一定方面で騒動になっているスターリン関連の話ですが、山形浩生さんの大元の議論をお読みいただければ分かる通り、冗談抜きで、本当にこんな感じです。

偉大なる首領スターリン閣下のありがたきインタビューでも読み給え。
https://cruel.hatenablog.com/entry/2020/10/14/095323

 で、これに対する批判というか、まあまったく見当違いの意見が並んでいて、ああ、意外と知られていないのだなと思いました。

 指摘は少ないので敢えて書きますが、リベラル(現在で言う自由主義であり、当時もいまも知識人階級は大事だよという根拠になる考え方)とスターリン主義とはまったく異なります。芝刈り機と首刈り機ぐらいの違いです。そして、ソビエト連邦や共産党の歴史をある程度知っている人であれば、当然この手の話なら話題に出るべき「役に立つ馬鹿(useful idiot)」論が捨て置かれます。

役に立つ馬鹿
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BD%B9%E3%81%AB%E7%AB%8B%E3%81%A4%E9%A6%AC%E9%B9%BF

 本件については、最低でも東京大学名誉教授の塩川伸明先生の議論に目を通しておいて損はありません。

なぜ世界中で「リベラル改革」が困難を極めているのか
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/52047

 翻って、中国共産党の浸透工作における日本学術会議ネタなども、天安門広場天安門広場なミームとは別に類推しておいて良いと思います。スターリン主義と、中国共産党が進める習近平イズム的な拡張主義とはやや近い概念じゃないかとすら感じるんですよね。ハーバード・ジョージ・ウェルズの議論は、レーニンまでは開放の段階論として消化されたにせよ、スターリンは違う。本当に違う。

 山形記事では「単に手玉に取られるウェルズ」という扱いになっていますが、現在の日本も、当時のイギリスも、知的生産の中心となる(リベラルな主張を行う)インテリの人たちは常に自由に発言のできる正義の側に置かれ、彼らの主張によって労働者は開放されるのだという大前提を疑わない(だからプロパガンダに利用される役に立つ馬鹿になる)のですが、スターリン主義はそもそも知識人を社会階層として必要とせず、全体主義の中で知識は労働の下に隷従する概念でしかありません。

 と思ったら、山形さん的に面白かったからなのか、追記記事が出ていました。

スターリン閣下はお怒りのようです:インタビューの読み方説明
https://cruel.hatenablog.com/entry/2020/10/15/110928

 ウェルズ側にそのようなシナリオがあったのかどうかはともかく(ウェルズがそういう主張をしたいと思っていただろうという意味では間違いなく山形論は正しい)、議論の抄訳としてはこんな感じだろうと思います。はい、スターリンは狂ってますね。でも、それはいまの私たちの社会、知的な文脈からすれば「こんな人が指導者にいてはいけない」「おかしい議論だ、正気とは思えない」という話なのであって、かの時期のソ連は本当にあれが彼らの正論であったということは知っておくべきだと思うんですよね。

 いま読んでも冷汗しか出ないわけですけれども、知識に対する考え方や、全体主義的な価値観を否定する言論に自由はないという点においていまの中国とは大差ありません。生活を豊かにする技術は大事にされ、技術者が尊敬される中国のすばらしさはある一方で、ウェルズ的(リベラルの)価値観といまの中国共産党との関係は、その部分において当時のソ連スターリニズムと結果として同じであるというのは理解されるべきなのだろう、と。

 一般論やネタとして消化されるべきではなく、これから米中対立の最前線で冷戦構造に飲み込まれる我が国に生きる者として、最低限の「教養」として持っておいてほしいと願うのみです。


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