峯村健司さんが、結構ピンズドな議論をしていて、昨今一層顕著に見える清貧的な習近平さんの思想の根幹がロシアの作家・チェルヌイシェフスキーの著作にあるのではないかという話で、言われてみればそうだな、と。

【プーチンと習近平】世界でもっとも危険なふたり 習近平が“籠絡”されたプーチンからのプレゼント|NEWSポストセブン https://www.news-postseven.com/archives/20220706_1768841.html

 チェルヌイシェフスキーは極東とも縁が深く、まあ要するにやらかして政治犯として長年シベリア送りになっておったわけですが、何を言ったかといえばマルクス社会主義国家建設にあたって、資本家の清貧的活動であったり、『農村共同体論』という、ある種の計画経済・マルクス経済学の政策実践のひな型のような著作を持ち、またユートピア社会主義を体現したような人物でもあります。

 なもんで、確かに習近平さんの中国共産党入りに強い意味を持っていた父・習仲勲さんの訪ソと、それにまつわる思想的バックグラウンドが奈辺にあるのだとすれば、確かに帝国主義の旧領回復にいそしむ(脱近代化に失敗したロシアという意味での)プーチンさんの思想と、ラフメトフの書中での説話に影響を受けた習近平さんとの間柄において、習近平さんが「私たちは似ている」と公式に発言するのも理解はできるよなあと思うわけですよ。

 対中国ではいろんな論評が成立するものとはいえ、習近平さんが実はユートピア社会主義のような、ある種の原始的というかナマの社会主義思想の持ち主であるだけでなく、権力者としてそのような方針で社会建設をしたいと考える人物であるならば、確かに出世もするし有能なんだろうなあとも感じます。習近平さんがあれだけの反腐敗運動をやり、収まるかと思いきやもっと苛烈に進めているのも、チェルヌイシェフスキーの著作に思想的な共鳴をしていたのだとするなら(習近平さんの説話を見るとびっくりするほどマルクス回帰的だけどベースは何かは良く分かっていなかった)、すごく類似点があるよねと思います。

 それがマルクス主義的に厳格であるからこそ、原理的であるがゆえに、各種政策を浸透させるロジックとして非常に強固であって、また遊びがなく、権力闘争に持ち込まれても堅牢な理論的バックを持つのかなあとすら感じるんですよ。だって理想の社会主義建設をするための中国共産党なんだもん。

 類例として、2,300万人上海市において、またコロナが増えてきたからゼロコロナ政策して都市封鎖再開するぞって話で、いままでは、どっちかっていうと一度トップが決めたことをひっくり返せない組織的硬直性を指摘する話は多く流布されてきました。私もどっちかっていうとそうなんだろうなと漠然と思っていたわけですよ。

高口康太×安田峰俊×山谷剛史
「B級中国2022コロナを封じるユニバーサル異国飯教えますスペシャル」
https://bookandbeer.com/event/20220527_bc/

 ただ、ここに峯村健司説でユートピア社会主義の影響が強かったんだよって補助線が入ると、見え方が変わってきます。これ、ただのゼロコロナ政策の推進ではなくて、あるべき社会への建設にあたり、コロナ対策が十全に行えない国民や行政の対応は怠惰だよって話ですよね。国民は身を切ってでもコロナ対策をしろ、不適切なものはきちんと除去するのが責務だという話になります。「ぜいたく禁止令」もその一環ということになりますし。

 これだとよく中国観察で見られるような幸福な監視国家論も成立しつつも、上層部はさらに苛烈で、本当の意味でのマルクス主義的な清貧国家観じゃんと思うわけですね。豊かだけど真面目に働く国民の社会、本当に望ましい働き方をしているのかは監視して共産党が統制いたしますよ的な。そこまで首尾一貫でできちゃうのが習近平さんの優秀さ、有能さであると同時に、改めて中国とロシア双方の隣国としてこりゃ大変なところでワイら民主主義やってるぞ、と参院選直前に震撼してしまった次第であります。