
町中に鳴り響く空襲警報、走ってくる豊子と静、キイをせおったウメ、真樹
暗がりのなか、タキが待っている
タキ「豊子さん!ウメちゃん!こっちこっちやで早よう」
と「あ、タキさん…あんた一人なん?」
タキ「千代はな、先に防空壕に行っとんよ、早よう急がな」
ウメ「真樹さん大丈夫?」
ま「私は大丈夫、ウメさんこそキイちゃん大丈夫?」
ポンポンと背中のキイをあやすウメ
ウメ「大丈夫みたいや」
タキ「もう少し行ったら防空壕やからな、ここんとこ空襲なかったけん慌てたやろ」
と「ほんまに、ビックリしたわ」
遠くでゴーと飛行機の音
静「あかん、はよう急がなイヤな音がしてきた」
タキ「ほんまじゃ、はよう行こう」
走り出すタキ
と「ちょっと、タキさん待ってえな」
静「もう、母さん荷物かしで」
豊子の荷物を自分の肩にかける静
と「ありがとう、静」
静「ええから、はよ走り」
走り出す静と豊子
と「ちょっと、静~待って」
ウメ「真樹さん、うちらも急ごう」
ま「うん」
ウメと真樹も去っていく
防空壕のなか
ゴザがひいてあり、奥に少し大きめの箱があり、ロウソクとマッチと湯飲みとお椀が入っている
中には、千代、村山、みち子、のぶ、紀夫がいる
ライトつく(明転)
タキ、豊子、静がはいってくる
入り口にいる村山
村山「ここじゃ、はよ入りで」
のぶ「タキさん、ウメちゃんたちは?」
タキ「あれ、付いてきとったと思ったんじゃけど」
村山「あそこじゃ、来たぞ‼はよう、こっちじゃ」
駆け込んでくる、ウメと真樹
飛行機の音が大きくなる、急いで戸をしめる村山
村山「みな、奥の方へ行っとけよ」
突然、ミサイルの落ちる音や銃撃の音がする
のぶ「なんまんだぶ、なんまんだぶ」
みち子「父さん早よう、もんて来て」
千代「はよう!おさまって…」
防空壕のなかで皆息を潜める
大きな爆発音 叫び驚くみんな
と「どこが爆発したんやろか」
村山「今日の空襲はいつもとちゃう、どうもおかしいぞ」
焼夷弾の落ちる音 飛行機の飛び交う音
タキ「遠のいたかと思うたらまたやって来る、何機も何機もひっきりなしや」
少しずつ飛行機が移動していく、標的が海岸渕の軍事工場にうつっていく
村山「なんや、飛行機の音が遠のいたようやな」
のぶ「ほんまじゃ」
と「このまま、おさまったらエエんやけど」
村山「まだ油断はできんぞ、戻ってくるやろし」
息を潜める…音が遠のく、ふとみち子に気づくタキ
タキ「ほうやね、あれ…あんた北見先生んとこのみち子ちゃん?」
みち子「はい、そうです」
と「北見先生って、小学校の北見先生え?ほんでも、先生おらんでよ」
のぶ「それがなぁ、みち子ちゃんおいて学校に引き返したんでよ」
タキ「こんなときまで、学校の心配しよんえ」
みち子「いま学校には、疎開で来とる子達が寝泊まりもしとって、はよう避難させんとって」
村山「ほんまは、人の事どころやないのにのお」
タキ「去年、結核で亡くなった奥さんの分まで、みち子ちゃんを守るって言いよったのに…」
みち子「父はどんな時でも、教師なんです。母は、そこが凄いんやって自慢しとったから」
村山「ほんでも、みち子ちゃんは心配でたまらんのに、困ったやつや」
のぶ「あれまあ、仁史さんいっつも北見先生の事を誉めよったでぇ」
村山「ほなっての、それもこれも命があっての物種やと思わんか?そうやろ」
のぶ「ほうやけど」
村山「ほなのに、先生はいっつも人の事ばっかりじゃ。それじゃいかん、いかんのじゃ」
タキ「そうは思うけんど、先生のあの性格はなおらんけんなぁ」
のぶ「ほうよ色々あるんよ、分かってあげんと」
村山「それは分かっとる、ほなけどなぁ」
のぶ「あーもう、ほんまに仁史さんはいつまでたっても頑固なんやから。月ちゃんが生きとったら、何て言うんかなぁ?」
村山「のっのぶさん、それはいかんわ…うちのやつの名は、出したらいかんわ」
少し場がなごみ、緊張がほどけるみんな
真樹「月ちゃん?」
と「ああ、月さんは村山さんの亡くなった奥さんでな、のぶさんと月さんは幼なじみなんよ」
真樹「へぇ」
のぶ「月ちゃんは、私が辛いときにいつもそばにおってくれた。月ちゃんがおったけん、もう少し頑張って生きてみよって思えたんよ。その旦那さんやから、うちからしたら弟みたいなもんや」
村山「まちいや、わしの方が年上なんやけど…」
のぶ「ほうやったかなぁ」
遠くで焼夷弾音や戦闘機の音がするが、別世界のようにみんな和やか
ま「みなさん…本当に色々あったんですね」
と「当たり前や、このご時世になんもない人なんかおらんわ」
ま「そうですよね」
静「真樹さんやっておなじじゃ、怖い思いして記憶なくしたんやろ」
ま「え?いや、私はなくしたっていうか時間を飛び越えたって言う」
みち子「時間を飛び越えた?」
と「あんた、ほんまに時々変なこと言うなぁ」
静「あのなあ、母さんも時々変なこと言うけん、良い勝負やと思うけど」
と「静、あんたなぁ」
村山「みんな、しずかに」
突然ゴーと飛行機の音と、ミサイルの落ちる音
ギャー、うわぁ、ヒぇー、イヤやなどと
そとから叫び声が聞こえる
静「なんなん…外はどうなっとん?」
ま「外は…」
黙りこむみんな