テレビ局も商売なので、いわゆる「コア視聴率」が下落すれば見た目の指標が良くても番組が打ち切りになるのは仕方がないと思うんですが、俺たちの東京スポーツが例の「張本勲の老害問題」を軸にサンデーモーニング打ち切り説を活字にしてくれました。

〝張本失言〟でTBS「サンデーモーニング打ち切り説」加速 コア視聴率低迷に追い打ち(東スポWeb) #Yahooニュース https://news.yahoo.co.jp/articles/0037a06edcc8735fb13245e4a827fb7ac6d998a1

 ありがとう、東京スポーツ。

 ひとくちに「コア視聴率」と言っても、テレビ局や広告代理店がベタッと統一的な数値を出しているわけではなく、スポンサーサイドからの要望に基づいてT層(10代)とF1~F2層、M1~M2層を指すにせよ、あるトイレタリー製品大手の場合はF1既婚者層(想定)をコアにしたり、別の自動車メーカーはF1M1とM2をという風に、計上する属性が異なることもあります。ただ、総じてどのくらいのコアなのかはスポンサーによって異なるとはいえ、ざっくりとした一般的指標として概ね中学生以上から50歳未満の視聴者を、テレビ局のスポンサーは重視しますよということ以上のことは対外的には明らかにされていません。

 ただ、確実に言えることはいままで視聴率面で重視されてきた3層、高齢者による視聴はカネにならないと割り切ったあとで、彼ら向けコンテンツがなくなってしまうことで、本格的にテレビの前に座っている時間が減少するという各局総視聴率低下問題が現実のものになりそうだということです。これは、裏を返せば大正義・NHK一人勝ちになる可能性も危惧されかねないのと、いままでテレビの前に曲がりなりにも座ってくれていた高齢者世帯を見捨てたとしても若者がテレビの前に帰ってきてくれるためにはネット視聴その他他の安価な娯楽との叩き合いになり、テレビ局という巨大な装置産業があっという間にビジネスモデルとして崩壊しかねない恐怖もまたあるわけですよ。

 他方、テレビ局も無策だったわけではなくて、テレビ視聴における満足度調査の観点から言えば、全局(!)のほぼ全時間帯で視聴質の観点では2015年以降軒並みプラスに転じ、特に35歳から39歳の男女を筆頭に多くの視聴者が「テレビ番組は面白くなった」「好きなテレビ番組がある」と回答するようになりました。テレビ局も、いままでのビデオリサーチのような若干曖昧な視聴率による指標で数字を競わされていた時代からネット全盛期になって、例えば見逃し視聴やSNS言及数といったコア視聴率とはまた違うロイヤリティのある視聴者はどこにいるかが可視化されたことで「視聴者に喜ばれる面白い番組作り」とテレビ制作者ならではの「作家性のある独特な映像作品」に対する健全な競争へとシフトしてきたことが「番組の質の面から見れば黄金期到来」と言っても過言ではない状況になっているわけです。

 ところが、時すでに遅しというか、ビデオリサーチ的にはT層、ネットマーケティング的には12+属性の男女はあまりテレビの前に座ってくれなくなりました。もはやネットはスマホで観るものとなり、ワンタッチで好きな動画を見られないいまのテレビ局のコンテンツは、ほぼ総じてWOWOWやCSと変わらない敷居の高さになってしまっているのが現状ではないかと思うのです。別の調査ですが、家族だけでなく友人や学校、職場での会話でテレビ番組のことを話題にする機会は割合として最低を更新し、特に芸能マスコミやバラエティ番組に対する関心は低迷しています。たぶん、テレビ局各局もその傾向は充分に分かっていながらも、コア視聴率を引き上げようにもスポンサーからの制作費の減少局面からいままで以上にリッチな制作費を捻出することができず、ネットでの番組告知も充分に行われていないので若い人からすればテレビ番組は存在していないも同然になりつつあります。

 そして、非コア層とされる高齢者向け番組は時間面も予算面も限られることになり、テレビ局としては、本当の意味で編成の能力で今後の経営が大きく左右されていくことでしょう。そして、先に地方テレビ局の統合や廃止も視野に入れながら、よりローカルか、より低予算か、よりコンテンツ性の高いもの、時事・スポーツといった共有体験を持たせられるものという風に、業界全体のコンテンツ攻勢が変容していくことでしょう。

 そういう業界構造の大きな変化の試金石が、まさか女子ボクシング金メダルを「結婚前のお嬢さんの殴り合い」という分かりやすい言葉で炎上した老害商法ど真ん中の張本勲による引き金でドミノ式に非コア向け番組改編の始まりになるのだとしたら、何とも皮肉なことです。

 むしろ、そんな雰囲気のキャストで長寿番組が成立していた前提が崩れるのは当然のことでしょうし、ではそういう番組を曲がりなりにも楽しんで来た(カネにならない)視聴者がどこに流れるのかというのは興味が持たれるところです。

 そう考えると、通販番組に対する地上波の依存度をもっと減らさせようとする考えも出てくるでしょうし、地上波も含めた電波オークションのような統合的な電波村政策についても思案するべき時期になったんじゃないのかなあと思わざるを得ません。はい。