新技術への向き合い方――mimicの件など | 乱歩酔歩--Random Walk official blog--

新技術への向き合い方――mimicの件など

須々木です。

 

 

8月29日にベータ版が公開されたAIイラスト生成サービス「mimic(ミミック)」に関して、思うことをあれこれ書き留めておこうと思います。

話はいろいろ飛びます。

 

 

 

 

 

 

特に今年になって「イラスト×AI」の話題を多く聞くようになった気がしますが、この「mimic」のポイントは「絵柄の再現」です。

 

なるほど興味深い・・・などと思う間もなくネットで議論百出、というか炎上。

 

そして―――

 

 

 

 

 

 

※ サクッとまとまっている記事はこちらより ⇒ イラストAI「mimic」運営が「全機能の停止」発表 他人の絵の無断利用リスクで物議...不正対策見直しへ(j-cast.com 2022年8月30日20時12分配信)

 

 

サービス概要や事の経緯については、公式情報等で各自で調べてもらいたいのですが、なかなか素早い展開です。

 

 

 

性善説的思考に基づく「想定の甘さ」に関して批判は免れないと思いますが、それでも誠意ある対応と感じます。

 

実際、不正利用を防げるのであれば、イラストレーターの生活安定に革新的なプラス効果を発揮するかもしれないと感じるものです。

 

「良いイラストを描くけれど筆の遅い人」がイラストで食っていくのは現状でなかなか大変かもしれませんが、このサービスを活用すれば「従来通りの通常価格受注生産イラスト」だけでなく、「自分で描いた既存作品を元にしたAI生成イラスト」をお手頃価格で提供することもできるでしょう。

新たな労力を注がなくても収入を得られる手段というのはイラストレーターにとって大きなプラスとなるでしょうし、同時に買い手もお手頃価格という魅力があります。

イラスト市場の担い手がより分厚くなっていく可能性を感じます。

 

 

かなり魅力的なサービスとかなりの人が思ったのでしょう。

しかし、それ故に多くの人の注目を集め、そこに露呈した「不正利用対策の至らなさ」で見事に出鼻を挫かれてしまいました。

多くの人の目を引くものであるからこその炎上と言えるでしょう。

 

 

「mimic」に関しては、誠意を持って対応し、正式版では問題の解決を図っていくものと思われます。

しかし一方で、今回の件で「絵柄の再現」が技術的に可能でかつ需要があると知られた以上、誠意の欠ける形で他の人が同様のシステムを世に出すことは避けられない気もします。

不正利用を実質的に防げない場合、当然イラストレーターの生活の致命的な破壊を招き得るでしょう。

つまり、不正利用防止の確立は絶対条件。

 

 

この構図は、フリマアプリ等の不正転売問題とも似ている気がします。

もっと遡れば、デジタルツールと複製の歴史にも類似点を見出せるし、むしろ今回もその延長ととれるでしょう。

どのように落ち着くのか。

 

あと、根本的な話として、人間が他人の絵から学び学習することと、AIが機械学習的に他人の絵から学ぶことの線引きをどうするかはよく分からないです。

法的な解釈はあまり知りませんが、広く社会的に「普通こういうものだよね」という認識が共有されているとは言い難いでしょう。

 

 

今回は「イラスト」だったけれど、これが他媒体に派生していく未来を想像することは難しくないとも思いました。

2020年あたりから話題になったNEUTRINO(AIきりたんetc)などは先行事例となりますが、今後もこの流れは加速していきそうです。

例えば、人気声優の声を完全に再現できるAIが登場すれば、生身の声優の代替となり得るでしょう。

「声優のAさんとBさんとCさんを2:1:1で混ぜたAI生成声優」なんてやつがアニメの主役をはるかもしれません。

 

そして、この流れは創作界隈に限ったことでもないでしょう。

よりSF的な空想をすれば、政治家や官僚が果たしている社会的役割の一部またはすべてをAIで代替できてしまう可能性だってあります。

 

 

 

いずれにせよ劇的変化をもたらし得る技術なわけですが、当然マイナスを最小にしてプラスを最大にしていくことが求められます。

「mimic」的サービスにおけるマイナスはざっくり「不正利用」となりますが、リリース元の誠意に任せるやり方は、おそらくどこかで破綻するような気がします。

「誠意の欠けたリリース元」の想定は必須と感じます。

 

この点に関して理想論を言えば、公的機関が先回りして法整備や不正利用検出システムの整備をやって欲しいところですが、これはさすがに過ぎた要求。

界隈が声を上げ実情を訴えることは必要と考えますが、責任のすべてを国に求めることは賛同しかねます。

そこまで国が万能の存在だと妄信する立場には立てません。

 

国などで敢えて汎用性の高い対策が取れるとすれば、「新技術に対する不正利用対策計画の策定義務付け」とかでしょうか。

実効性の高い不正利用対策なしに新技術をリリースすることに対し、程度に応じたペナルティを与えるやり方はアリかもしれないと思います。

ただし、グローバルな競争で遅れを取ることは確実なので、以上の内容は「国際的合意」が求められるタイプのものと感じます。

「核軍縮」や「温室効果ガス排出規制」と同様、従わない方が得をする構図になりそうなので、相当厄介ではありますが。

 

 

 

そうすると幾分現実的なのは、「不正利用検出→注意喚起通知→アクション選択」の流れをよりスムーズにすることかもしれません。

クリエイターが自動検出システムから「あなたの権利が侵害されています」というメッセージを受け取り、「スルー」「許可」「対価請求」「賠償請求」などをサクッと選んで実行。

このようなサービスをつくり広くクリエイター(著作権者)が登録。

「対価請求」「賠償請求」にサービス提供会社の取り分を上乗せ・・・みたいな。

ただし、国外に向けての対策になるかかなり怪しい点に注意が必要です。

結局、国際的な枠組みは必要になるでしょう。

 

「国際的な~」などと書いていますが、一方で日本の創作界隈は、グレーな部分や緩い部分を残してきたから発展した側面もあると思います。

二次創作、エロ表現、ポリコレ等、日本と海外には良くも悪くもギャップがあり、そのギャップに創作界隈の根っこが食い込んでいると感じます。

国際的枠組みの重要性は明らかですが、同時に、日本的な曖昧さは排除される可能性を大いに感じる(TPPのときみたいに)ので、話は少々複雑です。

匙加減はとても難しい。

 

 

 

より根本的な話として「現代におけるクリエイターの利益を守るためにAIを制限しよう」という考え方は、あまり賛同できないです。

戦前「鉄道を通すと職を失うからやめろ!」と人力車組合は訴えたそうですが、ここで「じゃあ、やめましょう」と判断していたらどうか。

新技術登場へのリアクションにはある程度冷徹な理性も求められるのでしょう。

 

「クリエイターの利益とかいう問題以前に、AIの社会への実装が人間の退化を招く」(今回で言えば「しっかり絵を描ける人間が減る」)という考え方もあるかもしれない。

古い例になりますが、ソクラテスは「人間の記憶力の低下を招く」という理由で文字の使用を嫌ったそうです。

興味深い考え方です。

とすると、AIの存在感が増し人間の描画能力の低下を招くことになると恐れてAIを制限することはどうなのでしょう。

 

 

 

思いつくままに書き散らしましたが、結局すべてを綺麗に解決する手段はない気がします。

よって、各自がよく考え判断しうまく立ち回るしかない。

新しいものが登場すれば、得をする者と損をする者がでてくるのは自然の摂理。

適応するしかないのでしょう。

ただ、できればモラルや想像力がしっかり存在し続けて欲しいと思います。

 

個人的な感覚として、「mimic」の一連の対応には誠意を感じるので、こういうところが先行事例として解決手段を見出してほしいと思います。

その意味でも、今回顕在化した様々な考え方や事象を取り込んで、より良い形でサービスが正式にスタートすることを期待したいです。

 

うまくいけば創作界隈の健全な活性化、下手をすると創作界隈への壊滅的ダメージ。

難しい舵取りが求められるのは間違いない。

日本ではこのようなパターンが袋叩きにあって見事に潰されることも多い気がしますが、頑張ってうまく乗り切ってほしいです。

 

というわけで、普通に期待の割合やや高めで事の推移を見守りたいと思います。

 

 

※ ブログ執筆時点でブログ執筆者が把握している情報に基づく。より詳細かつ最新の情報は各自調べてください。

 

 

 

 

sho