なにか変な気持ちだった。
それはいつも突然やってくるのだが、絶対に人とは分かち合えない種類の悲しさと寂しさの中間のような、そんな気持ちに襲われていた。
初めてではない、何度か経験したことのある気持ちなのだが、これというのは一向に慣れることがない。
理由があるときもあるが、何の予兆もなく襲ってくることがほとんど。
今日もまさにそのケースだった。
『このまま電車に乗って帰ろう』と思っていたのだが、衝動的に次の駅で降りて、あるケーキ屋さんに向かった。
予報外れでいきなり強く雨が降ってきていたのだが、当然傘なんて持たずに、まっすぐそのケーキ屋さんに向かった。
着くとすでにけっこうびしょ濡れだった。でも店員さんはイヤな顔ひとつせずに『いらっしゃいませー』と笑顔で対応。目当てのケーキを探すことを忘れてただショーケースに並ぶたくさんのケーキを眺めているだけのボクを、店員さんは感じのいい笑顔で見ている。
お客さんはボクの他に、小さい子どもを2人連れた夫婦。人の気なんて知らずに、子どもが無邪気にボクに話しかけてくる。でもボクもそれに応えたりして、すごく楽しい。すごくかわいい。お父さん・お母さんもその光景を見てにこにこ。店員さんもにこにこ。
時間をかけてケーキを選び、代金を払い、お店を出る。
外は依然として雨が強く降ってこそいるが、ボクの気持ちはぜんぜんちがう。
行くときと帰るときの気持ちはぜんぜんちがう。
なにか気持ちが枯れているようなとき、ボクはしばしばケーキを買う。
なぜか幸せな気分になれるから。そしてそれをすれば幸せになることを知っているから。
ボクの幸せの象徴は、ケーキを買うこと。