かねて「グレーだよな」と言われていたリーガルテック系のネタ、とりわけAIによる契約書のリスク診断について、よせばいいのにグレーゾーン解消制度をぶん投げた猛者がいたようなんですよ。

 ちょっといい方は悪いですが、AI(人工知能)による契約書の診断というものは、業として弁護士が行うべきものだ(法72条)という解釈は昔からあったものの、深層学習の仕組みが発達するにしたがって「まあいいんじゃねえの」という流れとなり、いまではまあたぶん大丈夫だろうというザッカーバーグ的思考でみんな突き進んでしまってきたのもまた事実であります。




 先日GVA tech社がリリースしていたリーガルテック・カオスマップで言うと、抵触するのはこの「作成」と「(契約書の)レビュー」の部分であって、法72条の「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない」における「鑑定」ないし「その他法律事務」に該当するのではないかという点でかねてグレーとされてきました。



 特に契約書のレビューにおいて「本件サービスが弁護士法第72条本文の適用を受けないものであること」をグレーゾーン解消制度に突っ込んでいったわけです。正直、聞かなくても良かったんじゃないかな… と思うのですが、弁護士界隈でも佐藤藍子ばりに「私もアウトだと思ってました」という人もいれば「もうすでに一般化して顧客も獲得している界隈なのにここで黒判定を匂わす裁定はおかしい」と憤る投資家もいます。

 ただ、この質問の仕方であれば、いままでの懸念通り黒ですと言われても仕方がないと思うんですよ。AIであるかどうかは別として、弁護士や弁護士法人でもない一般の企業が「お前んとこの契約書を安くチェックします」と言ったら普通に真っ黒な非弁行為なわけで、AIだからセーフ、非弁の手作業だからアウトなんて線引きを法務省がするはずもありませんからね。だからこそ、かねてグレーだろと言われてきたんです。

新事業活動に関する確認の求めに対する回答の内容の公表

 本来、AI診断というのは業として行う限りにおいて、あくまで主体となる人がおり、それに対して問題を解決するツールであるということで、対価を支払うのだとしても「に法律上の専門的知識に基づいて法律的見解を述べるもの」、つまり「鑑定」には当たらない前提で、一連のリーガルテック界隈は拡大してきたことになります。

 ところが、法務省が回答してきた内容で言えば、グレーゾーン解消制度を使って現在とってもグレーなリーガルテック界隈でなあなあで済ませてきたど真ん中を質問ぶん投げたところ、なんと「本件サービスは、弁護士法第72条本文に違反すると評価される可能性がある」とかいうグレー回答を法務省が返してきたことになります。

 違反するならするで、そうはっきり書いてくれよ。

 ただ、本件で回答してきた本旨を見る限り、はっきり本件業務は法72条における鑑定だぞと評価されてしまっている以上、個々の中身は黒判定なのであって、黒に近いグレーということでリーガルテックなのに猛烈なリーガルリスクに晒される結果となってしまいました。

 4分の3ぐらい「お前のことやないか」と名指しされたも同然であるリーガルフォース(Legal Force)社が速攻で俺大丈夫だからなという雰囲気の顔真っ赤リリースを出していますが、うちの事業の本丸に対する判定ではないので「弊社サービスと弁護士法第72条の関係につきましては、従前より外部の専門家や弁護士との協議を踏まえ、適法に設計しております」としています。

グレーゾーン解消制度を用いたAI契約審査サービスに関する法務省回答について
https://legalforce-corp.com/4191/

 いや… この内容だと、創業来ずっと適法じゃなかったんじゃないの? ってツッコミを受けかねないので、改めて、リーガルフォース社だけでなく、同様のリーガルテック系サービスの提供事業者はより正確な自社サービスのコア部分について別途グレーゾーン解消制度で確認の求めを行ったほうがいいんじゃないかと思います。

 より面倒なのは、この判定結果が出たことで、一連のAIを用いて契約書レビューを担う事業者や作成も行う事業者に対しては、それを利用しようとする弁護士も弁護士職務基本規程11条の「弁護士は、弁護士法第七十二条から第七十四条までの規定に違反する者又はこれらの規定に違反すると疑うに足りる相当な理由のある者から依頼者の紹介を受け、これらの者を利用し、又はこれらの者に自己の名義を利用させてはならないにダイレクトに引っかかることになりますね。

 なにより、リーガルテック各社は第三者の契約書をカネもらってレビューする場合は特に、この「違反すると疑うに足りる相当な理由のある者」になり、弁護士がこのサービスを利用したりクライアントに利用を薦めると同条違反になる恐れがありますから。

 根本的なところで回避しようとするならば、きちんとした弁護士法人が契約者である第三者の契約書レビューを行うにあたってAIを使いました、だから法72条違反じゃありませんという仕組みにしないと駄目なのかもしれませんね。

 そして、ほぼまったく完全に同じような事情で、いまの医療データの利活用においても特にオンライン診療・遠隔医療で同テーマの問題も起き得るかと思うんですが、猛者が聞かなくてもいいことを聞いたことで、各社が「俺んとこのサービスはセーフだよな? な?」って一刻も早く聞いてくれないと懸念が解消されないという実に面倒くさい状況になりましたので、グレーゾーンなんすが白すか黒すかと聞かれて「んー、黒っぽいですね。まあグレーっすよ」と男気回答した法務省のハートの強さを賞賛したいと思います。

 ほかにもグループ法務の主たる業務がAIを用いた司法書士によって行われるケースやら、建築士法関連で資格を持たない人が他社AIで構造計算するケースなど、AIと名がつけば何でもやっていいのかという議論はどうしても出てくるので、もはやイノベーションとか関係ないんですよね。

 AIと憲法、AIと著作権、AIとデータ法制のところまで踏み込んで、根本的なところを整理しないといけなくなったんだなあという感慨を深くしますね。

(18:20 追記)

 ご指摘があり、一部内容を追記し正確を期しました。ご連絡、ありがとうございました。