厚切りジェイソンさんの本は読んでいて、すでに月刊『MONOQLO』の書評連載で論じてるんですが、非常に真面目なアメリカ人が真正面から長期投資をお薦めしているので個人的にはよいと思うんですよ。

MONOQLO
https://www.shinyusha.co.jp/media_cat/monoqlo/




 ただ、長期投資をやってきた者としては、ドルコスト平均法や、本書でほんのり例示されるようなインデックスファンドで分散投資だ、ってのはあくまで「リスクの少ない投資手法のひとつというだけで、必勝法というわけではなくタイミングを間違えると面倒なことになる」のは変わりないと考えています。

 例えば、私がサイバーエージェント株に投資をしたのは上場した2000年からで、その後、少し買い増したあとそのままになって22年保有しています。その間、シーエーモバイル上場未遂問題とかアメーバピグ未成年者略取問題などさまざまな不愉快な事件があり、またせっかくサイゲームズで阿呆なゲーマーがジャブジャブに課金してくれて儲かっているゲーム事業のカネをすぐに採算に合うとは思えないabemaTV事業にどんどん投入するのでいい加減にしろと思いながらもずっとホールドしています。おかげさまで、含み益という点ではまあまあ良かったなと思いますし、適当なガバナンスと思い付きのような事業投資決定さえしなければいいのにと思いながらも長期投資でサイバーエージェントグループの長期的成長から利益を享受しています。

 この手の長期投資が実を結ぶのはひとえに世界的に景気が拡大していて、充分に平和で、欲しいものがすぐに手に入る日本の優れた社会環境が長期投資において恵まれた環境であったよということであって、ドルコスト平均法も分散投資もいずれにせよ投資資金に余力があり続ける人が世界平和と経済の拡大という大きなトレンドが続いてくれる前提において、という条件が付くことを忘れています。

 また、私は本業がら、どうしても現物・先物を触らないと仕事にならないので時間が許す限り(ゲームとかしながら)チェックはしていますが、相場を見る仕事をしていない人からすれば長期投資は好まれる投資手法だとしても仕事で関わる分野での投資のほうが、やはり圧倒的に収益性という点では高くなります。ドルコスト平均法で例えば一年間毎月均等に1億円投資するとしても、それは過去20年ぐらいの証券投資における上昇トレンドがあるからこそであって、この上昇トレンドが続く限りリーマンショックぐらいの失調があっても一時的な損失で済むよというレベルの話でしかありません。

 単純にロシアとか資源国とかで政変が起きて輸出入管理している口座が凍結されるよとか、通貨危機が起きて当事国の通貨が大幅下落して貿易保険も通らなくなるよなどのリスクを経験すると、確かに長期投資は資産保全のために優れた投資手法ではあるけれども「それだけが投資じゃないよ」という話になるし、細々としたサラリーの中からわずかな金額を投資に積み立てるという立場の人以外はなかなか大変なんじゃないかと思います。

 で、厚切りジェイソンさんの話というのはその文脈で言えば「世界が平和で順調に経済が伸びていけば、アメリカを中心に事業収益は上がっていくことになるのだから、相場の上がった下がったは無視して長期的な分散投資をすれば相場の拡大に応じて徐々に投資収益が得られ、現金を銀行に預けて金利をもらうよりもはるかに大きいリターンを得ることができる」という話に尽きます。その通りです。支持します。

 ただ、それが「なぜそうなのか」という理屈が分からなければ「世界平和でジャブジャブにマネーが増え、経済が成長しているならば」「覇権国であり基軸通貨を持つアメリカがもっともその恩恵を蒙る」という前提があることが理解できないかもしれません。そして、コロナウイルスや限定的な米中対立、ロシアによるウクライナ侵攻、そこから引き起こされた資源高と物流の停滞が世界経済成長の大きなトレンドを損ねる可能性があり、中長期的に、世界経済の停滞と相場の失調が続く危険性もないとは言えません。つまりはいまが相場の天井なのかどうかです。

 ゆえに、ドルコスト平均法がいかに安定した投資手法であると厚切りジェイソンさんが薦めるしても、それを始めるタイミングが相場の天井であったならば、どんだけ分散しようが凸凹を均せようが、相場低迷の弊害を受け続けることになります。長期投資で安定投資をするつもりだったのが、実際には落ちていくトレンドでひたすらナンピン買いを始めてしまった可能性だってあります。

 したがって、相場についてあまり分からない人は厚切りジェイソンさんの言葉の真意を理解することができず、投資を進められて騙されたと思うだろうし、危険な相場も日々扱っている人から見ても厚切りジェイソンさんの投資の薦めは教条的過ぎてすべての局面に合致するようなものではなくそりゃ炎上しても仕方がないだろうなと感じるかもしれません。

 そして、相場というのは結局のところ結果がすべてで、その投資手法の選択や銘柄、インデックス、不動産などの個別の選択にいたった経緯はどうでもいいわけです。成功したら税金を払い次の投資にいく、失敗したら泣きながら次こそはと思う、それだけのことですから、いろんな人の意見を聞きながら、勉強料授業料も払い、自分なりのコツをつかんで世界観・相場観を磨いて試算を築いていくしか方法はないのだろうということです。

 昨今では、韓国製仮想通貨(暗号資産)LUNAが派手に暴落していましたけれども、あれだって、途中まで乗っかって途中で逃げた人は儲かっているわけですし、結局すべては入れたときと出たときのタイミングがすべてで、当事者であるうちはよいのか悪いのかは分からず、事後にしか検証できませんし胴元でない限り100%勝てるなんてことはありません。リーマンショックで大損をした人もいれば、リーマンショック後に買いに回って資産を築いた人もいることを考えれば、先のことは分からない前提で、安全確実なものは何一つない、長期投資においてをや、と肝に銘じるしかないんじゃないのと思います。

 厚切りジェイソンさんはツイ消ししましたが、個人的にはいつだって定期的にツイートなんて理由なく消していいものだし、私なんてTwitterをBANされてますからね。相場も人生も何が起きてもよいようにしておくしかないものなのだと割り切るしかないんじゃないでしょうか。

https://archive.ph/ZJxw5