今日2020年11月25日、東京高等裁判所で川上量生さんとの裁判で判決が出まして、私の一審勝訴を支持する、控訴棄却となりました。まずは順当な判断を高裁にはいただけたということで、ホッとしております。


 ご支援くださいました皆様方、ならびに担当代理人として勝利に導いてくださった壇俊光先生、神田知宏先生ほか対カワンゴ訴訟団の先生方、本当にありがとうございました。深く感謝を申し上げます。


 私は一連の裁判において、本件は一番重要な裁判であると考えていました。

 第二訴訟である本件裁判は、訴額こそ1円ですが、大企業カドカワの経営者がツイートで間違いを指摘されたことに対してSLAPPまがいの訴訟を提起し、言論を封じようとする行動に他ならないからです。
これはもしも相手が法的知識のない人からすれば、1円とは言え法的措置を取られたことに大変に動揺し、萎縮することは間違いありません。当時まだカドカワ代表取締役であった川上量生さんが、私の所属先である情報法制研究所に私のツイート等に対して削除と謝罪を要求してきた文書に対して、債務不存在の確認訴訟を私どもが提起したところ、それに対して起こしてきたのが本件1円訴訟であったことを考えれば、法的措置のなんたるかをご存じない人は立ち往生してしまうことでしょう。


 本件は、すでに弁護士ドットコムでも報じられました。


川上量生氏の控訴棄却「上告しません」  山本一郎氏に対する「損害賠償1円」訴訟…東京高裁|弁護士ドットコムニュース https://www.bengo4.com/c_23/n_12045/


 また、なぜか控訴人の川上量生さんからのお悔やみの記事もアップされておりますが、何を言いたいのか、イマイチ意味が良く分かりません。


山本一郎氏との訴訟についてのご報告

https://web.archive.org/web/20201125120305/https://sp.ch.nicovideo.jp/kawango/blomaga/ar1968585


 川上量生さんは、この一番最初の債務不存在確認訴訟が「もっとも大事」と指摘していますが、すでに川上量生さん自身がカドカワ代表取締役から降ろされているんですよね。もちろん決して第一裁判や第三裁判を軽視して良いとは思いませんが、すでにカドカワどう大事だと思っているのか、ぜひ改めて聞いてみたい気も致します。


 で、今回の裁判に関しては、大きく分けまして3つのポイントがあったのではないかと思っています。


■東京高裁、川上量生さんを「認識不足又は注意不足の程度が著しい」文脈での馬鹿を認定する


 川上量生さんはネット上の口喧嘩であるので、裁判官にどっちもどっちと判断されたから負けたと言いたいのかもしれません。しかしながら、このたび東京高裁からは「控訴人(川上量生さん)の認識不足又は注意不足の程度が著しいことを意味するもの」として、この文脈上では川上量生さんは馬鹿であると認定されました。社会的地位は低下しない層なので、そのように認定されて、良かったですね。


 このまま最高裁判所に上告いたしますと、本件はどう考えても最高裁が取り扱う憲法問題とはとても言えない内容ですので、川上量生さんが弁護士ドットコムの取材に答えた「上告しない」という方針は良かったのではないかと思います。最高裁が認定する馬鹿になってしまう危険がギリギリで回避されたことを、心からお慶び申し上げます。


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■津田大介さんや浜村通信さんが提出した証言・陳述書が東京地裁から完全に無視される


 特に新たな争点もないなかで控訴してしまったため、何かしなければならないと思ったのか、よりによって川上量生さんは津田大介さんや浜村通信さんに助けを求め、川上量生さんにとって有利になるような証言をしてもらうという暴挙に出ました。


 代理人の許可を得次第、後日アップできればとも思いますが、当事者である被控訴人の私が一読して「これのどこが控訴人(川上量生さん)の立場を補強する証拠なんだ。不動産屋が広告でつけるポエムみたいなものじゃないか」と思ったわけです。


 津田大介さんの書いたものは「ぼくとインターネット」みたいな散文で、いかに自分がネットで叩かれて可哀想な存在であるかを書き綴っていますが、それは大概において津田大介さん本人の責任なのであって、私ではありません。ネットで中傷された僕は可哀想というエッセイを私と川上量生さんの控訴審で提出されても私も困ります。


 さらには、なぜか浜村通信さんが出てきて「ゲーム内での表現とはどういうものか」という、津田大介さん以上に本件控訴審とは無関係の内容を提出してきて度肝を抜きに来ました。百歩譲って浜村通信さんがゲームについて語ったとしても、「それはあなたの感想ですよね」と横から西村博之ばりに応じて終わるべき内容です。


 その結果として、控訴審であるにもかかわらず控訴人である川上量生さんが出してきた津田大介さん、浜村通信さんという一部関係者による提出書面は、このたび高裁判決において一文字も、一片たりとて引用されることなく、「判決」表記から「これは正本である」まで全無視されております。いったい、何をしに出てきたのでしょう。


 単純に、津田大介さん、浜村通信さんは、オヤビンの負けそうな裁判でタスケテーと言われると意味も分からず陳述書を書いてくれる人という良い人認定で終わったという点で画期的でした。もしも控訴審で新たな証言を積み重ねる場合は、人選とテーマと新事実をしっかり踏まえた内容を揃えましょう。


■東京高裁も『シヴィライゼーション4』の台詞は著名と認め、そのソースはニコニコ大百科


 東京地裁での判決では素敵な文言で『シヴィライゼーション4』について「著名なゲームの言葉」と認定してくださいましたが、東京高等裁判所でも本件『シヴィライゼーション4』の「貴公の首は柱に吊るされるのがお似合いだ(宣戦布告)」という表現が「ゲームの著名な言葉」と改めて認定されました。


 長く『シヴィライゼーション』シリーズやParadoxゲーム、コーエーテクモ『三國志』や『信長の野望』を楽しんできた私からしましても、川上量生さんがどうであるかはほっといてこの認定を戴けたというのはまさに感無量であります。


 しかも、高裁判決の中では「(私が14日投稿で)引用した『CIVILIZATION 4』というシミュレーションゲームにおけるプレイヤー側の開戦の言葉は、少なくともオンライン百科事典『ニコニコ大百科』にもその同一の文言が掲載されており、同ゲームをプレイした者に限らずその言葉を認識できる状態にあったという意味では、当該文言自体は著名だったといって差し支えないものといえる」とまで認定してくださっております。


 「ニコニコ大百科」、すなわち川上量生さんが経営するドワンゴが運営するサービス内にある記事が、東京地裁をぐるんぐるんと旋回して返ってきて川上量生さんの眉間に刺さった瞬間であります。自分とこのサービスで書かれている内容が裁判所の認定で決定的に不利な証拠として激しく採用されたことについて、川上量生さんは何を思っておられるのでしょう。


 皆さんも、今後川上量生さんに対して論評を加えるときは、私のように「ニコニコ大百科」で掲載されるような著名な言葉を駆使して思うところを述べていっていただければと存じます。

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■SLAPPによる言論封殺されること、言論封殺されなかった私


 とりもなおさず、川上量生さんは当時はコンテンツ産業の大御所の一角カドカワの代表取締役であり、実際のところ私自身もカドカワや傘下KADOKAWAとはプロダクションを通じて少なくない取引がありましたので、そのカドカワの経営者である川上量生さんとの係争に発展するにあたっては、いろんな方からのご心配の声も頂戴しました。私自身も、なにひとつ不安はなかったかというと、嘘になります。


 ただ、一連の海賊版サイトに対するブロッキング議論については、私自身が問題と感じ、民主主義である日本において事前検閲にも模される海賊版サイト遮断をプロバイダに求めることで、児童ポルノのような緊急避難の俎上に著作物という財産であるマンガなどのコンテンツを同列に議論することはできない、と考えてきました。


 つまり、川上量生さんはコンテンツ産業の財産であるマンガを守るために、憲法や業法の解釈を曲げてでも海賊版サイトを取り締まるべき、と主張したことで、これはひいては我が国のあらゆる機微情報やネット上の財産が緊急避難の名のもとに遮断される、中国のような専制国家におけるインターネットと同等の存在になり下がることをも意味します。私は政府内審議で最後まで戦ってくださった森亮二先生の見解を強く支持します。


 同様に、では海賊版サイトを野放しにしてよいのかという議論は、山口貴士弁護士が明らかにしたように、既存の法律でも充分に対応が可能であったこと、また、NTTグループが一度はブロッキング賛成に回った件には中澤祐一先生が、さらに海賊版サイトの差し止めについて山岡裕明先生も道筋を示され、我が国の法律家も総意として海賊版反対でありつつ現在の自由なインターネットを守るために動いてくださったのもまた事実です。


 情報法制研究所では、一連のブロッキングに関する政策議論について情報開示請求を重ねて行い、多くの資料から高木浩光先生や鈴木正朝先生が問題点を整理され、シンポジウムまで開いて我が国における海賊版対策とはどういうものであるべきか、実効性と理論両面から検討を重ねてきた経緯があります。そして、まだ実は「漫画村」問題は主宰者星野ロミさんの逮捕、公判のプロセスにありながらもまだ現在進行形で続いている面もあります。これについては、私も深く関わっているため、時期を見て改めて記事にしたいと思います。


 そのような議論において、例えば防弾ホスティングの状況で漫画村で使われたクラウドフレア社の情報開示の状況について川上量生さんはカドカワ代表取締役の立場にありながら誰からも情報提供をされておらず、ネット上で与太話を流すなどして、本件でも注意不足又は認識不足の程度が著しい状態にありました。この指摘に対して、川上量生さんはカドカワ代表取締役の立場で一連の記事やツイートを削除し謝罪するよう、私の所属する情報法制研究所に封書を送ってきたのです。


カドカワ川上量生氏、クラウドフレア社は法的措置では対応できないという見解を示す(山本一郎) - Y!ニュース https://news.yahoo.co.jp/byline/yamamotoichiro/20181009-00099878/


 これは、おそらく私(のような訴訟慣れした人間)でなければ太刀打ちできないだろうし、海賊版サイトのブロッキング議論という公益性の塊のような議論において、圧力に折れて記事を削除したら誰もこの注意不足又は認識不足の程度が著しい裸の王様とも言える川上量生さんを止めることはできなかろうと考えたのです。


 ところが、裁判結果を受けて川上量生さんはどうも本件を「挑発」としか受け止めなかったようです。非常に、残念なことです。


 おそらくは、いまでも、一連の議論は誹謗中傷であり、挑発であるとしか思っていないのでしょうが、川上量生さんが封書で送ってきた削除と謝罪の要求は言論封殺以外の何者でもなく、私は一連の指摘に対して誹謗中傷であるとして裁判を起こしてきた川上量生さんのこの「第二裁判」こそ、一番大事な訴訟であると認識してきました。


 本来ならば、この削除と謝罪を求める「第一裁判」も大事なのですが、なにぶん川上量生さんはカドカワ代表取締役を降ろされちゃったうえ、裁判では「自分(川上量生さん)は削除を求めていないし、今後も求めない」と主張しだした時点で、どうも川上量生さんはご自身で吐いた唾をジョッキで飲み干す趣味でもあるのかもしれません。いや、おんどれが書面で削除と謝罪を求めると書いてきたから債務不存在訴訟に発展したというのに、何を言っているのでしょう。圧力をかければ黙るととっさに思ったんじゃないかとすら邪推してしまいますが、死体蹴りにならない程度に、適切に対応をしてまいりたいと思います。


 重ねてになりますが、ここまでやってこれたのも金銭や情報提供でご協力をいただいた皆さま、壇俊光先生、神田知宏先生および対カワンゴ弁護団で対応してくださった専門家の皆さまのお陰と思っております。重ねて深く御礼を申し上げますとともに、引き続きのお引き立てのほどをよろしくお願い申し上げます。


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