目下、霞が関やさいたまでは新たな暗号資産、海外税制からデジタル人民元まで、解決しなければならない問題が山積しているところに、とんでもない与太記事が流れてきてみんなで唖然としていたわけです。

 この前、いろいろやらかした、Kyash社っていう会社さんなんですが。

残高に年利1%の利息提供 新たな形の銀行目指すKyash - ITmedia ビジネスオンライン https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2012/01/news081.html

 おまえ、それ銀行業じゃん。認可取れよ。

 タイトル読んだらみんな真っ先にそう突っ込みますよね。残高? 利息? 年利1%? 普通銀行じゃねえか。

 で、記事を読み、インタビューの詳録が回ってくると、唖然から呆然に変わります。

[引用] [引用] 付与されるのは、Kyashバリューで現金引き出しは行えない。

 おまえ、それただの自家ポイントじゃねえか。資金決済法良く読んでから供託金積めよ。メルカリか。

事業者のみなさまからよくあるご質問
https://www.s-kessai.jp/businesses/faq_01_b.html

 で、自家ポイントで年利1%とかって、おまえ預り金に金員に類する金利つけるって言っても楽天なんかグループ内で売買したら5%以上楽天ポイントつくんですけど。

 さらに、Kyash社は預り金の運用方針も開示していません(20年12月7日現在)。さすがにいかんでしょ。イノベーション以前に、それもうみんな考えて、やってみて、競争になった結果が、預かった預金の運用先がなくて、仕方なく国債買ったり日銀さまの踏み上げ期待でETFにしたりしてるんですよ。

 先日も、過大請求をされたとかいうトラブルも起きていたようですが、良く分かりません。

kyash使ったら過大請求されてた #BLOGOS https://blogos.com/outline/343188/

 そして、今日になって、Kyash社はプレスリリースで「反響が大きかったので、サービスを見直します」とかいう撤収の話が出ていました。

「残高利息」サービスの内容見直しについて https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000071.000020416.html

 「残高」であった瞬間に、それは銀行業であり金融庁様の査察の対象になるということも良く分かっていなかったようです。

 そんなKyash社をどう評価したと言うのか、47億円の増資が決まったうえで、さらにBUSINESS INSIDERで提灯記事が書かれていました。

追加調達47億円、Apple Pay対応。決済ベンチャーKyash鷹取氏語る「そろそろ本勝負」の真意|BUSINESS INSIDER https://www.businessinsider.jp/post-210897

 この結果として、銀行法ど真ん中の、詰め切っていないサービスリリースをやる前のめりな会社になってしまったのだとしたら、鷹取真一さんにとっても投資家にとっても実に残念なことです。

 いいか。

 「Kyash社に技術力がある」と標榜するならば、一番やっちゃいけないことは自前で人様のカネを預かり、運用して、金利でお返しすることだ。

 商業銀行業務なんて、みんな儲からないから困っているのでフィンテックに投資をして事業領域の再編をしたいと思っているところへ、そのフィンテックで投資資金を集めた会社が自ら商業銀行業務やってどうするんだという話です。

 こんなもんのどこにイノベーションがあるんだよ。本業の技術開発で売れる仕組みが作れないから苦し紛れに銀行業にでも進出してみようかと思ったんじゃないかというような出来栄えです。

 また、なだたる金融機関や証券会社系のVCも名前を連ねていますが、これを見て「お前ら、誰も止めなかったのか」というのは素朴に疑問です。

 なんで投資した技術会社が、モグリの銀行おっぱじめようとするのを止めないんだよ。
 コンプライアンス以前に、実務の分かっている大人が一人もおらんのかという話でございます。

 たぶん、高い金利を保証して預金が集まれば集まった預金を使ってヒーハーというメルカリ感溢れる事業展開を考えていたのでしょうが、預り金に手を付けては駄目だし、それは銀行業務そのものですからね。

 このクソ忙しい師走に面白いネタを投下してくださって、本当にありがとうございました。

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