ヒトは強くなれた瞬間を、
実感できるものなのだろうか。
徐々に形作られていく柔軟な思考を、
歪みを超えて受け入れられるものなのだろうか。
自分にはまだ不可能な成長を、
教えてくれるのは彼女だ。
「涙なんかもぅ出なかった。
その手紙のコトバに思わず笑っちゃった。
たった一言の文面…。
気が付いたら部屋の真ん中で、
”強くなったー!”って叫んでた。」
お姉さんとの食事を終えて帰宅した彼女は、
会う口実で買ったクスリの封を開けた。
そこに書かれていたコトバ…。
”ありがとう”
愛するヒトを奪われた相手に、
感謝を述べられたら自分はどうするだろう。
きっと…、いや確実に、
憎悪と憤慨の念でおかしくなる。
どうしてそこまで…、
大らかで寛大なままでいられるのか…。
「後悔したり、怨んだりしないの?
いいヒト過ぎる。」
問いかけるというよりもはや独り言のように呟いていた。
それを聞いた彼女は微笑む。
「悔やんだって、何も変わらないでしょう?
怨んだって、自分が苦しいだけでしょう?
進むためには、省みるだけ。
新しい何かを、自分のものにすればいい。」
新しい何か…。
彼女にとってそれこそが、
”無償の愛”。
生まれた真のマリア。
「俺も、赦されるのかな…。」
ふと零れたコトバに、
彼女は顔色ひとつ変えずに答えた。
「自分で自分を憎んでいるヒトは、
自分次第で良くも悪くもなる。」
まるで見透かされているようなコトバに、
一瞬呼吸を忘れた。
自分の苦悩を口にした事は今までなかったはずだ。
憎んでいる相手が自分?
考えてもいなかった。
ある人を傷付けてしまった事をただただ後悔しているくせに、
一生憎まれ続けてもいいという覚悟はなかった。
自分次第で良くも悪くも…。
勢いよく立ち上がった彼女は、
足元に転がる石を手に取り川に投げる。
水面に叩き付けられた石は思った以上に大きな音を立てた。
「リュージ!
どっちが先に向こう岸まで投げられるか勝負しよう!」
ほらまた、
そうやって子供のように無邪気な笑顔を見せる。
彼女には勝てない。
ならせめて…。
足元にあった大きめの石を手に取った。
「え、そんな大きいの飛ばせる?」
はしゃぐ彼女を横目に、
思いっ切り腕を振る。
届け!
「「……。」」
反対側の河川敷を歩くおじさんの足に見事直撃した。
遠くて何を言っているのかは聞こえないが、
痛がりながらこちらを見て怒っているのは気のせいじゃないらしい。
彼女に目をやると、
隣でお腹を抱えてしゃがみ込んでいる。
笑いすぎて涙を浮かべた瞳と目が合った瞬間、
彼女の手を引いて走り出した。
「逃っげろー!」
そう叫びながら走り出した彼女は、
向こう岸のおじさんに大きく手を振っている。
「おじさん、上を向いて歩こうー!」
そのコトバに思わず笑ってしまった。
大切なものは大抵足元に転がっているものだ。
それに気付けないのは、
何かを見落としているから。
自分へと向かい転がってきている時に気付けていれば、
見失う事なんかない。
それを踏まえてこそ、上を向いて歩けばいい。
このヒトは大切な事を教えてくれる。
俺はマリアに、
赦しを乞おう。