翌朝、李々子が地元のバス停に着くと、母が迎えに来ていた。
「李々子~」
「母さん」
駆け寄る母がワイワイ話し出した。
「あんたなぁ、帰ってくる時はもっと早う言わなぁビックリするやろ。お父さんなんて仕事休めんし、泣きながら仕事に行く用意してたんよ。あっ今なら会えるかもはよ帰ろ。」
と早口で言う母が嬉しそうで、車に乗り込みながら李々子はニコニコ見ていた。
「ん?あんた何ヘラヘラ笑ってるん気持ち悪いなぁ」
「笑ってて何が悪いん楽しいもん。」
と喜ぶ李々子に母が
「楽しい?ほうか、そりゃあ良かった。本当は何かあったんかなって心配しとったんよ、あっシートベルトして動くよ。」
と言い車を発進させた。実家に向かう車内で
「そうそう、しずなちゃん覚えてるよな。」
母の突然の言葉に、李々子はドキッとした。
「昨日の晩にお母さんから電話があってな、しずなちゃん家に男の人が来たんやって。」
李々子はすぐそれが巧馬だと分かった。
「ねえ母さん」
「ん?」
「私がしずなと同じ事になってたら、どうしてた?」
李々子の言葉に母は少し考えて
「そうやな、そうなったらあんたの思いを尊重するわ。でも助かるなら助けてあげたいな、しずなちゃんの親御さんも同じやったと思うよ。」
と言った。
「うん、そうだね。」
李々子は通りすぎる景色を眺めた。
「李々子、あんたあの日しずなちゃんと一緒に帰っとったら、しずなちゃんの運命を変えられたかもとか思っとんちゃう。」
母に言われて李々子はうつむいた。
「そんなん皆思うんよ、こうしたら良かったああしたら良かったってな。でも、もう戻れんどんなに足掻いても。じゃけん私らが出来ることは忘れん事、いつも心の片隅に覚えておく事って母さんは思う。」
李々子は母を、じっと見た。
「何よ」
李々子は柔らかく微笑み
「母さんもたまには真面目なこと言うんや、いつもワケわからん事で怒ってるか食べてるかなのに。」
と言うと母は唖然として
「誉めるときはちゃんと誉めなさい、この子はもう。」
と言い笑いあった。
その頃、巧馬はゆっくりと目を覚ましシャワーを浴びに向かった。
さあ行こう
と鏡に向かい呟いた。
家についた李々子はバタバタと着替え、家を出ようとしていた。
「じゃあ行ってくるね」
と言うと、慌てて母親が台所から出てきた。
「ちょっと李々子もういくん?」
「うん、待っとる人がおるから。」
と言う李々子の後ろ姿に
「そうか気付けて行ってらっしゃい。」
と声をかけた。李々子は
「行ってきます」
と、満面の笑顔で答え玄関を出ていった。
列車に乗り一駅二駅、外の景色を眺めた。
駅につき改札を出て学校までの並木道をゆっくり歩いて行くと、懐かしい校舎が見えてきた。
「学校に来るの久しぶりだなぁ。」
そう呟きながら並木道を抜け校門を入り校庭に向かうと、その奥にあの桜の木が見えた。
李々子が近付くと巧馬があらわれた。
「永塚」
巧馬は李々子を見つめて
「リーコさん覚えてる?どっちの俺が好きって聞いた時に言った言葉。」
と聞いた。李々子はそう言えばと
「確かどんな永塚も永塚って感じのこと言ったはず」
と答えた。巧馬はフッと笑顔になり
「どんなに俺が変わってもリーコさんは好きでいてくれる?」
と言った。
「どう言うこと?」
李々子が聞くと、巧馬は真面目な顔になり
「どんな事が起こっても驚いて逃げないでね。」
と言いうつむき目を伏せた。
「永塚?」
カチッと耳の奥で音がする。
うつむいた巧馬が顔を上げると、しずながいた。
「しずな?」
驚き李々子が言うと
「そうだよ。」
と言って、しずなは優しく李々子に抱きつき
「リーコさんごめんね。」
と呟いた。
「本当にしずななの?」
もう一度李々子が聞いた。
「そうだよ」
と、しずなが答えた。
李々子はそっとしずなから離れ考え込んだ。
「リーコさん」
心配そうにしずなは李々子を見た。
李々子は
「ごめん、ちょっと混乱してて」
と言い
落ち着け落ち着け私
中にいるって、こういうことなんだよね
と思いを巡らせた。しずなは少し寂しそうに
「そうだよね驚くよね。」
と言うと李々子はしずなを見て
「本当なんだよね」
と再度確認をした。
「うん」
しずなの答えに、李々子は
「そっか、こういう感じなんだ。嬉しいのに嬉しいはずなのに」
と、戸惑っていた。
「リーコさん」
戸惑いながらも李々子は
「永塚は?永塚は今どうなってるの?」
としずなを見た。
気になるんだ
「夢を見てる感じかな。」
と、しずなが言うと李々子は
「夢を見てる?無事は無事なの?」
と聞いた。しずなが
「大丈夫無事だよ。今はぼんやり霞のなかにいるような感じかな、私がいつもそんな感じだったから。」
と言うと、ほっとしたように
「良かった、とりあえず無事なんだ。」
と言った。
しずなの胸の奥がジリッと妬ける。
あいつもこんな感じだったのかな
と、しずなは十矢に思いをはせた。
李々子が
「うんもう大丈夫、落ち着いてきた。いつからなの?いつから永塚の中に?」
と聞くと、しずなは
「術後からいたよ。でも、はっきり自覚したのは大学に復帰した頃かな十矢がいたから。」
と答えた。
李々子がハッとして
「もしかして運命ってやつ?」
と言うと、しずなは一瞬言葉をなくし
「運命なのか必然なのかは分からないけど」
そういって木を見上げた。
「ねえリーコさん、ここを覚えてる」
突然の言葉に李々子は木を見上げ
「うん覚えてるよ、入学式の日に初めてしずなと逢ったところだよね。」
と言うと
「違うよ」
「えっ」
李々子は思いもよらない答えに驚いた。
「もっと前、思い出して。」
「もっと前?」
しずなの問いに、李々子はなかなか思い出せずにいた。
「オープンスクール覚えてない?あの時からだよ。あの時からずっとリーコさんのこと探してた。」
あっと李々子は気付いて
「もしかして部活体験?」
と言った。しずなは嬉しそうに。
「そう、春になったらきれいに咲くんだよって言ってたよね。」
と言いフワッと優しく李々子に笑いかけた。
「リーコさんは気付いてなかっただろうけど、リーコさんがいるから吹奏楽部に入ったんだよ。そしてどんどんリーコさんを好きになっていった。」
驚く李々子
「わっ私だって、しずなが好きだったよ。」
と言うと、しずなはふっと笑って
「リーコさんの好きとは少し意味が違うんだよ。リーコさんを独り占めしたい誰にも渡したくないってこと。」
「えっ」
李々子は固まった。そんな李々子に
「好きじゃたりなくて、愛してる…ずっと愛してた」
と、しずなが。
余計に固まり真っ赤になる李々子。
「いやいやいや、えっ」
李々子は脳をフル回転させていた。しずなは切なそうに
「この言葉を伝える為になんて面倒くさい遠回りをしたんだろうね。」
と言い李々子を見つめた。
「ちょっと待って今の」
と李々子が言うと、しずなは顔を覗き込み
「そうやってパニックになるの分かってたから、あの日桜吹雪に紛れて、いい雰囲気で誤魔化そうとしたのに、予定が狂っちゃった。」
しずなの悪びれない言い方に、李々子はひきつりながら
「誤魔化すって何、真面目な告白なんでしょ。そんなに軽々しく誤魔化すんじゃないわよ。」
李々子の怒りっぷりに、しずなはポカンとしたあと笑いだした。
「なんで笑うの?少ない脳みそで必死に考えてんのよ。そう言う事ってああ言う事で、でも妹っていうか友達としかみれないし、世の中にはそう言う人もいるから否定はしないけど」
困惑している李々子に
「リーコさん」
としずなは声をかけた。李々子は困った顔で
「ワケわかんないよ」
と言いぐるぐる悩んでいた。そんな李々子をしずなは優しく抱き締めた。
「だからごめんねって言ったでしょ、本当にリーコさんはバカなんだから。」
バッバカって
「なによそれ」
少し怒って言う李々子に
「分かってたから、リーコさんの気持ちはちゃんと分かってた。でも最後に言いたかったんだ。」
としずなは言った。そして李々子に優しく微笑みかけ
「いつかもう一度、男とか女とか関係なく生まれ変わって出逢えたら、今度こそ離さないから覚悟しててね。」
と李々子の耳元でささやいた。
李々子がくすぐったくて目をつむると、その李々子にしずながキスをしようとした。
「ちょーと‼️待ったあ」
突然、巧馬の声が響いた。
驚き目を開ける李々子、しずなの顔が近くにあった。
「ったく良いところで残念だな、続きはいつか未来でね」
と言いしずなは巧馬の体から抜けた。巧馬かガクンと膝をおとしかけるのを李々子が支えると、柔らかな光が二人を包み突然季節外れの桜が満開になった。気が付いた巧馬が
「リーコさん、えっ桜が満開?これって夢?」
と聞かれた李々子は
「こんな夢、そうそう無いけどね」
と答えた。
李々子に支えられている事に気付き巧馬が離れると、光は桜吹雪のなか空へ上っていく。
「まって、しずな‼️」
李々子はその光に向かって叫んだ。
「リーコさん時間だからもう行くね。そうだそいつは信じて大丈夫だよ。巧馬リーコさんを頼んだよじゃあね。」
消えていく光に李々子が
「しずな、ありがとうこんな私を好きになってくれて守ってくれてありがとう。」
と声をかけると徐々に光が消え、桜吹雪も消えていった。