「”嘘と罪に愛されて
うまく笑えないんだ…”
”嘘”だけなら良かったのにね…」
バイトを終えていつもの河川敷に向かったのだが、
彼女の姿がなかったため今日は大人しく直帰した。
夜食を食べながらニュース番組をぼーっと見ていた時に
ふと思い出したのが、
付け加えられたあの一言だった。
「”嘘”だけなら良かった」…?
いや、良いはずがない。
偽る事は、陥れる事になりかねない…。
しばらく考えてから、箸が止まる。
「”罪”だ…。」
妙な確信が持てた。
あの歌は、彼女がマリアを崇拝するための歌じゃない。
マリアに、彼女は助けを求めている…。
甘ったるい空気に煙が漂う、とある部屋。
絡み合うことのない視線を探りながら、
絡ませ合う体に息を切らす男と女。
汗を拭き終え、男はドリンクに手を伸ばす。
タバコを吸い終えた女は、あるモノに手を伸ばす。
「ちょっとあっち向いててね。」
男は軽く頷き、後ろにあるテレビの正面に体ごと向けた。
それを確認してから、
女は慣れた手つきで再び甘ったるい空気を作り出す。
「もぅいいよ。
お風呂入ろっか。」
気持ちだけが高ぶる。
感情を持ち合わせていない二人。
そして浴室に響き渡る、
狂った喘ぎ声。
いつもの様に河川敷で見つけた彼女の横に腰を下ろす。
無言の彼女はただ、川の流れを目で追い続けている。
決して綺麗とは言えない川なので、
たまにペットボトルやお菓子の袋が目の前を横切る。
「恋愛って、感情ゲームだよね。」
冷たい声だった。
表情も動じる事なく、こちらを見ることもなく、
独り言のように呟かれたそのコトバは、
すぐに雑音に紛れて消えた。
もう待てなかった。
ゆっくりと立ち上がり、
彼女の正面に立って少し声を大きくして言った。
「いい加減教えてくれよ。
君が何を抱えて、何に苦しんでいて、
何を思っているのか。
少しずつ発される情報を膨らませて考えて…、
頭の中がもう整理できないんだ。」
姿勢を崩すことなく、
彼女はただ視線だけをじっとこちらに向けている。
その態度に、少し腹が立った。
「本当は言いたいんだろ?
言ってスッキリしたいんだろ?
”罪”って一体、何?」
そう言った後に、自分から少し目をそらしてしまった。
こんな嫌味な言い方したって、キモチは動かせない…。
「どーせ受け入れてもらえないから。
否定されるのが恐いだけ。」
彼女は低いトーンでそう呟き、立ち上がって背を向けた。
ゆっくりと立ち去っていく彼女を目で追いながら、
もどかしいこのキモチが抑えられなくなった。
「受け入れるよ!
君の事、何もかも受け入れるから!
だから恐がらないで、苦しまないで…。
裏切ったりしない、それは約束できるよ。」
離れていく背中に、精一杯放ったコトバ。
彼女の足が止まった。
そしてくるっと振り返って、
足早にこちらへ戻ってきたと思えば、
いきなり胸倉を掴まれた。
「”約束”って、
破るためにあるんだよ?」
彼女は顔を寄せて、
一文字一文字をはっきりと声に出した。
その目は、
睨むわけでもなく潤むわけでもなく、
ただただ目の奥を見つめる…、
”自分自身”を覗き込まれているような感じだった。
とりあえず胸倉にやられた手を離そうと
細い手首を掴もうとした瞬間、
逆に腕を掴まれた。
「教えてあげるよ。」
そう言って彼女は腕を引っ張って歩き出した。
一瞬触れた彼女の手は小さく震えていた。
ここが入り口だと悟った。
迷い込んだ迷路…、
”二人なら出られる”なんて、
その時はまだ安易に考えていた。