桜と水の音 英
春日浴び有馬川底音高し 弥太郎
川の水は滝のように勢いよく、マイナスイオンもたっぷりで気分も爽快です。橋をわたると区役所有馬連絡所と有馬交番が並んでいます。有馬交番の看板は、なんと「湯けむり交番」。ドラマのロケ地のセットのようで、さすが有馬。
ふるさとはすぐそこだよと山桜 ろまん亭
桜咲き母は達者か有馬より ろまん亭③
有馬から目と鼻の先の長尾に実家のあるろまん亭さん、ここまで来てるんやけどな、と少し後悔。
ろまん亭さん、今日も吟行の専属カメラマン。太閤橋で集合写真を狙います。いい具合にお花見に来た知り合いの仲良しご夫婦が通りかかり、シャッターをお願い。ねね橋では舞鶴から来たかわいいカップルとシャッターの押し合いっこをしました。
カップルが桜の下でVサイン 一風②
糸桜 源泉の香りてきたる木の芽風 どんぐり
善福寺の石段を登り、糸桜(しだれ桜)の古木にご挨拶。
老い桜若桜(わかさ)を見おろす石段や 蛸地蔵①
糸ざくらのどかにわたる有馬山 英
黒々と苔むす幹や大桜 さくら②
善福寺の境内からは有馬の温泉街が一望でき、絶好の俳句スポット。皆さん浮かんだ句をメモします。
苔むすもかわいく咲いて糸桜 播町②
幹古りて花の清しき(すがしき)大樹かな りっこ②
見えねども行基利久や花の影 りっこ③
糸桜の下には、温泉寺を建立した行基や太閤の有馬茶会を仕切った利久(利休)の供養塔がひっそりと佇んでいます。
花見客睨みつけてる鬼瓦 見水①
にぎやかな「太閤通」を進むと、大勢の人だかり。有馬の花見客相手に猿の芸を見せようと、近くのフルーツフラワーパークから若い猿回し芸人が出張。
お猿さん、長い前口上の間、妙にえらそうにふんぞりかえっている。太閤さんの生まれ変わりだったかも。
猿回し見ている人に春の風 一風②
ここには1回100円のレトロな有馬ループバスのバス停があります。
湯宿へのバス待つ木椅子花の塵 播町①
いよいよ、有馬玩具博物館や食事処、土産店、有馬筆・有馬籠の工房などが軒を並べる「湯本坂」の界隈に足を向けます。 
湯本坂 湯の坂の春の匂ひのせんべ食ふ 播町
湯本坂の登り口の正面に、金泉の外湯「金の湯」があります。
飲泉があるので、備え付けのコップで一口。なまぬるく少し苦くてしょっぱいような味。
金の湯を一口含み春の坂 見水④
時計を見ればもう昼、歩き回っているので腹ペコ。金の湯を飲んだだけでは元気がでるはずもなく食堂を探すと、鳥専門店のようだが「有喜屋」の看板。ゾロゾロッと入り、分かれて座って定食とビールを注文。ビールで酔う前に句を作っておこうと、各自無言でまとめます。静か。店の人は変な集団だと思ったでしょう。
外は春だけど静かな昼ごはん 一風②
播町さんはこの句に二重丸。作者の一風さんの真意はわかりませんが、「静かな昼ごはん」がいろいろな想像をかきたて、「これはきっと一風さんの代表作になる」と断言。
ビールでほろ酔いになって定食を食べ終え、ふと手元を見れば、ペーパータオルの入ったビニール袋にも桜の絵が。
食堂のおしぼり袋も桜かな 見水①
店を出ると、「金の湯」の足湯に大勢の人たちが足を投げ出しています。
足湯してねねになりきる花の鬱(うつ) 播町②
湯本坂を上り、天神泉源へ。 
天神泉源 つばくろの泉源の湯にかすめ飛び うしを
春風に湯煙の先薄く消え 弥太郎①
春の空泉源白く白く立つ さくら①
温泉寺濃淡のしだれ桜の揺れ交はす つきひ
凛とした風情の温泉寺、極楽寺で桜見物。
ここのしだれ桜はまだ。ソメイヨシノはほとんど散っておらず、健気に咲いて清々しい。
半眼で今年の花はと薬師像 蛸地蔵③
中には、鳥についばまれたのか、散ってゆく花びらも。
ひとひらは脱力系として落花 播町③
アラカンを過ぎて愛(め)でるは散るさくら ろまん亭
「アラカンって嵐寛寿郎のことですか」
「まさか」
「アラウンド還暦、約60歳のことですよ」
(句会では、こんな佳句に全員が1点も入れないなんて、とその不明を詫びて、のちにこの句にスペシャル賞が与えられました)
「銀の湯」を横目に「ねがい坂」を上がり、「タンサン坂」を上がって、懐かしい炭酸泉源公園へ。このあたりまで登って来ると観光客も少なく、ハイキングで森林浴をしている気分。
炭酸泉源 手づからで飲む炭酸の遠き春 ろまん亭
炭酸の泡を見たくて泉源に立ち寄りましたが、泡は湧いておらず、見られませんでした。隣に炭酸泉の飲み口を設置しているので、交替で味見。金泉よりは飲みやすい感じです。
前回、季重なりの指摘も受けましたが、「少年になって炭酸水の夏(播町)」の句も生まれました。
虫地獄 振り返り一句誘わん初音かな 楽水
炭酸泉源公園の坂を登りきると車の行き交う「こぶし道」。句会場のかんぽの宿まではすぐ。時間に余裕があるのがうれしい。のんびり歩きます。
有馬みち武庫の山なみ木の芽まだ 英
一風さんが「この先に炭酸煎餅を作っている店があるので買いに行く」というので同行。六甲ハイキングコース(魚屋道・ととやみち)の登り口に、つきひさんの姿。ここはかつて炭酸ガスが噴き出していた鳥地獄・虫地獄の場所です。
落椿今は名のみの虫地獄 つきひ②
囀り(さえずり)や鳥虫地獄谷深し りっこ
「炭酸煎餅、私の分も買ってきて」と一風さん、つきひさんに頼まれます。
ありました。湯乃花堂本舗。こんなとこにあったんですね。車で通ると見落としそう。ポリ袋の簡易包装なので安い。黒ごまや青のりの炭酸煎餅もあるのでつい買ってしまいます。一風さんは「これもうまいんやで」と一袋100円の割れ煎餅も。
春愁を鼓ヶ滝に置いてきし だっくす①
だっくすさんはマイナスイオン最高値の鼓ヶ滝まで足を延ばしたつもりで作ったようです。今回も行けなかったなと思いながら、かんぽの宿の句会場に入ります。

花句会 風も樹もミミズもボッティチェリの春 見水
午後2時、出句締め切り。11名5句ずつ提出された全55句を、順不同・作者不明で分担して清書し、選句表を作ってコピーします。
その間、つきひさんが、神戸花物語2010イベントの俳句募集に投句し、受賞した句を紹介。
つきひさんの「物言はぬ花木と語り寒肥す」が入選。
どんぐりさんの「注射器で水遣る盆栽梅ふふむ」が佳作。
おふたりの歩んだ職業が句にもしっかり共鳴しているようです。おめでとうございます。
つきひさん、次に「この句誰の句かわかる?」と俳句を2つ紹介して謎かけ。
意図が不明なので、誰か有名人の句かなと思っていたら、本日欠席のひろひろさんの句。ひろひろさん、本格的に俳句に目覚め、つきひ師匠のもとに日々作った句を送り、めきめき腕を上げているとのこと。次回の句会が恐ろしい。
午後2時30分、句会が始まりました。
今回の新趣向は、参加者全員が「春」を入れた俳句を1句作って幹事のだっくすさんに送り、書家のりっこさんにそれをあらかじめ短冊に仕上げていただく「短冊句会」。そのりっこさん書の短冊がお土産になるというもの。都合がつかず不参加の稲村さんとひろひろさんの短冊も加わって13句。作者を伏せた句を、各自2句選んで投票し、得点を競います。しかし、これは票が割れました。
雨ごとにつぼみふくらみ春は来ぬ 稲村①
― 美しい句です。
裏六甲すこし遅れて春の色 だっくす②
― 裏六甲の住人の作でした。
幼子のはしゃぐ姿や城の春 一風
― 実はかみさんの作です。
かなしみを燃やし尽していまは春 見水③
― 森進一「襟裳岬」の何もない春から連想。(作者)
距離おきてまた寄り添ひて春の宵 さくら③
― 色っぽい句で、色々想像させてくれるので得票。
来る春に想いそれぞれ街歩き 蛸地蔵①
― 街を歩いている人を見て浮かんだ句です。(作者)
春昼のノンステップバス客ふたり りっこ②
― 実は私と敬老パスの客の二人でした。(作者)
沈丁花隣近所に春配る ひろひろ①
― 沈丁花の漂う香り、確かにそんな感じがします。
春時雨ちひさな寅さん地蔵にも つきひ③
― 震災直後来てくれたフーテンの寅さんの像が新長田駅にあります。
雨はかからないけど、かかったら面白いなと想像して。(作者)
春なのに春恋しい雪の朝 英②
― 暑くなったり寒くなったり今年の春の感じがよく出ています。
中七の「春恋しい」が字たらずなのが惜しい。
春彼岸墓地から望む瀬戸の海 弥太郎②
― 海を眺めながらお墓参りする春の明るさがよく出ています。
彼岸と墓地はイメージが重なるのでご一考を。
みみたぶもまぶたもタブー春の闇 播町②
―たぶ・ぶた・タブと似た言葉をダブらせたのがミソ。過去の句に
「尼寺やうしろのしゃうめん春の闇」の句あり。(作者)
山こぶし春は有馬や里さくら ろまん亭
―いかにも有馬。こぶし・春・さくら、季語が3つ重なっているとの指摘。
3点句がさくらさん、見水さん、つきひさんの3句あったため、ジャンケンでつきひさんが優勝。ところが嘱目句会でもつきひさんに票が集まったため、賞品を辞退、高級焼酎は短冊を書いてくださったりっこさんに感謝をこめて。

新趣向の短冊句会の次は、恒例の嘱目句会です。
コピーした選句表を全員に配付。各人10分間で他のメンバーの句を、今回は6句選び、うち1句を特選句として2点に換算するルール。総点数77点の争奪戦です。
各人選句を終え、つきひさん進行で選句の発表。
獲得点数の結果は次のとおりでした。
優勝=つきひさん・15点
2位=見水さん・12点
3位=播町さん・11点
4位=だっくすさん・10点
5位=さくらさん・8点
………
総点数77点の行方は、女性軍4名で38点、男性軍7名で39点。いつものごとく女性軍が健闘。出句した5句すべてが得点するパーフェクトは、播町さんお一人でした。
高得点句を紹介します。
見下ろして見上げて花の有馬かな つきひ⑩
参加者8名が選んだ断トツ10点獲得の句。坂を登りながら桜を楽しんだ気持ちが素直に表現され、 圧倒的な共感を得ました。
春うらら湯けむり交番今日は閑(ひま) 見水⑥
有馬交番の「湯けむり交番」の看板にはびっくりしましたが、有馬散策の人たちのマナーはよく、今日はお巡りさんの出番はなさそう。
春風や前置き長き猿の芸 だっくす⑤
太閤通での猿回し、前口上が長く、なかなか猿の芸は始まらない。それでものんびり見守っている観客にさわやかな春の風。
ゆるやかに金の湯に解く花疲れ さくら⑤
句会が終わればかんぽの宿自慢の金泉が待っています。桜狩りを堪能した心身を温泉で解き放つ。なんという贅沢。
花の湯 金泉を掬い春光砕きけり つきひ
午後4時30分、予定どおり句会が終了。1時間の温泉タイム。男女それぞれにかんぽの宿のタオルを持って大浴場へ。自慢の金泉に浸かりました。温泉大好きの一風さん、1時間では物足りなかったそうです。
湯あがりの頬艶やかに春の風 弥太郎①
歌謡曲の歌詞からいただいたとか。近江俊郎の湯の町エレジーではなく、フランク永井の歌。博覧強記の弥太郎さん、手品師のように引き出しから何でも出てきます。
花の宴 馬場さんの一蹴り千本桜散る 播町
好天にめぐまれたお花見、句会、温泉の一日が終わり、後は宴会の始まりを待つばかり。
その前に表彰式です。
今日の句会の各賞と受賞者・賞品は、次のとおりです。
嘱目の部
優勝・金の湯賞 つきひさん 黒豆昆布&金泉焼
準優勝・銀の湯賞 見水さん 神戸ワイン(有馬)
有馬記念・殊勲賞 播町さん 日本酒(有馬桜)
有馬記念・敢闘賞 だっくすさん 炭酸煎餅(ミックス)
有馬記念・技能賞 さくらさん 金泉焼
I LOVE A 有馬ねねの湯賞 一風さん 黒豆炭酸煎餅
I LOVE A 有馬ねねの湯賞 蛸地蔵さん 黒豆炭酸煎餅
I LOVE A 有馬ねねの湯賞 りっこさん 黒豆炭酸煎餅
逆引き有馬記念・技能賞 ろまん亭さん 炭酸煎餅(黒ゴマ・青のり)
逆引き有馬記念・敢闘賞 弥太郎さん 餅菓子(春・彩かさね)
逆引き有馬記念・殊勲賞 英さん 煎餅(春の色・桜の音)
全員に賞と賞品が当たってニコニコ。乾杯して、大宴会です。
次回こそ、この夏にしたい。写真を見て即興で俳句を作る「写俳」にチャレンジしよう。写真はろまん亭さんにあらかじめ撮ってもらって、幹事は英さん…。あっという間に、次回の計画が決まりました。
花に暮(くれ)て我家(わがいえ)遠き野道かな 蕪村
有馬だけでは飲み足りず、神鉄電車終点の新開地で数名が寄って二次会を楽しんだ、と後日お聞きしました。
お世話いただいただっくすさん、さくらさん、書のりっこさん、写真と現地ガイドのろまん亭さんに心から感謝。
そして、次回の句会に期待。

2010.4 写真/ろまん亭,文/見水