日もとっぷり落ちて
あの賑わっていた町に仕事帰りの足音や居酒屋からの歌声が聴こえ始めた頃、
そのどれとも違う騒々しい音で気が付いた。

何事かと窓の外を覗き込むと、
全身銀色に装備したりオレンジに身を包んだ消防隊の人達が慌ただしく走り回り、
少し離れて消防車や救急車が待機しているのも確認できた。

「下が凄いことになってる」

その呼び声につられ道路に出てみると、
すぐそこには消火ホースが走らされ、
隊員らはあるマンションを取り囲むように準備をし、
様々な無線の声が飛び交っていた。

そのマンションを中心にした道路の左右20mほどには(keep out)の黄色いテープ。

タダゴトではない様子で火事かと思い、

「火事ですか?」

と、隊員の一人に尋ねても違うと返された。


そのマンションを見ると3階の部屋に隊員らが集まり、
ソコでは「ピーピー」とけたたましくアラートを告げる警報が鳴っている。


…ガスだ…!


無線や会話を注意深く聞いてると、
どうやら密室での自殺を謀っているらしい…



実はこの部屋の住人…今までも何度も救急車で運ばれるような騒ぎを起こしていて、
睡眠薬などを飲んで道で倒れ込むというのも珍しくなかった。

「またか…」

通行人の一人がそう呟きながら歩いていったその時、

「危ないので皆さんは一旦テープまで下がって!!」
「家が近い方も入って下さい!」

隊員の一人がそう叫んで皆に避難を促した。
爆発の危険性を考慮しての事だろう…

僕も部屋に戻り、ベランダから様子を伺う事にした。
少ししてストレッチャーが1階に用意され、隊員達も先程よりも動き出した。

そんな時に

「これより30秒後に解放する!」

と号令が走った。
まだアラート音は鳴っている…


そして


合図と同時に玄関の扉を解放。
ガスマスクを装着した隊員が中に入って行く。

少しして、住人を運び出してきて乗せた担架を2階まで降ろしたあたりで、

「練炭出します~!」

の号令があった。


…そういう事だったのだろう。



そして住人の方は、ブルーシートで周りを囲まれたストレッチャーに乗せられ救急車に運ばれて行った。

その姿をベランダから見ていた僕には、目を見開き、口元も緩んでいた彼の顔が薄暗い中でだが見えた。

大丈夫かと些か心配している僕に

「瞬きしてんの見えたよ。」

と、隣が声をかけた。

無事である事を願う。




ただ、なんでこんな事をするのかがホントにわからない…
そりゃあ生きてれば色々あるし、そうゆー事も考えてしまうほど「陰」(鬱とも)に入る時だってあるだろうけど…

なんでブレーキが効かないのか…


僕がなった時もほんの少し考えちゃったけど、止めてくれるモノってあったしね。
皆多かれ少なかれ持ってるはずなんだよ。必ず。




まぁ何にせよ、こんなことは二度と遭遇したくないです。
実話で近所だから尚の事ゾワゾワした。








おやすみ┏●