著者:朧谷寿
発行:ミネルヴァ書房 2018年
藤原彰子は藤原道長の長女として一条天皇に入内し、2人の男児を生み何れも天皇として即位(後一条天皇、御朱雀天皇)することにより、藤原氏の黄金時代を築いた女性である。本書の副題である「天下第一の母」は、大鏡の第五巻道長上の中の『ふたところの御母后、「太皇大后宮」とまうして、天下第一の母にておはします。』(日本古典文学大系(岩波書店)より)からとったとのことである。
本書は彰子の生涯を種々の文献を引用しながら記述していくスタイルをとっており、読み物としては読みやすくておもしろいというものではないが、彰子の生涯を客観的にみることができるといえるのかもしれない。以下、印象に残ったことなどをあげておく。
・彰子の妹の威子が立后し、三后(太皇太后彰子、皇太后妍子、皇后威子)が揃い、道長が「この世をば」と詠んだという時が藤原氏の全盛期で、頼通の時代はただ下降線をたどるだけだった。
・権力を握るには外祖父になることが決定的に重要であり、多分に偶然に左右される要素を含んでいると感じた。
・頼通が入内させた娘は男子を生まず、加えて頼通の性格的な面もあり、姉の彰子の力が相対的に強まり、その後の院政への道を開いた。
・火事が異様に多い。内裏が消失することも度々で、天皇は道長や頼通の屋敷などに仮住まいしている。なぜ火災対策が進まなかったのだろう。ひょっとして政治的な思惑が関係する放火などもあったのだろうか。
・随所に「栄花物語」や「今鏡」からの引用があり、積読だけになっている両書をみてみたいなという気分になった。
・二人以上の天皇を生んだ女性はほかにいるのかと調べたところ、藤原氏に限っても、基経娘の穏子(朱雀天皇、村上天皇の母)、師輔娘の安子(冷泉天皇、円融天皇の母)が該当する。もし秋篠宮が天皇になれば、上皇后美智子さまも2人の天皇の母となる。