
昨年からのコロナ禍で、メンバーが顔を合わさないリモート句会が4回続きました。
メンバー全員がワクチン接種済で、コロナ禍の第5波が収まっていることから、ブレークスルー感染や新たな変異株を懸念しつつ、密を避け、人めを避けて、2年ぶりの吟行句会です。
吟行先は、北神戸の山里・淡河本町。4年前に復元された江戸時代の建物「淡河宿本陣跡」の座敷を1日借り切ります。
山里は冬ぞさびしさまさりける人めも草も枯れぬと思へば
当日は厳しい寒波到来の予報。さびしい句会にならなければと気を揉みました。
2021年11月29日(月)、午前8時30分、JR三ノ宮駅中央改札口付近が集合場所。しっかりマスクはしても、通勤客がまだ多い時間帯に都心に集合。朝は冷え込みましたが、風の無い晴天で、気温は上昇。
第35回神戸RANDOM句会「淡河本陣マスク句会」のスタートです。
今回の参加者は、だっくすさん、つきひさん、どんぐりさん、へるめんさんと女性4名。男性は一風さん、英さん、播町さん、見水さん、ろまん亭さんの5名で総勢9名。さくらさん、蛸地蔵さん、稲村さん、ひろひろさん、弥太郎さんはそれぞれご都合があり残念ながら欠席。三宮からの出発は7名で、どんぐりさんはマイカー、英さんは別ルートのバスで現地参加です。
来ましたねマスク姿の友の顔 一風③◎ …丸数字は句会での得点。◎は特選句
コロナ禍に人みなマスク二年越し 一風①
着ぶくれてすつかり婆となりにけり だっくす②
駅の東側の高架下にある三宮バスターミナルへ移動。長距離バスが出たあと乗り場案内があるので、しばらく待合所で待機し、一般路線バスの案内表示が出て乗り場に移動。吉川庁舎行きの神姫バスに乗り込みます。午前中の唯一の便で、午前9時に発車。


山眠る中をグングンバスは行く 一風
峠越えドローンの眺め冬淡河 見水
市街地から新神戸トンネルで六甲山地の再度山を抜け箕谷へ。さらに国道428号線で標高約500mの丹生・帝釈山の山塊を山越えし、35分で「淡河本町北」停留所に到着。停留所が少ないので意外に早く着きました。のどかな田舎の町ですが、ここも神戸です。

淡河本町を歩く――――――――――
1958年に神戸市に編入する前は美嚢(みの)郡淡河村。淡河以外の美嚢郡はいまは三木市に編入されています。裏六甲の志染川・淡河川・美嚢川は、流域の里山を潤し、南に広がる神出、岩岡、稲美町にも灌漑用水を疎水で送り、加古川に合流します。
バスを降りると目の前が淡河宿本陣跡。すでに門が開いています。


跡といふ遥けきものの冬ざるる つきひ④◎
淡河宿本陣跡
午前9時45分、門をくぐると、復元時に保存会が建立した句碑がありました。
街道に名残りの屋号つばめ来る 艶子
庭先を奥へ進み、踏み石で靴を脱ぎ、広縁から「西座敷」に上がります。


冬の庭灯籠に日のあたりたる だっくす
冬紅葉淡河本陣西座敷 だっくす
踏み石や淡河本陣冬うらら へるめん①
紅葉本陣昔の夢 ろまん亭
殿様はいずこ本陣冬座敷 見水①
空き家になっていたこの建物を復元し公開したのは、4年前の2017年。かつてドライブなどで淡河本町に立ち寄る人は、満月堂の豊助饅頭を買いに来る人ぐらいでしたが、2003年に道の駅淡河ができ、さらにこの淡河宿本陣跡が整備され、淡河本町には3つの名所がそろいました。
本陣跡は、カフェや食事の提供があり、部屋貸しもしています。本日は江戸中期に建てられた「西座敷」を借りて、わが句会を開催することにしました。今日は日差しが暖かで、部屋はファンヒーターの暖房が効き、座敷用の低い椅子もいくつか置かれています。
一風幹事長から本日のスケジュールを説明、句を書いて提出する5枚ずつの短冊が配られ、会費も集めました。施設の係の人からの説明もあり、貴重品以外のかさ張る荷物を置いて、付近の吟行に出発です。
へるめんさんとだっくすさんには満月堂での賞品選びをお願いしました。
湯の山街道

午前10時20分、本陣跡を出て、西側に残る「湯の山街道」の旧道を歩きます。
道幅は6mほど。新しい住宅も混在していますが、時代を経たお屋敷がいくつか残っています。
山眠り初めし湯の山旧街道 どんぐり①
湯の山街道は、秀吉が整備した道です。秀吉は天下人になってからもよく有馬温泉を訪れ、寺院や湯殿を作っていますが、秀吉と有馬温泉との出会いは三木合戦。摂津を支配する荒木村重の信長への謀反により、西国街道(山陽道)が村重に押さえられたため、裏道のこのルートを整備しました。有馬の湯が気に入ったのは、三木攻めで負傷した将兵の湯治に役立ったからでしょう。
淡河川
湯の山街道の旧道を抜け、車の往来の多い新道(県道38号線)を少し歩くと、里山を流れる美しい淡河川の景色が眺められます。水鳥もいました。
冬田なか淡河疎水の水迅し 播町②◎

10月22日の下見のときは、さらに500mほど西にある淡河八幡神社まで歩きました。途中で実った柿の木やパンダのマンホールも見つけました。神戸市には、ポートピア博覧会のときに初めて中国からパンダが来て、現在は神戸市立王子動物園でタンタンを飼育していますが、パンダの主食の竹は淡河で採取して運んでいます。

淡河八幡神社は、8世紀に創建され、鎌倉・室町時代には領主の淡河氏が崇敬し、以後も淡河庄の鎮守社。現在も地域の御弓神事などが行われている由緒ある神社です。
淡河には、ここから東へ4kmの所に、7世紀に開山し、薬師堂や三重塔のある真言宗の名刹「石峯寺」があります。鬱蒼とした森の中に古い堂塔が配置され、戦国時代には戦禍にも遭いましたが、大勢の僧たちがここで修行をしました。

今日は淡河八幡神社には寄らず、道の駅淡河に向かうことにしました。
午前10時30分、一風幹事長と合流。どんぐりさんと英さんから、道の駅淡河に着いた連絡があったとのこと。メンバー全員がそろいました。
初冬の淡河の里で苦会あり 英①
柿の実が食べられなくていと淋し 英①
木々の赤帝釈山は真っ盛り 英②
道の駅淡河

道の駅淡河は、2003年、神戸市初、政令指定都市で初めての道の駅としてオープン。
一番の人気は、十割手打ち蕎麦のレストラン「そば処・淡竹」。地元で栽培された蕎麦で作った蕎麦定食などがセルフサービスの手軽な値段で食べられます。
折りたたむ青き光沢走りそば つきひ①

隣接する農産物直売コーナーでは、スーパーでは買えない地元特産の新鮮野菜などを安く販売。最近、施設がリニューアルされ、駐車場やトイレも整備され、土日には混雑しています。
今日は、期間限定販売の「北神ねぎ」を入口に並べ、宣伝していました。
北神ねぎ入口に盛る道の駅 見水⑤
北神の秋を並べて道の駅 つきひ①
女性メンバーは、それぞれ持ち帰りのできる野菜を選んで買っていたようです。
つきひさんとろまん亭さんはどんぐりさんの車で一足先に本陣跡駐車場に移動。へるめんさんとだっくすさんは賞品選びに満月堂へ。
淡河城址


道の駅の隣の高台には「淡河城址」のシンボルの館が建ち、前から登ってみたかった場所です。
午前10時50分、今日は天気がよく時間もあるので、男性軍の英さん、播町さん、一風さん、見水さんの4人で登山道を探し、山道を登って頂上へ。館の後ろは広い城址の台地があり、稲荷神社や土俵、淡河城址の石碑や淡河合戦図の額も掲げられています。台地の続きに畑も広がっていました。
山上からの淡河本町の眺めは、冒頭のタイトルの写真です。
天高く落城の址寂として 播町②
今は夢淡河廃城幾世紀 英①
淡河の里は平安時代は荘園でしたが、鎌倉時代に淡河氏の領地となって淡河城が築かれ350年続きました。1578~1580年の三木合戦で淡河氏は三木の別所氏側に付いて、秀吉軍に滅ぼされ、淡河は有馬氏の領地に。有馬氏は江戸時代には久留米藩主になり、淡河は明石藩の領地に。
満月堂

午前11時20分、淡河城址を下りたメンバーは豊助饅頭の満月堂へ。鐘楼のような独特の立体看板は遠くからよく目立ちます。創業120年以上の老舗和菓子店です。
阪神間の人には、淡河の豊助饅頭は超有名。薄皮に包まれた柔らかい香りのいいこし餡の饅頭。蒸したてなら3つ4つ食べてしまいます。
豊助の湯気立つ蒸篭待ちに待つ 播町②
饅頭には栞(しおり)が添えられ、淡河の歴史と饅頭の由来が書かれています。何度読んでもほっこりする文章。季節の和菓子を作り、安くて美味い豊助饅頭を作り続ける満月堂はご立派。
今日の句会では、紙箱入りの10個入り豊助饅頭を参加賞に。小さな注意書きの紙に、俳句が添えられていました。
のれん守る味ひと筋に去年今年
本陣参集
午前11時30分が昼食の集合時間。全員が本陣跡に戻りました。
どんぐりさんと英さんにも句を書いて提出する5枚ずつの短冊を渡し、会費もいただきました。
皆つどう元本陣の冬座敷 英
淡河宿集う本陣冬座敷 一風
本日の昼食のメニューは「和栗とサツマ芋の山菜釜飯」。
係の人が座卓に全員の釜を並べます。
「出来あがるまで20分ほどかかります。出来あがったころに小鉢などを運んできます」
とのこと。
釜飯が炊き上がるのを待ちながら、出句の5句を完成させます。句の短冊の提出期限は、午後0時にしました。


紅葉に青空がおおいかぶさり ろまん亭④◎
虻寄せて石蕗の黄の色さゆれたり どんぐり
石灯籠デンと据るや石蕗の花 へるめん①
日当ればこそ旧本陣の冬紅葉 どんぐり②
旧本陣の水音かそけき散紅葉 どんぐり②◎
本陣は、江戸時代の宿場町で参勤交代の藩主が宿泊した建物。大庄屋など土地の有力者が用意しました。参勤交代は、武家諸法度により、藩主が国元と江戸に1年ずつ滞在し、妻子は人質として江戸に居住させられた制度で、250年続きました。
家来とともに武器や用具類も運ぶ大名行列の移動距離は1日に30~40km。外様大名の多い西国の藩は江戸まで膨大な日数と費用がかりました。全国には300の藩があり、播磨国も10数藩。参勤の時期は4月と定められ、各藩の担当役は他の藩と重ならないよう、行路や宿泊地の手配に苦慮し、西国街道(山陽道)の裏街道として、この湯の山街道が活用されたようです。
明治になると本陣は役目を終え、中山道の妻籠・馬籠や岡山の矢掛の本陣跡は観光地になっていますが、全国的にはあまり残していないのでは。淡河宿本陣跡保存会の取り組みは貴重です。


棉の花活け衣装蔵なまこ壁 どんぐり④◎
紅葉映ゆ本陣跡の衣装蔵 つきひ②
裏向きに古文書貼り込む襖かな へるめん②
楠古木父の踵のあかぎれて へるめん
淡河本陣は、大庄屋の村上家の建物。三木攻めの秀吉が湯の山街道の宿場町として当時淡河を支配した有馬氏に整備を命じたのが始まり。江戸時代も村上家が本陣を提供しました。
2016~2017年の再生・修繕工事にかけた費用は1300万円だそうです。「西座敷」は江戸中期、主屋は明治45年の建物。他に土蔵(米蔵・衣装蔵)や茶室、納屋があり、いずれも100~300年前の歴史的な建造物です。
西座敷は新しい天井と畳以外は当時のままのようですが、書院窓や欄間は300年前のものとは思えないモダンな造り。床の間の壁や襖は破れたままにして下地に丈夫な和紙の反故を貼っているのを見せています。

納屋カフェの太き煙突薪暖炉 見水②
納屋は薪ストーブとピアノ、テーブル、椅子を置いて、カフェにしています。
受付に映画のポスターが貼られていました。江戸時代の建物や庭の佇まいが合っていたのか、今年6月に上映されヒットした「るろうに剣心最終章The Beginning」のロケ地になり、西座敷は剣心(佐藤健)の仕える桂小五郎(高橋一生)の潜む京の屋敷に、中庭は新選組の屯所のシーンに使われました。

釜飯の火を熾すとき山眠る 播町②
釜飯の新米の香の満つる部屋 つきひ①
釜飯の炊きあがる香や冬座敷 だっくす④◎
さつま芋栗に新米香る湯気 見水①
そろそろ釜飯が炊き上がったようです。係の人が小鉢やお椀を各席に置いていきます。
席は3人席、4人席、2人席と、密を避けて。
釜飯昼餉
午後0時10分、2年ぶりの、待ちに待った、マスク昼宴会の始まりです。
「このあとの句会はいらんけど」
「ビールは何本?」
「今日は3本でいいやろ」
コロナ禍で自粛生活に慣れています。ビールは中瓶3本を各グラスについで、静かに乾杯。

小鉢は、風呂吹き大根や地元野菜の煮物、あんかけなど。吸物は淡河産黒豆味噌汁。釜飯は、ほとんど味付けなし。薩摩芋と栗と新米の香りと味。まず炊きたてを味わい、お替りにはお茶漬けを、と熱い出汁入りのお茶を別に置いています。
風呂吹の旨し昼餉や淡河宿 だっくす
第六波までの束の間映えランチ 播町
淡河宿本陣紅葉黙昼食(ひるげ) 一風①
昔本陣の昼食しずか ろまん亭
いつもの句会なら、最新の話題で盛り上がるのですが、阪神やオリックスの話も出ません。昨日南アフリカで見つかったオミクロン株は今後どうなるのか…。静かに黙食。
「お茶がほしいなあ」
午後0時40分、食事を終えた一風幹事長、厨房へお茶の注文しに、広縁を大股歩き。
一風幹事長大股雪見障子越 へるめん②◎
未提出だった句の短冊もすべて集まりました。
淡河本陣句会―――――――――――

午後0時50分、集まった短冊をばらして手分けして清書し、選句表に貼り付け。
午後1時20分、一風さんと見水さんが、選句表をローソン淡河店のコピーサービスで人数分コピー。清書からコピーができるまで、つきひさんの差し入れのクリスマス菓子・シュトーレンをいただきながら、ほうじ茶でティータイム。
つきひさんからは『千原叡子弔句集』の回覧も。弔句集には、昨年亡くなられた千原叡子さんへの、さくらさん、どんぐりさん、つきひさんの弔句が掲載されています。

午後1時30分、全員に選句表を配付し、各自、自作以外の気に入った6句を選びます。特選1句2点、その他5句は1点で、各人の持ち点は計7点。参加者9名の総点数63点の争奪戦。
午後2時、つきひさんの進行で、特選句から順番に選んだ理由も挙げながら発表。43句全部に点数が付けられて作者が明かされました。
午後3時30分、本陣のコーヒー・紅茶でコーヒータイム。
高得点句
本日は5点獲得句が1句と、4点句が4句、3点句が1句ありました。
北神ねぎ入口に盛る道の駅 見水⑤
下仁田ねぎ、岩津ねぎ、特産ねぎが美味しくなる季節。
跡といふ遥けきものの冬ざるる つきひ④◎
本陣としてはもう役割を終えた庭や建物があわれ。
紅葉に青空がおおいかぶさり ろまん亭④◎
真っ赤な冬の紅葉、写真家の目で切り取った光景。
棉の花活け衣装蔵なまこ壁 どんぐり④◎
珍しいワタの枝を飾った古い蔵に風情があります。
釜飯の炊きあがる香や冬座敷 だっくす④◎
素材の味を引き出す薄味の釜飯、甘い香りでした。
来ましたねマスク姿の友の顔 一風③
コロナ禍の合間の、待ちに待った2年ぶりの句会。
表彰式
午後3時40分、獲得点数により表彰式です。9点獲得者は3人いるので、ジャンケンします。
句会は静かに進行したのですが、ジャンケンの掛け声が思わず大きくなり、隣の南座敷から、
「いま部屋で録音をしているので…」
と、飛んで来られました。江戸の座敷は声が筒抜け。静かに、静かに…。
優勝はどんぐりさん(9点)、続いて見水さん(9点)、つきひさん(9点)。つきひさんは出句した5句すべて得点しパーフェクト。
他のメンバーは、播町さん(8点)、へるめんさん(6点)、だっくすさん(6点)。ブービー賞は、英さん(5点)、一風さん(5点)、ろまん亭さん(4点)の3人で静かにジャンケンし、ろまん亭さんに。
今回の賞は、今回欠席のさくらさんが命名し、賞品はへるめんさんとだっくすさんが満月堂で選んだお菓子のセットと、10個入りの豊助饅頭の参加賞。

今回は全員が得点し、大きな点差は無く、女性軍対男性軍も珍しくほぼ互角、で句会は終了。
今回は添削例は無し。2年ぶりの再会を楽しみ、マスク越しの雑談です。来年2022年は神戸RANDOM句会結成20周年です。何か記念になる企画を、と宿題。

午後4時、冬日がだいぶ傾きました。今はコロナ禍なので有志の居酒屋での反省会は無し。
西神戸在住の英さん、ろまん亭さん、へるめんさんはどんぐりさんのマイカーに同乗して帰宅することにし、午後4時15分、本陣跡の駐車場を出発。あとの5名は、とっぷり日の暮れた「淡河本町北」停留所にやってきた午後4時57分発の三宮行神姫バスに乗り込みました。
好天気に恵まれた2年ぶりの句友との吟行は、長い巣籠り生活の最高の気分転換になりました。
今回の事前準備と幹事の一風さん、へるめんさん、だっくすさん、お疲れさまでした。

句会の翌日、オミクロン株が日本に初上陸のニュース。今回の句会は間一髪のタイミングでの開催でした。第6波、ブレークスルー感染、ワクチンの再接種に、またふり回されそう。
慌ただしい去年今年、今回も初詣は年内早めに行くことにしますか。皆様よいお年を。
2021.12 写真・文/mimizu
