人口減少に伴う衆議院議員の区割り変更(ゲリマンダー)について、10増10減ということで固まりまして、目下面倒な作業が発生しています。

 私の住む東京都は小選挙区が5議席増、比例代表が2議席増ということで、まあ人口面では大変だなと思う一方で、住んでいる地域で選挙区を割り、住民の一人一票を確実なものにする場合、見た目の一人一票はもちろん大事なんですけど実際には「都市部に住んでいる年寄りの塊」が「地方・田舎に住んでいる20代30代の若者の粒」を政治的影響力では派手に上回るようになります。

 いわば、公平を期待して一人一票の原則としてゲリマンダーを土地でやる場合、一番死票になりやすいのが地方在住の若者や勤労世帯であることは統計上明らかなので、もしも次に選挙制度改革をする場合は地域代表としての小選挙区だけではなく、年齢別代表制や性別代表制などアライメント別の比例議席なんかも設定すると選挙制度がカオスになっていいんじゃないかと個人的には思います。国会で若者代表が質問するとジジイ代表が激詰めしている場面がNHKで放送されるとか最高じゃないですか。

 で、その辺の区割り話をしていると、永田町方面から「小選挙区やめようぜ」という話が良く出てきます。常々小選挙区制の比例代表復活はけしからんという声が国民からも出て、せっかく小選挙区で落としたのに比例でゾンビとなりバッヂをつけて国会をウロウロするのはどうなのよという話も出ます。

 ただ、極論すれば小選挙区で与野党直接対決となり、1対1で戦う場合、50.1%と49.9%の得票となれば、負けた49.9%の有権者の票は比例復活が無ければ全部死票になります。落選したとはいえ49.9%で落選した候補と供託金没収される候補とどちらも無職になるのは制度上おかしいので、では惜敗率という考え方で政党の地域比例代表でリストに入り、党内での惜敗率が高い順に議席を占められる仕組みであれば有権者の死票が減るという点で理に適っています。

 他方、某東海でもそうでしたが小選挙区で供託金没収ライン未満の得票しかとることのできなかったれいわ新選組の泡沫候補者が、比例代表でれいわ新選組が議席を獲得したけど「お前は供託金没収のクソ候補者だから議員にしてやらん」ということは起きるわけです。

 小選挙区と比例代表の並立制は問題だよねって話は今回の選挙区割りでも隠れた大テーマです。しかしながら、むしろいま選挙制度改革が再び必要なんじゃないかと言われるようになったのは、もともと小選挙区制度が志向した二大政党による政治のダイナミズムを促すはずの仕組みが、実際には風頼みのポピュリズム政治・テレポリティクスを助長してるんじゃねえのという議論です。

 出口調査を紐解いてみると、政治家や政党、政策に関する情報についてはテレビ、ネット、新聞の順にメディア接触していて、特に新聞を読む年寄りの有権者と全く読まない若者の有権者でおそらく政党支持の構造が異なるということが何となく分かってきています。支持政党で見ても、有権者の政治姿勢とメディア接触時間には明確な相関がありそうです。

 これらは、日本の政治が安定し、それなりに与野党の政策論争が機能しているうちは良いのですが、仮にここで国の内外で大きな問題が起こって(台湾海峡で大規模な軍事衝突があったり、東日本大震災級の巨大地震が南海トラフで発生するなど)、その直後に衆議院選挙があったとき本当にそのときのダイナミズムを議席数に反映させて良いのかという問題があります。

 要は、突然与党が大爆発してまた旧民主党のように野党が政権を取るにあたり、いまの選挙制度はダイナミズムが強すぎて他国からの不安定工作やディスインフォメーション、フェイクニュースの被害を蒙りやすいよねという話なんですが、意外と私たちの社会がそういう政治的な「横波」に弱いんじゃねってのがはっきり分かってきたのもまた大きい。

 そういう「横波」を演出するのはまさに東京都を含む首都圏、愛知や近畿、福岡あたりの大都市圏であり、そこで主役になるのは都市部で暮らす高齢者の意向であって、そこがスイングすると政権担当能力のない特定野党が大連立与党へと脱皮することになり、滅茶苦茶になるよなあというのが選挙制度に対する危機感の本質なんだと思いますね。

 それもこれも、鳩山由紀夫菅直人両元総理と続いた旧民主党政権への政権交代がいまなお残る有権者のトラウマとして強く残っていることの証左ではあるのですが。