【備忘録】日経サイエンス2019/12号 | 乱歩酔歩--Random Walk official blog--

【備忘録】日経サイエンス2019/12号

須々木です。

 

科学雑誌「日経サイエンス」2019年12月号が、個人的になかなか興味深かったので、その備忘録として書き残しておこうと思います。

 

なお、11月25日に2020年1月号が発売なので、現時点で最新の一つ前の号です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タイトルのとおり、一冊丸ごと「『真実』とは何か?」という切り口です。

 

題材としては、嘘と真が入り混じる現代においてありふれたものとは思いますが、これを科学雑誌として真正面から切り込んでいくとどうなるのか、というところで、強く興味をひかれました。

 

 

 

以下、目次。

リンク先から、公式サイトの記事紹介ページに飛べます。

 

 

 

 

 

 

 

 

【第1部:真実を問い直す】

 

物理学におけるリアリティー (物理学)

物理学はこの世界についての

真の根本的な理解に至る道といえるのだろうか?

 

数学は発明か発見か (数学)

数学が扱っている対象は実在するのか、それとも純然たる想像の産物なのか?

哲学者は一致した答えを見いだせていない

 

脳が「現実」を作り出す (神経科学)

現実は脳によって作り上げられている

そしてそっくり同じ脳はふたつとない

 

 

【第2部:嘘という行為】

 

嘘をつく動物たち (動物行動学)

嘘をつく動物はホモ・サピエンスだけではない

不正直者は動物界にあふれている

 

デマ拡散のメカニズム (ネットワーク科学)

影響力のある誤情報は真実のタネから生まれる

 

腐敗は伝染する (行動経済学)

不正は不正を生じ、あっという間に社会に広がる

 

選挙を狙うハッキング攻撃 (サイバーセキュリティー)

2020年の米大統領選挙に想定される最悪のサイバー攻撃シナリオ

 

 

【第3部:深まる不確実性】

 

過剰な心配,過小な心配 リスク判断の心理学 (意思決定科学)

情報が不十分で不確実性が伴うなか、私たちはどうやって決定を下すのか

 

エラーバーの読み方 (データ科学)

グラフに表現された不確実性を正しく解釈する方法

 

自己不確実感が社会を脅かす (社会心理学)

不確実性に満ちた世界は自己意識を脅かす

なんとかしようと、人はポピュリズムになびく

 

情報操作社会に生きる (社会学)

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その気持ちが偽情報の拡散に利用されている

 

 

 

 

 

 

全3部構成で、科学の中でも、様々な視点から「真実」を考えています。

 

自然科学、社会科学など、一口に科学と言っても、どこから見るかによって話の広がり方は千差万別。

定義できない概念を前に四苦八苦している様子も込みで、いずれも読みごたえがありました。

 

全然知らなくて「ナルホド」と思うものから、何となく感じていたものをうまく言語化している「痒い所に手が届く」的な記事まで。

 

インターネット、特にSNSがもたらす影響が、世界情勢からクラスの人間関係にまで絡みついている現代において、「真実」というものについて考える機会というのは、極めて大事なことだと思います。

 

ツイッターでも、フォローワーさんがリツイートしているもので、真偽がかなり際どく感じるものが散見されますが、善意の現れとしての行為であっても、その情報が「真」でなければ、害悪となりえます。

 

そういう話にも触れられていますが、科学雑誌の記事だけあって、単純に「ネットリテラシー!」で済ましていないのは印象的でした。

 

敢えて感情を刺激するような仕掛け。

立場の違いを過剰に見せて分断を促すメカニズム。

承認欲求や不安感を煽り利用する手法。

 

「真実」の力をぐらつかせる様々な現象や手口がウイルスのように広がる現代において、科学的な視点から捉え直すというのは、万事解決とはならないまでも、ある程度までは有効な策だと感じます。

 

見せられている大仰なマジックショーに無闇に踊らされないよう、そのタネを知っておくというのは、必要最低限の自衛策のようにも思えます。

 

 

第1部は、自然科学的な切り口なので中立的ですが、第2部、第3部は警鐘を鳴らすような内容が多く、楽観論は皆無。

研究者たちの危機感が滲み出る内容でした。

 

そして、この手の問題意識は、昨今の現代アート界隈でも中心的なテーマとなっているように感じます。

根っこは共有されていて、科学でアプローチするか、アートでアプローチするかという違い。

現代アートは、最新の科学とかなり深く繋がっている気がするので、当然といえば当然なのかもしれませんが、現代という時代を特徴づける命題なんだろうと思いました。

 

 

読んでいて改めて思いましたが、科学の最前線であっても、実社会で起きているダイナミックな変化に追いつけていない気がします。

故に、万能な解決策は、この世のどこにもない。

「これで間違いなし!」というノウハウはどこにもない。

 

ただ、目を閉じて巻き込まれるよりは、目を見開いて巻き込まれる方が、だいぶマシなはず。

「科学」を学ぶというのは、そういうことなんだろうと思います。

自分が目を閉じているのだということに気付かせ、目を開くよう促す。

目を開いただけで、何かが解決したわけではないけれど、目を開かなければ始まらない。

 

というわけで、「科学」が好きとか嫌いとかと無関係に、広く読まれると良いなと思う一冊でした。

 

 

 

 

sho