さっき、中川コージさんが官邸役職兼任を解かれた木原誠二さんについてツイートしていたところ、これをよもやまさんがやんわりと優しく完全否定しているのを見ました。




 確かに中川さんの書いておられるように、経済安全保障の担当については「専任を置け」ということで、何となればその役職を軽く見ているのではないか、ひいてはこのテーマは政権としては重視していないという間違ったメッセージを送りかねないよねというのは同意です。

 見ようによっては木原誠二さんがこの辺を兼任していたのを部分的に他の要員に振り直すことは、ただちに日本の安全保障政策を担える人材の乏しさを意味すると解されかねないし、そもそも木原誠二さんが総理大臣補佐官としてこの問題から外れるとなると、彼より詳しく自民党内でも政権内でも相応に重み貫目のある人材がいるのかという話になってしまうのです。

 一方で、我が国が取り巻く安全保障分野で、とりわけ台湾海峡問題が日本の尖閣諸島問題とリンクしてしまい一気に国難になりつつある状態で素材や半製品などのサプライチェーン問題といった経済安全保障問題が直撃しますと、本来であれば危機管理監以下警察・外務官僚持ち上がりの部門と、政見をもって対応に当たる補佐官・政務官を担う政治家との間で大変な現場対応を余儀なくされます。

 で、具体的にいま何が起きているのかというと、例えばアメリカが二週間前の11月17日に米中安全保障に関する551ページにもわたるレポートを発表し、その前のディスカッションペーパーがわずか4ヵ月前だったのに山ほどアップデートされた文書だったため、これ方面の専門家が慌てて「力技で全部読む」という対応を余儀なくされております。

2021 Annual Report to Congress
https://www.uscc.gov/

 とりわけ重要なのは「Chapter 2: U.S.-China Economic and Trade Relations 第2章:米中の経済・貿易関係」において、日本がダイレクトに関係する(巻き込まれる)分野についても精査する必要がありますが、これを戦略面で読み解けるのかどうかが我が国の中枢にいる安全保障政策担当官には求められるわけです。例えば、以下の報告の内容を見て、あ、didiやalibaba(ant)、tencentのことだと一瞬で分からないと駄目なんですよ。

[Quote] Chinese policymakers seek a self-sufficient technology sector that not only is under the CCP’s control but also plays a critical international role. In 2021, the Chinese government expanded the breadth of its efforts to foster local technology champions, but it also initiated a range of enforcement actions against major nonstate Chinese tech firms. This crackdown is partly motivated by a desire for greater control of nonstate firms’ collection and storage of data, which the government views as a strategic resource and national security priority.

[抄訳] 中国の政策担当者は、中国共産党の支配のみならず、国内で完結する自給自足的かつ国際社会で重要な技術を有するテクノロジー部門を国内に置けるよう求めている。21年までに中国は政策として各地方の技術的主導者(学術経験者を含む)の育成まで試みを広げつつも、一方で中国が有さない技術を使う企業活動には強制措置を講じている。この取り締まりの理由は、中国政府が戦略物資と考え国家安全保障上重視されるべきと捉えている国民、取引、技術などに関する情報を非国有企業がもっと厳格に管理したいという狙いがあると考えられる。

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 逆に、中国がこれらの国内政策を推し進めるのは国内安全上の問題だけでなく、彼ら自身が考える戦いの枠組み(ドクトリン)であることが明確にアメリカから示唆されるということは、彼らが国内で統制しようとしている国民に関する情報を保全するだけでなく、中国政府は意図的に日本を含む周辺国や競合国に対して情報を取りに来ることをも意味します。

 問題は、そういう込み入った事情について安全保障関連でしっかりと物事を理解して即応できる政府担当者って政治レベルでどれだけいるのかという話であります。また、安全保障のコミュニティは戦略分野や軍事、外交、情報各分野も含めて各々ある程度分かれているために、おそらくは少人数の担当者で切り盛りすることには向いていない分野とも言えます。

 そうなると、担当大臣はきちんと置いたうえで政権全体の意志決定を担う、アンテナとなり手となり足となる人員がどれだけいまの自民党・公明党にいるのか、またどういうアプローチで物事を整理し、国全体の方針として貫徹させるのかは、かなり大変なことなんじゃなかろうかとも思います。

 高度な政治判断をするにあたり、適切に情報を収集し、分析して評価するプロセスに噛める政治家が、いまの永田町に何人いるのかって話になるとまあなかなかむつかしく、そこに組織プレーに向いたお人柄を持ち、選挙で負けていきなりいなくなるような弱い地盤ではない人を置かなければならないとなると、まあなかなかむつかしいよねと。

 さらには、ここ半年のうちに北村滋さんは健康上の理由で勇退され、杉田和博さんもご退任となり、その後はいわゆる公安警察ルートから中枢に入る後継者がいなければ普通の警察官僚の皆さんがこれらの情報を担うことになります。そのうえで産業・貿易政策にも絡む経済安全保障のテーマが重大なネタとして政権にのしかかり、少なくない確率で日本も関連する(巻き込まれる)インシデントも起きるぞとなると、本当に特定の使える人に多大な負荷がかかり、どうでもいい人たちはぶらぶらしているという事態になりかねないので、今後のためにも「政治家を見抜いて任せて育てる」ことを意識的にやっていかないとなあと思うのでありました。