
静寂を破るように、タキが話し出す
タキ「そう言うたら、豊子さんの旦那さんがフィリピン沖で亡くなって、もう2年もたつんやね」
と「タキさん、突然なに言うんよ」
ま「フィリピン沖で?」
静「うちの父さん海軍におったんよ、のっとった軍艦がフィリピン沖で敵に攻撃されて沈没してな…いつも元気な母さんが、泣いて泣いて…」
タキ「ほんまに、あんなに豊子さんが落ち込むやなんて…うち、見てられんかったわ」
と「ほうやったかええ?」
静「忘れたんでか?母さんがそんなんやったけん、私が頑張らな…父さんの分もしっかりせんといかんって、必死やったんでよ。お陰で、ゆっくり悲しむ暇やなかったんで」
と「あんたなあ、偉そうに」
千代「おばちゃんそんなに言わんと…うちな、静ちゃんはいつも偉いと思っとんよ」
静「千代ちゃん、そんなん言うてくれてありがとう」
千代「そんな…こっちこそ」
と「千代ちゃんはええ子じゃ、千代ちゃんにくらべたら静や大した事ないんよ。大変なんはみんな同じじゃ、おばちゃんないつも皆に助けてもろうて感謝しとんよ。」
静「母さん、それひどいわ」
千代「おばさん、ほんでも静ちゃんはやっぱりすごいと思うんよ。うちなんか母さんがおらんかったら、どうしたらエエんか全然分からんもん」
静「なに言いよんよ、千代ちゃんとこも大変だったでえ。千代ちゃんが頑張っとるけん、タキおばさんもうちも頑張れるんよ」
タキ「ほうよ、千代がおらんかったらとうに諦めて死んどったかもしれんのやで」
千代「母さん」
ウメ「ほうやね、ほんまじゃわ」
みち子「あの」
のぶ「みち子ちゃん、どしたん?」
みち子「あの、父が最近私に良く言う言葉があるんです」
村山「北見先生が?」
みち子「はい」
村山「何を言うたんや?」
みち子「人は何処ででも、何をしてでも生きていける…諦めるんはその後でええ…ほなけん、生きること生き抜く事が一番大事で一番難しいんじゃって」
のぶ「北見先生らしいなぁ」
村山「ほうじゃの、そう思うとんじゃったら、何があっても帰ってきてもらわんとな、みち子ちゃんのためにも」
みち子「はい」
また外の音が大きくなる
と「…そういうたら、ウメちゃんの旦那さんどうなったん?まだフィリピンなんか」
ウメ「それが、ようわからんの…昨日な、どこぞの島に配属になるけん、一度もんてくるって手紙来たんじゃけど、まだ帰ってこんのでよ」
タキ「小さいキイちゃんかかえて、ただでさえしんどい思いしとんのになぁ」
ウメ「ほなけど、待っとるって約束したけん、約束は守らんと」
ま「みんな、すごい…わたし…自分が恥ずかしいです」
のぶ「そんなことないでよ、真樹さんかて口には出さんけど、記憶なくすくらい辛い思いしとるじゃろ。」
タキ「ほんまじゃ、真樹さんも同じじゃ」
ま「あ…ありがとうございます」
村山「ほうじゃの、みんなそれぞれ乗り越えようとしとるんじゃ。生きようとしとるんじゃ…それにしても、智夫くん遅いのう」
紀夫「兄ちゃん、父さんと母さんの位牌を持ってくるん忘れたって、家に戻ってしもて」
のぶ「ほんまに、智夫くんはもう」
紀夫「大事な両親のやからって…」
村山「ほんまにどいつもこいつも、なんで自分の命を大事にせんのじゃろ」
と「ほんまじゃわ、一つしかない命じゃのに…」