2月22日(月)
実を言えば、遥か異国カナダはバンクーバーの氷をも溶かし、競技決行不可能という事態にも繋がりかねないこの我がカーリング熱の発端は、「どうせなら何かひとつの競技に肩入れした方がオリンピックをたのしめそう」という不純な動機先行のものであった。折しもそう考えていた矢先、日本が激戦の末にアメリカを下した初戦を見て、「これはもしかしたら大躍進するかもしれない」と勝手な第六感が働き、青田買いの要領で夢中になるべきはカーリングだ、と決めたのだった(ちっとも青田買いになっていないが)。そうして追いかけているうちに、そんな不純な思いなど本橋選手にダブルテークアウトされ、ハウスに残ったのは純粋な競技としてのカーリングのおもしろさのみという、解説の小林さんも興奮請け合いの好結果と現在相なっている。
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日本時間昨夜未明に行われた対ロシア戦。開始時間はふだん夜更かし気味のボクにとっても生テレビ観戦するのは少し厳しいくらいに深い時間。ならば、と一念発起したボクは、てきぱきと居間を片付け寝支度を整えふとんに入った。しかしこれは開き直って眠るわけではない。カーリング観戦である。ノット・スリープ、バット・スウィープである。
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ふとんに入ると携帯電話を用意し、アンテナを引っぱり出す。そしてテレビ機能を起動させる。今宵はそうやっていつでも眠れる態勢でもってカーリング観戦と洒落込むことに決めたのだった。
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就寝前のふとんのなかといえば、本来ならばそこは決して侵されてはならない、読書の聖域である。ふり返ってみてここ一年、就寝前にそこで本を開かなかったことなど一夜としてなかった。そんな皆勤賞を蹴ってまで、そして指三本ぶんの小さな液晶画面という見るに堪えない方法を選んでまで、観戦に向かわせる魅力が今のカーリング女子日本代表にはあるということだ。
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携帯電話で見るワンセグテレビ。こいつは、なのか、ボクの部屋の電波状態は、なのか責任の所在が明瞭ではないが、飼いならすにはなかなかに厄介な代物である。寝転びながらちょうどうまく見られる位置に携帯を置きたい。だいたいの位置が決まればそこに固定させ、いかんせん末端冷え性なものだから一刻も早く手は温かいふとんのなかに収めたい。そうして携帯から手を放したとたん、どういうわけか電波が途切れてしまうのだ(画面がフリーズしてしまう)。微調整などではない、位置はそのままでもふとんから手を出して触れてやれば再び映像はきちんと流れてくれる。そろそろ大丈夫かな、と手を放してみれば、やはり映像は固まってしまう。触れてやれば機嫌がよく、離れれば機嫌を損ねる。これはもう赤ん坊である。
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我が末端冷え性は、特に就寝時、ふとんのなかに末端を収めておかねば冷えてしまってもう大変である。しかし収めてしまえば、大切なカーリングの試合を断念することになってしまう。苦悶している間にも末端はどんどんと冷たくなっていく(症状はそれ以上でも以下でもない)。テレビを見たらば、試合は中盤、ナンテコッタ、日本は0‐6とロシアに大量リードを奪われている。これは末端にかまっている場合でない、と覚悟を決め、静粛なる激励を遥かカナダに送る。そして、延長戦にまで及んだ激戦を制したのは、我らがクリスタル・ジャパンだった――。
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結果を知ったのは朝もずいぶん遅い9時過ぎ、同じく携帯のテレビで起きぬけに見たワイドショーでだった。睡眠と引きかえにでも見るべき、見届けるべきと気持ちでは思っていた一戦。悔やんでも悔やみきれない、ボクはいつのまにか眠ってしまっていたのだ。朝、目を覚ましたとき、そこにあったのは電池切れして暗い画面をこちらに向けた白い携帯電話と、忘れられた洗濯物のように冷たくなった右手その末端。これほどまでに手を冷たくして応援する者は、日本はおろかバンクーバーにもおるまい。
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昼間に行われたドイツ戦は残念でした。次はスイス戦。応援していますカーリング女子日本代表!