コレ。

デジタル改革関連法案ワーキンググループ(第2回)議事次第
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/dgov/houan_wg/dai2/gijisidai.html

 どこから突っ込んでいいのか分からないわけですけれども、これが我が国の大事なデジタル庁設置に関する協議で、日本国内・海外のデータ流通をどうするか審議する場で提出されてしまったそうなんですよ。

 それも、先日日経の「スーツ・オブ・ザ・イヤー」に輝いた慶應義塾大学教授の宮田裕章大先生がやらかしたと酷評されていたので見物しにいったら、これがまた酷い。

 冒頭から「資料1-1デジタル庁の創設に向けた論点(宮田教授提出資料)」として「" 21世紀の基本的人権“データ共同利用権” の確立」→「所有財の側面だけでなく、共有財の側面も考慮したデータ活用」とありますが、いや、そもそもこれデジタル庁立ち上げる際に最初に問うべき論点じゃないですよね。なんでいきなり憲法問題が始まってるの? 改憲ありきなの?

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 しかも、この基本的人権で確立されるというデータ共同利用権とやら、誰の権利で、誰に対して行使できるものなのか、まったく明記されておらず、さっぱり理解できません。さらに、所有「財」、共有「財」と、個人に関する情報が経済的対価の対象であると定義されております。いや、個人に関する情報については、競争法(公正取引委員会)マターでもない限り、本来は財ではないんですよ。財であるなら、自分の情報を誰かに売って対価を得る行為が正当だよと説明しなければならなくなり、いきなり個人情報保護法の立法趣意と正面衝突してしまいます。

 で、続く「データ共同利用権(仮称)について(案)(宮田教授提出資料)」では、宮田裕章大先生はこのようなことをお書きになっております。

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/dgov/houan_wg/dai2/siryou1-2.pdf

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 あ?? なんやこれは?

 国民の利便性に資するデジタル政策を実現するために新しい組織を新設しようという話をしているところに、有識者として呼ばれた宮田裕章大先生が、「利用目的等に鑑みて相当な公益性がある場合に、(国民の個人に関する情報の元になる)データ利用を認める」ことが、21世紀の基本的人権に組み込まれるとかいうデータ共同利用権の正体なんですか?

 これって、憲法に記される国民の権利ではなく、データ共同利用権によって国民の情報が公益性の名のもとに誰かに共同利用されてしまうことを追認する仕組みに過ぎませんね。しかも、誰の権利であって、誰に対する権利なのでしょう。

 資料を全部読むと、おそらく国民の権利のように見えて、個人に関する情報が簒奪される仕組みのようにも見え、また、その共同利用する対象は国家か、国家が認定した組織・法人などです。共同利用されるデータの中身が良く分かりませんが、医療情報なども念頭に置いているとなると、個人の健康に関する情報(PHR; Personal Health Record)だけでなく遺伝情報なども含まれる可能性が高くなります。今回の感染症対策でゲノム情報を追い、特定の遺伝子を持つ人物が重症化しやすいという公衆衛生の知見が得られたこともありますし、そういう知見を得ることが社会の利益に資すると言いたいのでしょう。

 しかしながら、これらはいわゆるホワイトリストであって、必要に応じて公益になったりならなかったりしてはいけないので、事前に具体的に列挙せよという話になってしまう。個人に関する情報に基づくデータの共同利用権が我が国の基本的人権に加えられるとして、反社会的人格や経済的な信用情報、趣味嗜好なども犯罪行為との相関性があるからといって公益性のもとに共有される怖れだってあり得ますから、そういうものを除外しましょうという話があるわけですよ。

 つまりは、「政府が認めた公益性があれば、政府(デジタル庁など)または政府が認めた組織・法人などが、権限を持って国民本人の同意がなくても個人に関する情報の元となるデータを利用できる権利を認める」ことが、この宮田裕章大先生の本件デジタル庁主張の大原則になります。いや、そこまでは言ってないと言いたいかもしれませんが、内容を見る限りそうとしか読み取れず、それ以外の方法でこの資料の内容を理解できる人は是非教えてください。

 これはまさに『憲法とAI』でたびたび問題になる、データで差別されない社会、本人に無断でスコアリングされない権利という枠組みからは真っ向から対立してしまいます。それなら基本的人権などと言わず、普通に個人情報保護法を基幹として分野ごと個別に特別法を立ち上げて対応してよ、というレベルの話ですね。

 なお、人権宣言を引くまでもなく、基本的人権とは「人が生まれながらにして持っている奪えない権利」であり、これを政府が国民に対して行わないという決まりが憲法ですので、すべての人の奪えない権利を(政府が定める)公益性の名のもとに共同利用するという時点で違法な改憲提言を堂々と政府議論で宮田裕章大先生がしてしまったことに他なりません。 

世界人権宣言
https://www.pref.tottori.lg.jp/secure/317151/u-sengen.pdf

 これ、我らがドワンゴ川上量生さんが身体を張って私たちに教えてくれた海賊版サイトに対するブロッキング議論とさして変わらない非常に危険な議論で、こんなもんがコロナ対策という大義名分で堂々と政府内で有識者ペーパーとして開陳されておるほうがおかしいと私は思います。

 着地点としては「このようなペーパーが政府のサイトに堂々と掲載されているのは恥ずかしいから撤回するなり差し替えするなりしてほしい」というのと、改正個人情報保護法を基本として、情報法の枠内で個別の事案ごとに特別法をきちんと作り、国際的な情報法制との協調が可能な運用を行うことしかないんじゃないかと。

 医療情報の分野はまさにこれからいろんな取り組みが起きようというところで、政府の中枢でこれというのはさすがに脱力することしきりです。国民の利益に資する議論に立ち返ることを祈るのみです。


山本一郎既刊!『ズレずに生き抜く』(文藝春秋・刊)
https://books.rakuten.co.jp/rb/15879273/

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