第2回APOLLOを回ってみて思ったこと
どうも須々木です。
今月20日~23日の4日間にわたり開催されていた「第2回APOLLO」に関連して備忘録をまとめておきたいと思います。
なお、ここでは、並んでいた作品の傾向などに関してではなく、「APOLLO」そのものについてのメモが中心です。
まず、APOLLOとは、「数日間限定でネット上で開催する、同人音楽作品(CD等物販・デジタルデータ両方)の即売会イベント」(公式サイトより)です。
すでに確固たる地位を確立した感のあるイラストコミュニケーションサービス「pixiv」より派生したネットショップ「BOOTH」。
その「BOOTH」のシステムを応用したのがネット同人音楽即売会「APOLLO」です。
あまり知らない人は、pixivと言えばイラストというイメージだと思うので、もしかすると意外かもしれませんが、逆にpixivの狙いが垣間見えてきそうです。
ただし、運営側の発信する情報を見る限り、「APOLLO」はpixivが総力を挙げて挑む・・・という感じではなく、多分に実験的要素を含んだ試みであるようです。
確かに、前回、今回と見ていて、リアルタイムで試行錯誤している様子が伝わってきていました。
昨年11月末に記念すべき第1回が開催され、かなり大規模な不具合が起きつつも、十分な反響を得ていたように思います。
※前回の不具合(個人情報漏洩)については、実際にかなり致命的なものだったので、今回はかなりしっかり対策をとっていたようです。第2回のトップページにも明記してありました。
僕自身は、音楽を制作するような立場ではないので、一人の客目線で楽しんでいましたが、非常に刺激的で興味深いイベントでした。
一部機能は、終了後も「アーカイブ」として公開されているので、開催中に訪れなかった人は、ちょっとのぞいてみると良いでしょう。
音楽の視聴システムはそのままになっています。
現在は、「アーカイブ」として公開されているページが、開催期間中は「会場」となっていましたが、「15秒」もしくは「フル」でどんどん再生しながら、気に入ったものがあれば詳細ページに行き、購入ができる仕組みです。
その他、コメントなど様々な機能が実装され、即売会独特の双方向性を少しでも実現しようと知恵が絞られていました。
「とりあえずやってみる」という雰囲気だった前回から、多くの点でバージョンアップしており、特に「快適さ」の向上に注力されていたように感じました。
第2回開催直前にツイッターのAPOLLO公式アカウントができたこともあり、タイムライン上の動きも活発で、サイトだけでは演出しにくい「会場の一体感、臨場感、リアルタイム感」というのが補完されていたことは非常に良かったと思います。
公式の中の人も、単に公式の情報を淡々と発信するわけでなく、個人的な思いを積極的にツイートしていたのが良かったです。
どうにか成功させたい、より良いものとしたいという気持ちが多くの人に伝わっていたと思います。
さて、去年の第1回のとき、そもそも「ネット空間における同人系即売会」という試みが興味をひくものだったので、それについてかなり長文のエントリーを書きましたが、それを踏まえてさらに何点か。
基本的には、今回のAPOLLOについてというより、前回今回含め大枠のAPOLLOに関してです。
また、いずれも個人的な見解なのであしからず。
▼以前の関連エントリー
「ネット空間における同人系即売会」に関する考察(その1) (2014-12-01)
「ネット空間における同人系即売会」に関する考察(その2) (2014-12-17)
○ネットさえつながっていれば、知った瞬間に参加できる
これはリアルの即売会とは決定的に違うポイントで、画期的なところでしょう。
普通は、知るのもネット経由だと考えられるので、実質的にはノータイム参加が可能です。
故に、リアルの即売会が開場直後に盛り上がる(閉会に近くなると閑散としてくる)のに対し、ネットの即売会は閉会に向けても急速に盛り上がりが増しているようでした。
終盤に盛り上がるという独特の流れは、事前には予測されていなかったようなので、逆に言うと、今後はそれを踏まえて面白い手を打つことも可能かもしれません。
また、「会場」のページを開いてどんどん音楽を流しながら、同時に別の作業もできるので、ツイッターのタイムラインを並べておくと、盛り上がりを可視化できるというのもポイントかもしれません。
盛り上がりの可視化というのは、「場」を提供するというイベントの性質上、極めて重要だと思いますが、今後もアイデアが求められるところでしょう。
○「お祭り感」が大切
出展者の多くは、当然APOLLOだけのために制作しているわけではないと思われます。
よって、作品の質として、APOLLOが他のプラットフォームより優れているわけではありません。
それにもかかわらず盛り上がり注目されるのはなぜかと言えば、「お祭り感」があるからでしょう。
常時ネット販売している状態では演出できない「お祭り感」が財布のひもを緩めます。
具体的には二つポイントがあって、一つは「期間限定」、もう一つは「データ販売だけではない」というものです。
「期間限定」にすることで、プレミア感が増すので、購入意欲が増し、活性化します。
単なる「ネット販売」ではなく、わざわざ期限を切ることによる最大の効果です。
また、「データ販売だけではない」についてですが、もし「データ販売のみ」にすると、売り切れが存在しないので、客はあまり急かされません。
しかし、APOLLOでは実物も扱うので、「良いものが売り切れる前に回らなくては」という心理が働きます。
先行している「BOOTH」のシステムが非常にうまく活かされているように思います。
これらの要素がうまく盛り込まれたイベントであるが故に、買い物の満足度があがるわけです(リピーターが増える)。
○次回以降どうなっていくのか
まだ始まったばかりのAPOLLOですが、今回の様子を見る限り、今後も定期的に開催されることは間違いないでしょう。
その上で、運営側がどのような手を次に打つのか。
ポイントの一つめは、外国の客をどう扱うか。
ネット上で開催される最大の利点は、ネット環境があればどこからでも参加できるという点です。
であるならば、日本国内だけで完結させるより、海外まで取り込むのが良いことは明らかです。
pixivも海外戦略を本格化させてきているので、APOLLOも体制が整い次第、英語版など実装するのではないでしょうか。
少子化による国内市場縮小を考えると、APOLLOのみならず、国内のコンテンツ市場の将来を占う面白い流れとなるような気がします。
ポイントの二つめは、出展者の差別化についてです。
少なくとも、現状では、「会場」は「タグ」によるカテゴライズに終始し、いわゆる「壁サークル」のような特別扱い枠は存在していません。
「行列をつくるためのスペースの都合」という物理的制約は存在していませんが、人気を示す指標としてあらかじめ差別化するという戦略は、ありっちゃありという気もします。
ただ、現状は、可能な限りランダムに公平に回ってもらえるよう配慮しているようです。
これは、現時点での規模だと、全出展者の視聴が可能であることが大きいと思いますが、今後どうしていくのか注目です。
○定期開催が定着すると、制作者側に変化が予想される
APOLLOは、第1回と第2回の間がおよそ1年でしたが、今後、半年に1回くらいの定期開催が定着すれば、APOLLOをメインに活動する同人サークルが出現すると思われます。
即売会会場までのアクセスが悪い地域に在住の人はもちろんですが、それだけではありません。
赤字を避けたい現実的な思考の人たちは、リアルの即売会出展をためらっていた可能性がありますが、そういう人たちを引き出せる可能性があります。
また、制作者の販売量のうち、データ販売の比率が高まると、黒字化が容易になる(赤字リスクが低下する)ので、実物販売の価格設定を低めにすることも可能となります。
即売会に並ぶ商品は、広く一般の人から見ればかなり割高ですが、より現実的な価格になっていく可能性があります。
そうすると、より若年層をターゲットにすることも可能でしょうし、購入点数を増やす人も出てくるでしょう。
結果として、リアルとネットの即売会の相乗効果により、同人市場全体の活性化もありえるように思います。
単純に、一つの「お祭り」として、何となくブラブラ回ってみても楽しいイベントですが、それだけに留まらない興味深い点もたくさんあるAPOLLO。
今後も要注目です。
sho
今月20日~23日の4日間にわたり開催されていた「第2回APOLLO」に関連して備忘録をまとめておきたいと思います。
なお、ここでは、並んでいた作品の傾向などに関してではなく、「APOLLO」そのものについてのメモが中心です。
まず、APOLLOとは、「数日間限定でネット上で開催する、同人音楽作品(CD等物販・デジタルデータ両方)の即売会イベント」(公式サイトより)です。
すでに確固たる地位を確立した感のあるイラストコミュニケーションサービス「pixiv」より派生したネットショップ「BOOTH」。
その「BOOTH」のシステムを応用したのがネット同人音楽即売会「APOLLO」です。
あまり知らない人は、pixivと言えばイラストというイメージだと思うので、もしかすると意外かもしれませんが、逆にpixivの狙いが垣間見えてきそうです。
ただし、運営側の発信する情報を見る限り、「APOLLO」はpixivが総力を挙げて挑む・・・という感じではなく、多分に実験的要素を含んだ試みであるようです。
確かに、前回、今回と見ていて、リアルタイムで試行錯誤している様子が伝わってきていました。
昨年11月末に記念すべき第1回が開催され、かなり大規模な不具合が起きつつも、十分な反響を得ていたように思います。
※前回の不具合(個人情報漏洩)については、実際にかなり致命的なものだったので、今回はかなりしっかり対策をとっていたようです。第2回のトップページにも明記してありました。
僕自身は、音楽を制作するような立場ではないので、一人の客目線で楽しんでいましたが、非常に刺激的で興味深いイベントでした。
一部機能は、終了後も「アーカイブ」として公開されているので、開催中に訪れなかった人は、ちょっとのぞいてみると良いでしょう。
音楽の視聴システムはそのままになっています。
現在は、「アーカイブ」として公開されているページが、開催期間中は「会場」となっていましたが、「15秒」もしくは「フル」でどんどん再生しながら、気に入ったものがあれば詳細ページに行き、購入ができる仕組みです。
その他、コメントなど様々な機能が実装され、即売会独特の双方向性を少しでも実現しようと知恵が絞られていました。
「とりあえずやってみる」という雰囲気だった前回から、多くの点でバージョンアップしており、特に「快適さ」の向上に注力されていたように感じました。
第2回開催直前にツイッターのAPOLLO公式アカウントができたこともあり、タイムライン上の動きも活発で、サイトだけでは演出しにくい「会場の一体感、臨場感、リアルタイム感」というのが補完されていたことは非常に良かったと思います。
公式の中の人も、単に公式の情報を淡々と発信するわけでなく、個人的な思いを積極的にツイートしていたのが良かったです。
どうにか成功させたい、より良いものとしたいという気持ちが多くの人に伝わっていたと思います。
さて、去年の第1回のとき、そもそも「ネット空間における同人系即売会」という試みが興味をひくものだったので、それについてかなり長文のエントリーを書きましたが、それを踏まえてさらに何点か。
基本的には、今回のAPOLLOについてというより、前回今回含め大枠のAPOLLOに関してです。
また、いずれも個人的な見解なのであしからず。
▼以前の関連エントリー
「ネット空間における同人系即売会」に関する考察(その1) (2014-12-01)
「ネット空間における同人系即売会」に関する考察(その2) (2014-12-17)
○ネットさえつながっていれば、知った瞬間に参加できる
これはリアルの即売会とは決定的に違うポイントで、画期的なところでしょう。
普通は、知るのもネット経由だと考えられるので、実質的にはノータイム参加が可能です。
故に、リアルの即売会が開場直後に盛り上がる(閉会に近くなると閑散としてくる)のに対し、ネットの即売会は閉会に向けても急速に盛り上がりが増しているようでした。
終盤に盛り上がるという独特の流れは、事前には予測されていなかったようなので、逆に言うと、今後はそれを踏まえて面白い手を打つことも可能かもしれません。
また、「会場」のページを開いてどんどん音楽を流しながら、同時に別の作業もできるので、ツイッターのタイムラインを並べておくと、盛り上がりを可視化できるというのもポイントかもしれません。
盛り上がりの可視化というのは、「場」を提供するというイベントの性質上、極めて重要だと思いますが、今後もアイデアが求められるところでしょう。
○「お祭り感」が大切
出展者の多くは、当然APOLLOだけのために制作しているわけではないと思われます。
よって、作品の質として、APOLLOが他のプラットフォームより優れているわけではありません。
それにもかかわらず盛り上がり注目されるのはなぜかと言えば、「お祭り感」があるからでしょう。
常時ネット販売している状態では演出できない「お祭り感」が財布のひもを緩めます。
具体的には二つポイントがあって、一つは「期間限定」、もう一つは「データ販売だけではない」というものです。
「期間限定」にすることで、プレミア感が増すので、購入意欲が増し、活性化します。
単なる「ネット販売」ではなく、わざわざ期限を切ることによる最大の効果です。
また、「データ販売だけではない」についてですが、もし「データ販売のみ」にすると、売り切れが存在しないので、客はあまり急かされません。
しかし、APOLLOでは実物も扱うので、「良いものが売り切れる前に回らなくては」という心理が働きます。
先行している「BOOTH」のシステムが非常にうまく活かされているように思います。
これらの要素がうまく盛り込まれたイベントであるが故に、買い物の満足度があがるわけです(リピーターが増える)。
○次回以降どうなっていくのか
まだ始まったばかりのAPOLLOですが、今回の様子を見る限り、今後も定期的に開催されることは間違いないでしょう。
その上で、運営側がどのような手を次に打つのか。
ポイントの一つめは、外国の客をどう扱うか。
ネット上で開催される最大の利点は、ネット環境があればどこからでも参加できるという点です。
であるならば、日本国内だけで完結させるより、海外まで取り込むのが良いことは明らかです。
pixivも海外戦略を本格化させてきているので、APOLLOも体制が整い次第、英語版など実装するのではないでしょうか。
少子化による国内市場縮小を考えると、APOLLOのみならず、国内のコンテンツ市場の将来を占う面白い流れとなるような気がします。
ポイントの二つめは、出展者の差別化についてです。
少なくとも、現状では、「会場」は「タグ」によるカテゴライズに終始し、いわゆる「壁サークル」のような特別扱い枠は存在していません。
「行列をつくるためのスペースの都合」という物理的制約は存在していませんが、人気を示す指標としてあらかじめ差別化するという戦略は、ありっちゃありという気もします。
ただ、現状は、可能な限りランダムに公平に回ってもらえるよう配慮しているようです。
これは、現時点での規模だと、全出展者の視聴が可能であることが大きいと思いますが、今後どうしていくのか注目です。
○定期開催が定着すると、制作者側に変化が予想される
APOLLOは、第1回と第2回の間がおよそ1年でしたが、今後、半年に1回くらいの定期開催が定着すれば、APOLLOをメインに活動する同人サークルが出現すると思われます。
即売会会場までのアクセスが悪い地域に在住の人はもちろんですが、それだけではありません。
赤字を避けたい現実的な思考の人たちは、リアルの即売会出展をためらっていた可能性がありますが、そういう人たちを引き出せる可能性があります。
また、制作者の販売量のうち、データ販売の比率が高まると、黒字化が容易になる(赤字リスクが低下する)ので、実物販売の価格設定を低めにすることも可能となります。
即売会に並ぶ商品は、広く一般の人から見ればかなり割高ですが、より現実的な価格になっていく可能性があります。
そうすると、より若年層をターゲットにすることも可能でしょうし、購入点数を増やす人も出てくるでしょう。
結果として、リアルとネットの即売会の相乗効果により、同人市場全体の活性化もありえるように思います。
単純に、一つの「お祭り」として、何となくブラブラ回ってみても楽しいイベントですが、それだけに留まらない興味深い点もたくさんあるAPOLLO。
今後も要注目です。
sho