著者:宮城谷昌光
発行:文藝春秋 2025年
本書は著者が1991年から1996年に発表した中国の伝説時代、春秋戦国・前漢時代を題材にした短編小説(の一部)から構成されている。「布衣の人」は舜、「買われた宰相」は、百里奚、「俠骨記」は曹劌(そうかい)、「宋門の雨」は墨翟(墨子)、「花の歳月」は、竇姫(猗房)(武帝の2代前の文帝の皇后で文帝の後を継いだ景帝の母)といった具合である。
春秋左氏伝や史記などに記された断片的な史実をもとに想像を膨らませて空白部分を補い印象的、感動的な物語になっていると思う。例えば、「花の歳月」の主人公竇姫(猗房)については史記・外戚世家をベースとしているが、小説では猗房は貧農の出であるとして、農家でのきびしい生活から呂后の侍女となり、代王(のちに文帝として即位)のもとに送られ、ついには文帝の皇后となり、実弟の広国との対面を果たすまでの波乱万丈の、涙を流さずにはおられない物語が展開されている。
竇姫については全く知らなかったので、史記の外戚世家を読んでみたくなった。