【第1回RWラリー小説】酒と大将と俺と猫
「っか~~~うめ~~~!!!」
自然に声が漏れる。週末、仕事帰り、通いなれた居酒屋。勢い良くジョッキを空にした俺に、大将が笑いかけた。
「いい飲みっぷりだねえ!」
「おかわり!」
ああ、俺は幸せだ。滑らかに揺れる泡を眺めながらそんなことを思う。
気持ちよくお酒は進み、少し飲みすぎた身体に夜風が心地よい。
駅前から家まで、ふらふらと歩きながらぼんやり星を眺めた。
「ん~~~~~きれいだね~~~~~~~~」
灰色の空にいくつか星が散らばり、雲の間で月がぼうっと光る。
なかなか幸せな夜だ。
「ところで大将、この間の話ですが・・・」
俺は、努めて冷静に話そうとする。その横顔を涼しげな風が掠めていく。
大将の視線は星空に向けられている。大将は無言だ。
「あの・・・」
俺はさらに言葉を重ねようとするが、そこでようやく大将は視線を地上レベルに下げた。
大将は、彼らしくない重いため息を一つ吐いて、こう言った。
「…あの件は…お前の胸の内に留めといてくれねぇか」
「ぇ…でも」
俺は、予想外の言葉に瞠目する。
あの大将が、それだけは言わないと思っていたからだ。
事態は自分が思っていた以上に深刻なのかもしれない。
俺は先程まで気持ちよく浸れていた酔が、静かに覚めて行くのを感じた。
こんな時は能天気な自分が嫌になる。
「でも奥さんは…あれから大丈夫だったんでしょ?」
「…まぁ…な。」
大将のその言葉を聞けて一先ず安心した
「わりぃな、兄ちゃんにまで心配かけて…」
「俺こそ、でしゃばってすみません…」
真相を追求したい衝動に駆られるが、最寄駅はすぐそこだ。この距離で話を深く掘り下げるのは、俺の腕では…
「…あんた!」
街灯の下にいるのは。
============(つづきはあとで!)=============
どうも須々木です。
本日お送りしていますのは、さる日曜の午前0時より行われた「第1回RWラリー小説」です。
ちなみに、「ラリー」はミスタイプではありません。
「リレー小説」ならぬ「ラリー小説」。
これポイントです。
ルールは以下の通り。
・指定時間の5分前ぐらいに、ツイッター上で「○時からラリー小説をやる」という宣伝を入れる。(初回は遊木がやる)
・指定された時間内はひたすらラリーし、発言の最後には「#RW_ラリー」とつける。
・ラリー指名は自分の発言のあと、速やかに行う。
・タイムアップ時に指名されていた人は、その回のラリー内容を全てブログに張り付け、内容を回収してオチを書く。このオチに関してのみ、字数制限は設けない。
・ラストだった人は、次回に一番手を指名する。
これで何回まわるかな~というものです。
バレーでラリーを続けるのと同じ感じ。
ゆえに「ラリー小説」です。
「とりあえずやってみよう」というノリでやってしまった記念すべき第1回、参加者はRWメンバー全員で、遊木、須々木、霧島、米原、夏野でした。
ツイッター上、30分かけて進んだのが↑↑↑のところまで。
霧島 → 夏野 → 須々木 → 遊木 → 米原 → 霧島 →(須々木×)
ということで、今回は30分で6回成功ということですかね。
そんでもって、最終指名者の須々木が、こうしてブログを書いているわけです。。
なお、ラリー小説実施中、書いている間にも他のメンバーは適当にああだこうだとやりとり(ツッコミ)していたので、そのあたりの様子を見たければ、こちらをどうぞ。
基本、くだらないことしか言っていませんが。
あと、フォロワーの方には、タイムライン荒らしスミマセンでしたm(_ _)m
ま、別に反省とかしないけどな!
メンバー全員フォローすると、たぶんまた唐突にタイムラインが荒らされることがあるのでご注意あれ。
そんなわけで、そろそろ続きと行きましょうか。
酒を飲みかわし、帰路につく俺と大将。
いったい何があったんでしょうか?
無駄に奥さんとか出てきたし・・・
ここから先は、須々木の単独執筆です。
すべてを託されてしまいましたが、いったいどうしろと・・・
では、どうぞ↓↓↓
============(ここからつづき!)=============
大将の家は四人家族である。
大将とその奥さん、あとは娘が二人。
娘二人は年が一回りも離れているので、姉妹と言うよりは、親子に近い関係かもしれない。
妹の方、ハナちゃんと言うのだが、こちらはまだ小学生で、とにかく姉によく懐いている。
両親が甘やかして育てたせいで、かなり傍若無人なところもあるが、なかなかと愛嬌のある子に育っている。
事の発端は、そんなハナちゃんの姉の婚約だ。
というか、ハナちゃん姉と俺の婚約だ。
姉にベッタリだったハナちゃんは、この婚約にわりと大きなショックを受け、その傍若無人な振る舞いに拍車がかかる。
やりたい放題のスーパー反抗期に大突入してしまったのだ。
大将はハナちゃんを溺愛しまくっているわけだが、さすがにここは父としての威厳を示すべきところだと思い、一念発起。
しかし、強気の言動とは裏腹に、一人だと心細いらしく奥さんと揃って二人でハナちゃんに立ち向かった。
そうして、夫婦は揃って返り討ちにあってしまう。
結論から言うと、二人は猫にされてしまうのだった。
そんな馬鹿なことがあるのかと思ったが、タネも仕掛けもなく、完璧に猫になってしまった。
ハナちゃんがシテヤッタリという表情で仁王立ちする縁側。
居間の畳の上で呆気にとられる猫二匹。
その様子が姉から写真で送られてきたときの俺の衝撃たるや。
開いた口が塞がらないというのは、まさにこのこと。
ちなみに、そのとき姉の方は庭で洗濯物を取り込んでいたそうで、縁側に置かれた洗濯籠が少しだけ写りこんでいる。
メール本文には、家族のうち二人が猫だと洗濯物が少なくなりそうでいいわね、とあった。
「問題はそこじゃねぇぇ!!」と駆けつけたのが一昨日の出来事だ。
仕事の都合もあるので、昨日、今日と、俺は大将の家と職場を行き来した。
奥さんの方は、昨日行ったときにはもう人間に戻っていて、軽食を出してくれた。
しかし、大将の方は相変わらず猫のまま。
「ニャーニャー。ニャー・・・」
「ニャーニャー言って誤魔化さないでください」
「ニャー・・・猫だと思ってなめおって」
「た、大将!? 言葉!」
「ニャー・・・どうした? ・・・お!? 喋れる、喋れるぞ!!」
すぐに職場に戻るつもりだった俺を引き留めて、縁側で一局打っている間に、どういうわけか言葉は取り戻した。
しかし、結局猫は猫のままである。
逆に、猫が言葉を喋るとさらにややこしくなりそうなので、家の外では全力で猫らしくしてもらうことにした。
そして本日。
大将不在の職場でいつもより多い仕事を片付け、その帰り、大将のヤケ酒に付き合うことになったのだ。
行きつけの居酒屋は、天気が良いと外のテーブルを利用できるのだが、その中でも一番奥の人目につきにくい席を確保した。
ヤケ酒と言っても、猫の身体に深酒はまずい気がするので、お猪口に舐める程度入れて置いた。
大将が猫のまんまという状況は、それはそれで問題だが、俺個人としては幸福度の高い今日この頃。
大将の分まで飲んでいると、すっかり良い気分になっていく。
調子に乗ってお義父さんとか呼んでしまいそうになるが、そこはまだ自重する。
猫になった大将も、うまく現実逃避してご機嫌な様子だった。
しかし、ふと現実に頭が切り替わる。
大将に聞こえないくらいの小さな声で呟く。
「ハナちゃんはどうしたものか・・・」
ハナちゃんの件については何も解決していないし、しかも放置できるものでもない。
大将は猫になる前の時点では自分がどうにかすると言っていたが、シシャモを頭からくわえて猫ライフを満喫しつつある今の状況を見ていると、正直不安だ。
もう、自分が立ち回った方が速い気もするが、大将も結構な決意を持って娘と向き合いたいようだったから、了解を得ずに出しゃばるわけにもいかない。
結局、大切なことは何も言えずに居酒屋を出て、なんだか漠然と幸せな気分のままフラフラ駅に向かう。
大将の家はここからすぐのところだが、駅まではついてくるようだった。
「…あんた!」
そんなとき、唐突に声がかかる。
振り向くと、街灯の光に照らされて、大将の奥さんが立っていた。
事態が事態だけに、心配して迎えに来たのだろうか?
「あんた、何いつまでも猫やってんだい」
そうでもなかったようだ・・・
大将はなぜか全力で逃げようとするが、すぐに捕まって抱えあげられる。
「さあ、さっさと帰るよ」
大将はニャーニャー言って抵抗する。
まるで、家出したのに見つかって連れ帰られる子供のようだった。
「ニャー! お前も来るんだ! 酒の続きだ~!!」
「ハイハイ・・・」
大将の家に行くと、そのまま居間に通された。
すると、件のハナちゃんとその姉が並んで座っていた。
姉の方は普段通りのニコニコ顔。
対して、ハナちゃんの方は難しい顔をしていた。
ちょっとした緊張感が漂う。
家族四人と俺は、多くを語らず思い思いの場所に腰を下ろした。
目の前のテーブルの上には、紙が一枚。
「パパ、これで手を打ってあげる」
ハナちゃんは、紙を大将の前に移動する。
その隣に座っていた俺にもよく見える位置だ。
――『ハナを今後もめいいっぱいかわいがる』
マジックペンで大きく書かれていて、その下にはすでに二人分の署名があった。
俺は対面の姉の方を見る。
相変わらずのニコニコ顔だが、ハナちゃんをうまく誘導したのだろうということは容易に想像できた。
これで今回の件を収束させようというのだ。
「大将、これで一件落着じゃないですか?」
俺はヒソヒソ声で話す。
「ニャー・・・」
まあ、父としての威厳というやつはどうしたって話もありそうだが、それはそれ。
さっさと人間に戻ってもらおう。
居間は厳粛な空気に包まれる。
大将は背筋をピンと伸ばした。
ひと呼吸おいてから、誓いの言葉を読み上げる。
「ハナを今後も目いっぱい可愛がる」
大将は視線を上げ、正面の愛娘を見据える。
「当然じゃないか。パパはハナを全力で可愛がるに決まっている。ずっと、ずっとだ」
ハナちゃんも、大将の視線を正面から受け止める。
表情はやや硬いまま。
すると、姉の方がすっと手を伸ばす。
朱肉が置かれていた。
「お父さん、その手じゃペンは持てないでしょ?」
「ニャ・・・うむ」
大将は朱肉に手を押し付けてから、誓いの文書に捺印した。
肉球の跡が見事にプリントされた。
大将は手を引っ込め、インクで畳を汚さないよう俺にティッシュで拭かれながら、ハナちゃんの言葉を待つ。
ハナちゃんは、なおも大将を見つめ続けている。
そして、ようやく押し出すように短い言葉を紡ぐ。
「約束・・・絶対に破っちゃダメだよ?」
「当然だ」
その言葉に、ハナちゃんは少しだけ泣きそうな表情になり、姉の胸に顔をうずめる。
姉はそれを優しく抱き留め、頭をゆっくりと撫でた。
「良かったね、ハナちゃん。みんなハナちゃんのことが大好きなんだよ」
その様子をただ静かに見つめる大将は、猫の姿ではあるものの、まさしく父だった。
なんだか、ジーンと込み上げてくるものを感じた。
一分くらいはそんな感じで、そのあとハナちゃんはまた顔をこちらに向けた。
そして、少し不思議そうな顔になった。
「パパ、もう人間に戻っていいよ?」
一瞬の沈黙。
「・・・え?」
「・・・え??」
キョトンとする大将に、家族三人の視線が集中する。
「ニャ、ニャ? 元に戻っていいって、ハナ・・・」
大将がそう言うと、嘆息しながら奥さんが立ち上がる。
続いて姉も立ち上がる。
「お父さんもハナちゃんと同じ。ちょっと駄々をこねてみたくなっちゃったんだよ」
「はい、今日は解散しましょう。ハナ、もうこんな時間なんだから寝なさい」
三人はわらわらと居間を出ていく。
大将と俺だけがその場に残された。
大将の表情はここからだと窺うことができない。
でも、なんとなく想像することはできた。
ほどなくして、奥さんが酒とつまみをお盆に乗せて持ってきた。
「大将、もうちょっと飲むんでしょ?」
「・・・当たり前だ」
「ちゃんと、大事にしますから」
「・・・それも当たり前だ」
お盆を縁側に置き、居間の明かりを消した。
見上げると、相変わらず見事な星空が広がっていた。
(完)
sho
自然に声が漏れる。週末、仕事帰り、通いなれた居酒屋。勢い良くジョッキを空にした俺に、大将が笑いかけた。
「いい飲みっぷりだねえ!」
「おかわり!」
ああ、俺は幸せだ。滑らかに揺れる泡を眺めながらそんなことを思う。
気持ちよくお酒は進み、少し飲みすぎた身体に夜風が心地よい。
駅前から家まで、ふらふらと歩きながらぼんやり星を眺めた。
「ん~~~~~きれいだね~~~~~~~~」
灰色の空にいくつか星が散らばり、雲の間で月がぼうっと光る。
なかなか幸せな夜だ。
「ところで大将、この間の話ですが・・・」
俺は、努めて冷静に話そうとする。その横顔を涼しげな風が掠めていく。
大将の視線は星空に向けられている。大将は無言だ。
「あの・・・」
俺はさらに言葉を重ねようとするが、そこでようやく大将は視線を地上レベルに下げた。
大将は、彼らしくない重いため息を一つ吐いて、こう言った。
「…あの件は…お前の胸の内に留めといてくれねぇか」
「ぇ…でも」
俺は、予想外の言葉に瞠目する。
あの大将が、それだけは言わないと思っていたからだ。
事態は自分が思っていた以上に深刻なのかもしれない。
俺は先程まで気持ちよく浸れていた酔が、静かに覚めて行くのを感じた。
こんな時は能天気な自分が嫌になる。
「でも奥さんは…あれから大丈夫だったんでしょ?」
「…まぁ…な。」
大将のその言葉を聞けて一先ず安心した
「わりぃな、兄ちゃんにまで心配かけて…」
「俺こそ、でしゃばってすみません…」
真相を追求したい衝動に駆られるが、最寄駅はすぐそこだ。この距離で話を深く掘り下げるのは、俺の腕では…
「…あんた!」
街灯の下にいるのは。
============(つづきはあとで!)=============
どうも須々木です。
本日お送りしていますのは、さる日曜の午前0時より行われた「第1回RWラリー小説」です。
ちなみに、「ラリー」はミスタイプではありません。
「リレー小説」ならぬ「ラリー小説」。
これポイントです。
ルールは以下の通り。
・指定時間の5分前ぐらいに、ツイッター上で「○時からラリー小説をやる」という宣伝を入れる。(初回は遊木がやる)
・指定された時間内はひたすらラリーし、発言の最後には「#RW_ラリー」とつける。
・ラリー指名は自分の発言のあと、速やかに行う。
・タイムアップ時に指名されていた人は、その回のラリー内容を全てブログに張り付け、内容を回収してオチを書く。このオチに関してのみ、字数制限は設けない。
・ラストだった人は、次回に一番手を指名する。
これで何回まわるかな~というものです。
バレーでラリーを続けるのと同じ感じ。
ゆえに「ラリー小説」です。
「とりあえずやってみよう」というノリでやってしまった記念すべき第1回、参加者はRWメンバー全員で、遊木、須々木、霧島、米原、夏野でした。
ツイッター上、30分かけて進んだのが↑↑↑のところまで。
霧島 → 夏野 → 須々木 → 遊木 → 米原 → 霧島 →(須々木×)
ということで、今回は30分で6回成功ということですかね。
そんでもって、最終指名者の須々木が、こうしてブログを書いているわけです。。
なお、ラリー小説実施中、書いている間にも他のメンバーは適当にああだこうだとやりとり(ツッコミ)していたので、そのあたりの様子を見たければ、こちらをどうぞ。
基本、くだらないことしか言っていませんが。
あと、フォロワーの方には、タイムライン荒らしスミマセンでしたm(_ _)m
ま、別に反省とかしないけどな!
メンバー全員フォローすると、たぶんまた唐突にタイムラインが荒らされることがあるのでご注意あれ。
そんなわけで、そろそろ続きと行きましょうか。
酒を飲みかわし、帰路につく俺と大将。
いったい何があったんでしょうか?
無駄に奥さんとか出てきたし・・・
ここから先は、須々木の単独執筆です。
すべてを託されてしまいましたが、いったいどうしろと・・・
では、どうぞ↓↓↓
============(ここからつづき!)=============
大将の家は四人家族である。
大将とその奥さん、あとは娘が二人。
娘二人は年が一回りも離れているので、姉妹と言うよりは、親子に近い関係かもしれない。
妹の方、ハナちゃんと言うのだが、こちらはまだ小学生で、とにかく姉によく懐いている。
両親が甘やかして育てたせいで、かなり傍若無人なところもあるが、なかなかと愛嬌のある子に育っている。
事の発端は、そんなハナちゃんの姉の婚約だ。
というか、ハナちゃん姉と俺の婚約だ。
姉にベッタリだったハナちゃんは、この婚約にわりと大きなショックを受け、その傍若無人な振る舞いに拍車がかかる。
やりたい放題のスーパー反抗期に大突入してしまったのだ。
大将はハナちゃんを溺愛しまくっているわけだが、さすがにここは父としての威厳を示すべきところだと思い、一念発起。
しかし、強気の言動とは裏腹に、一人だと心細いらしく奥さんと揃って二人でハナちゃんに立ち向かった。
そうして、夫婦は揃って返り討ちにあってしまう。
結論から言うと、二人は猫にされてしまうのだった。
そんな馬鹿なことがあるのかと思ったが、タネも仕掛けもなく、完璧に猫になってしまった。
ハナちゃんがシテヤッタリという表情で仁王立ちする縁側。
居間の畳の上で呆気にとられる猫二匹。
その様子が姉から写真で送られてきたときの俺の衝撃たるや。
開いた口が塞がらないというのは、まさにこのこと。
ちなみに、そのとき姉の方は庭で洗濯物を取り込んでいたそうで、縁側に置かれた洗濯籠が少しだけ写りこんでいる。
メール本文には、家族のうち二人が猫だと洗濯物が少なくなりそうでいいわね、とあった。
「問題はそこじゃねぇぇ!!」と駆けつけたのが一昨日の出来事だ。
仕事の都合もあるので、昨日、今日と、俺は大将の家と職場を行き来した。
奥さんの方は、昨日行ったときにはもう人間に戻っていて、軽食を出してくれた。
しかし、大将の方は相変わらず猫のまま。
「ニャーニャー。ニャー・・・」
「ニャーニャー言って誤魔化さないでください」
「ニャー・・・猫だと思ってなめおって」
「た、大将!? 言葉!」
「ニャー・・・どうした? ・・・お!? 喋れる、喋れるぞ!!」
すぐに職場に戻るつもりだった俺を引き留めて、縁側で一局打っている間に、どういうわけか言葉は取り戻した。
しかし、結局猫は猫のままである。
逆に、猫が言葉を喋るとさらにややこしくなりそうなので、家の外では全力で猫らしくしてもらうことにした。
そして本日。
大将不在の職場でいつもより多い仕事を片付け、その帰り、大将のヤケ酒に付き合うことになったのだ。
行きつけの居酒屋は、天気が良いと外のテーブルを利用できるのだが、その中でも一番奥の人目につきにくい席を確保した。
ヤケ酒と言っても、猫の身体に深酒はまずい気がするので、お猪口に舐める程度入れて置いた。
大将が猫のまんまという状況は、それはそれで問題だが、俺個人としては幸福度の高い今日この頃。
大将の分まで飲んでいると、すっかり良い気分になっていく。
調子に乗ってお義父さんとか呼んでしまいそうになるが、そこはまだ自重する。
猫になった大将も、うまく現実逃避してご機嫌な様子だった。
しかし、ふと現実に頭が切り替わる。
大将に聞こえないくらいの小さな声で呟く。
「ハナちゃんはどうしたものか・・・」
ハナちゃんの件については何も解決していないし、しかも放置できるものでもない。
大将は猫になる前の時点では自分がどうにかすると言っていたが、シシャモを頭からくわえて猫ライフを満喫しつつある今の状況を見ていると、正直不安だ。
もう、自分が立ち回った方が速い気もするが、大将も結構な決意を持って娘と向き合いたいようだったから、了解を得ずに出しゃばるわけにもいかない。
結局、大切なことは何も言えずに居酒屋を出て、なんだか漠然と幸せな気分のままフラフラ駅に向かう。
大将の家はここからすぐのところだが、駅まではついてくるようだった。
「…あんた!」
そんなとき、唐突に声がかかる。
振り向くと、街灯の光に照らされて、大将の奥さんが立っていた。
事態が事態だけに、心配して迎えに来たのだろうか?
「あんた、何いつまでも猫やってんだい」
そうでもなかったようだ・・・
大将はなぜか全力で逃げようとするが、すぐに捕まって抱えあげられる。
「さあ、さっさと帰るよ」
大将はニャーニャー言って抵抗する。
まるで、家出したのに見つかって連れ帰られる子供のようだった。
「ニャー! お前も来るんだ! 酒の続きだ~!!」
「ハイハイ・・・」
大将の家に行くと、そのまま居間に通された。
すると、件のハナちゃんとその姉が並んで座っていた。
姉の方は普段通りのニコニコ顔。
対して、ハナちゃんの方は難しい顔をしていた。
ちょっとした緊張感が漂う。
家族四人と俺は、多くを語らず思い思いの場所に腰を下ろした。
目の前のテーブルの上には、紙が一枚。
「パパ、これで手を打ってあげる」
ハナちゃんは、紙を大将の前に移動する。
その隣に座っていた俺にもよく見える位置だ。
――『ハナを今後もめいいっぱいかわいがる』
マジックペンで大きく書かれていて、その下にはすでに二人分の署名があった。
俺は対面の姉の方を見る。
相変わらずのニコニコ顔だが、ハナちゃんをうまく誘導したのだろうということは容易に想像できた。
これで今回の件を収束させようというのだ。
「大将、これで一件落着じゃないですか?」
俺はヒソヒソ声で話す。
「ニャー・・・」
まあ、父としての威厳というやつはどうしたって話もありそうだが、それはそれ。
さっさと人間に戻ってもらおう。
居間は厳粛な空気に包まれる。
大将は背筋をピンと伸ばした。
ひと呼吸おいてから、誓いの言葉を読み上げる。
「ハナを今後も目いっぱい可愛がる」
大将は視線を上げ、正面の愛娘を見据える。
「当然じゃないか。パパはハナを全力で可愛がるに決まっている。ずっと、ずっとだ」
ハナちゃんも、大将の視線を正面から受け止める。
表情はやや硬いまま。
すると、姉の方がすっと手を伸ばす。
朱肉が置かれていた。
「お父さん、その手じゃペンは持てないでしょ?」
「ニャ・・・うむ」
大将は朱肉に手を押し付けてから、誓いの文書に捺印した。
肉球の跡が見事にプリントされた。
大将は手を引っ込め、インクで畳を汚さないよう俺にティッシュで拭かれながら、ハナちゃんの言葉を待つ。
ハナちゃんは、なおも大将を見つめ続けている。
そして、ようやく押し出すように短い言葉を紡ぐ。
「約束・・・絶対に破っちゃダメだよ?」
「当然だ」
その言葉に、ハナちゃんは少しだけ泣きそうな表情になり、姉の胸に顔をうずめる。
姉はそれを優しく抱き留め、頭をゆっくりと撫でた。
「良かったね、ハナちゃん。みんなハナちゃんのことが大好きなんだよ」
その様子をただ静かに見つめる大将は、猫の姿ではあるものの、まさしく父だった。
なんだか、ジーンと込み上げてくるものを感じた。
一分くらいはそんな感じで、そのあとハナちゃんはまた顔をこちらに向けた。
そして、少し不思議そうな顔になった。
「パパ、もう人間に戻っていいよ?」
一瞬の沈黙。
「・・・え?」
「・・・え??」
キョトンとする大将に、家族三人の視線が集中する。
「ニャ、ニャ? 元に戻っていいって、ハナ・・・」
大将がそう言うと、嘆息しながら奥さんが立ち上がる。
続いて姉も立ち上がる。
「お父さんもハナちゃんと同じ。ちょっと駄々をこねてみたくなっちゃったんだよ」
「はい、今日は解散しましょう。ハナ、もうこんな時間なんだから寝なさい」
三人はわらわらと居間を出ていく。
大将と俺だけがその場に残された。
大将の表情はここからだと窺うことができない。
でも、なんとなく想像することはできた。
ほどなくして、奥さんが酒とつまみをお盆に乗せて持ってきた。
「大将、もうちょっと飲むんでしょ?」
「・・・当たり前だ」
「ちゃんと、大事にしますから」
「・・・それも当たり前だ」
お盆を縁側に置き、居間の明かりを消した。
見上げると、相変わらず見事な星空が広がっていた。
(完)
sho