少々前の話題となりますが、あしからず。

 

アメリカのケイティ・ペリー(Katy Perry)は、アメリカのみならず世界的に知られたポップシンガーです。

彼女は以前より政治・社会的主張を厭わないシンガーでして(そういう人は向こうでは珍しくないですが)、2016年のアメリカ大統領選ではヒラリー・クリントン候補の支持を表明、反ドナルド・トランプの旗手として活動していたのは良く知られています。

 

しかし、彼女の思いとは裏腹にアメリカ大統領選はドナルド・トランプが勝利。トランプ当選の報を目の当たりにした彼女はツイッター上で以下のメッセージを発信しました。

 

 

「Do not sit still. Do not weep. MOVE. We are not a nation that will let HATE lead us.」

(じっと座っていないで、泣かないで、動こう。私たちはヘイトに先導されるような国じゃない。)

 

そしてアメリカ大統領選から約3カ月後の2017年2月10日、彼女は「Chained to the Rhythm」という曲を発表しました。

この曲はケイティ・ペリーの政治的メッセージを色濃く反映した曲だったこともあり、すぐさま話題となり、アメリカでは大ヒット(日本では“ハズレ”だったようですが)。

その政治的メッセージとは、ズバリ「トランプ政権に対する怒りと、アメリカ国民に向けた警告」。

 

とりあえずこちらの動画をご覧ください。「Chained to the Rhythm」のMVです。

分かる人は即座に「ピン」とくると思いますが、MVには様々な皮肉や暗示が込められています。

 

MVをご覧になった方は薄々お分かりでしょうが、遊園地はアメリカ、夢の様な世界で無邪気に遊び回る人々はアメリカの人々を暗喩しているんですね。

 

MVの中の印象的な場面をピックアップしましょう。

ケイティ・ペリー始め、多くの人達が無邪気に遊ぶ遊園地の名は“OBLIVIA”

“oblivion”(忘却)という単語からの造語ですね。訳すなら「忘却の国」でしょうか。

その名が意味するところは「忘れ去られた古き良き時代」あるいは「嫌な事、醜い事を忘れさせる国」という暗喩なのか・・・。

遊園地ですから様々なアトラクションがありますが、そのネーミングが振るってます。

アトラクション“The great American dream drop”。「偉大なるアメリカンドリームの堕落(失墜)」と読み取れます。

こちらのアトラクションは“No place like home”(家の様な場所は無い)。デカイ投石機の様なもので客を柵の外にブン投げるという過激な遊具(笑)。「柵の内側(アメリカ国内?)には、安住の地は無い」という暗示、あるいはトランプ政権の排外的な移民政策を皮肉っているとも受け取れます。

“Bombs away”。これはまあ、見たまんまですね。

お客が列をなすこのアトラクションの名前は示されていませんが、客がチューブの中をひたすら走らされる姿はメディアに踊らされ、翻弄する人々の暗喩でしょう(“tube”はテレビを意味する単語、転じてメディアを暗示している)。

“A nuclear family”(そのまんま核家族という意味)という3Dアトラクションを楽しむケイティ・ペリーと大勢の客の前に突如現れたスキップ・マーレー(Skip Marley:あのボブマーレーの実の孫!じーちゃんソックリ!)。スキップの怒りに満ちたラップを聴き、ケイティはハッと我に返ります。

しかし、夢の様な楽しい“忘却”の世界から目覚めたのはケイティ一人。彼女以外の人々は何かに操られているかの様に踊り続けて・・・。最後はケイティのシリアスな表情のアップで幕を閉じます。

 

このMV、他にも意味深なモノ・シーンが幾つか出てくるんですが、ぜひ探して見てください。

 

この曲の歌詞はこちらです(訳はかなりの意訳が含まれます)。

歌詞を読めばこの曲に込められたメッセージがより明確に理解できます。

 

[ケイティ・ペリーのパート]

Are we crazy? (私達おかしいのかな?)   
Living our lives through a lens(レンズを通した場所ですごしている)

Trapped in our white picket fence
Like ornaments(飾りの様な白い杭の柵に囲われて)
So comfortable, we're living in a bubble, bubble(快適ね、泡の中に住んでるのよ)
So comfortable, we cannot see the trouble, trouble(快適ね、トラブルは目につかない)
Aren't you lonely?(貴方は孤独じゃないの?)
Up there in utopia(ユートピアにいるけど)
Where nothing will ever be enough(何も満たされない場所)
Happily numb(幸せな麻痺だわ)
So comfortable, we're living in a bubble, bubble(快適ね、泡の中に住んでるのよ)

So comfortable, we cannot see the trouble, trouble(快適ね、トラブルは目につかない)


(Aha)
So put your rose-colored glasses on(さあ、バラ色のメガネをかけて)
And party on(パーティよ)

Turn it up, it's your favorite song(盛り上げて、貴方の好きな歌よ)
Dance, dance, dance to the distortion(踊って、歪みに合わせてね)

Turn it up, keep it on repeat(盛り上げて、繰り返しでね)
Stumbling around like a wasted zombie, yeah(疲れたゾンビみたいによろめき回るの)
We think we're free (Aha)(私たちは自由だと思う)
Drink, this one's on me(飲んで、奢りだわ)
We're all chained to the rhythm(私たちはこのリズムに繋がれている)
To the rhythm(このリズムに)
To the rhythm(このリズムにね)
Turn it up, it's your favorite song(盛り上げて、貴方の好きな歌よ)

Dance, dance, dance to the distortion(踊って、歪みに合わせてね)

Turn it up, keep it on repeat(盛り上げて、繰り返しでね)

Stumbling around like a wasted zombie, yeah(疲れたゾンビみたいによろめき回るの)

We think we're free (Aha)(私たちは自由だと思う)

Drink, this one's on me(飲んで、奢りだわ)

We're all chained to the rhythm(私たちはこのリズムに繋がれている)

To the rhythm(このリズムに)

To the rhythm(このリズムにね)

 

Are we tone deaf?(私達は鈍感なの?)

Keep sweeping it under the mat(汚れをマットの下に掃き隠し続けて)
Thought we could do better than that(そんなのより良いやり方ができるはず)
I hope we can(できると期待するわ)
So comfortable, we're living in a bubble, bubble(快適ね、泡の中に住んでるのよ)

So comfortable, we cannot see the trouble, trouble(快適ね、トラブルは目につかない)

 

(Aha)
So put your rose-colored glasses on(さあ、バラ色のメガネをかけて)

And party on(パーティよ)

 

Turn it up, it's your favorite song(盛り上げて、貴方の好きな歌よ)
Dance, dance, dance to the distortion(踊って、歪みに合わせてね)

Turn it up, keep it on repeat(盛り上げて、繰り返しでね)
Stumbling around like a wasted zombie, yeah(疲れたゾンビみたいによろめき回るの)
We think we're free (Aha)(私たちは自由だと思う)
Drink, this one's on me(飲んで、奢りだわ)
We're all chained to the rhythm(私たちはこのリズムに繋がれている)
To the rhythm(このリズムに)
To the rhythm(このリズムにね)
Turn it up, it's your favorite song(盛り上げて、貴方の好きな歌よ)

Dance, dance, dance to the distortion(踊って、歪みに合わせてね)

Turn it up, keep it on repeat(盛り上げて、繰り返しでね)

Stumbling around like a wasted zombie, yeah(疲れたゾンビみたいによろめき回るの)

We think we're free (Aha)(私たちは自由だと思う)

Drink, this one's on me(飲んで、奢りだわ)

We're all chained to the rhythm(私たちはこのリズムに繋がれている)

To the rhythm(このリズムに)

To the rhythm(このリズムにね)

 

[スキップ・マーレーのパート]
It is my desire(これは俺の情熱さ)
Break down the walls to connect, inspire, ay(繋がる為に壁を壊せ、発奮しろ)

Up in your high place, liars(俺らを見下ろす嘘吐き共め)
Time is ticking for the empire(帝国になる時が迫っている)
The truth they feed is feeble(実際の奴らの施しはショボイぜ)
As so many times before(そう繰り返されてきたのさ)
They greed over the people(奴らは誰よりも強欲だ)
They stumbling and fumbling(奴らはよろめき、まごついているぜ)
And we about to riot(俺らはいまや暴動を起こそうとしている)
They woke up, they woke up the lions(奴らはライオン達を起しちまったのさ)
(Woo!)

[ケイティ・ペリーのパート]
Turn it up, it's your favorite song(盛り上げて、貴方の好きな歌よ)
Dance, dance, dance to the distortion(踊って、歪みに合わせてね)

Turn it up, keep it on repeat(盛り上げて、繰り返しでね)
Stumbling around like a wasted zombie, yeah(疲れたゾンビみたいによろめき回るの)
We think we're free (Aha)(私たちは自由だと思う)
Drink, this one's on me(飲んで、奢りだわ)
We're all chained to the rhythm(私たちはこのリズムに繋がれている)
To the rhythm(このリズムに)
To the rhythm(このリズムにね)

 


It goes on and on and on(どんどん進んでいく)
It goes on and on and on(どんどん進んでいく)
It goes on and on and on(どんどん進んでいく)
'Cause we're all chained to the rhythm(だって私たちはこのリズムに繋がれているから)

 

歌詞の大まかなコンセプトとしては、「満たされている様で満たされていない様な、嫌なモノも目を背ければ見なくて済む、快適だけど何か釈然としない世界に生きている私たち、何か見えないモノに繋がれているみたいだけど、取り敢えず“自由”を満喫してればいいんじゃない?」といった皮肉めいたものです。

しかしふと思い出したかのように「私たちは鈍感なのか?」とか「ゴミをマットの下に掃いて隠すような事より、他にやれる事があるんじゃない?私たちはきっとできるわ」といった歌詞も交え、人々の“覚醒”を促そうという意図も込められたものとなっています。

 

この曲の肝となるのはフューチャリングしたスキップ・マーレーのラップパートです。

「トランプ政権以降、アメリカは“分断”された」と嘆く有識者が続出しましたが、“分断”をもたらした施政者(トランプ政権)へのアンチテーゼ、そして“分断された人々”への再統合と蜂起を強く訴えるようなラップ。MVではこの力強い訴えを目の当たりにしたケイティが“覚醒”する・・・というプロットになっています。

 

 

私がアメリカという国が「大したもんだ」と思うのは、権力を警戒・監視し民主主義を守ろうとする気概を持った人が常にいて、そういった人々が声を大にして主張する事が受け入れられる風土がしっかり存在しているという点ですね。アメリカと比較すれば、やはり日本は大同小異、長いものには巻かれろという風潮が強すぎます。日本のアーチストがアンチ安倍ソングを創って歌うとか想像できませんからね(笑)。

 

余談ですがこの「Chained to the Rhythm」、日本では「チェーンド・トゥ・ザ・リズム~これがわたしイズム~」という邦題がつけられていますが、何だよ“わたしイズム”ってサブタイトルは(笑)。

ケイティがこの曲に込めたシリアスなメッセージが台無しになっているような気がしますね。日本ではヒットしなかったのは、この軽薄なサブタイトルのせいかも(苦笑)。