与党から、中小テナントに対する家賃支援策の具体案が出てきていて話題になっておりました。

 支援といっても、給付や助成そのものではなく、どうやら政府系金融機関からの無担保融資がベースになっとるものです。しかも上限が月50万円、助成(というか融資)割合は3分の2ということで、最終的な政府の取りまとめの内容がどうなるかは分かりませんが、他の救済策と組み合わせてもたいしておカネが降ってくるわけではないという意味では助からない中小テナントがどんどん廃業するんだろうなとは思います。

 また、GW明けてからテナント各社からの個別の減賃交渉や賃借契約解除通知が舞い込むようになってきました。不動産オーナーとテナントを巡る需給の問題はおそらく月内から7月ぐらいまでが山場になるのではないかと思います。商業地でも優劣がはっきりするようになり、人通りを確保できるターミナル駅とそれ以外では明暗が大きく分かれていくことは間違いありません。

家賃支援策、与党が政府に提言 上限付きで3分の2補助:朝日新聞デジタル https://www.asahi.com/articles/ASN586Q7VN58UTFK00D.html 



 見たところ、飲食以上に店舗採算の面から厳しい立場に追い込まれているのはアパレル各社で、売上を案分するR/S契約では4月の売上が前年同月比マイナス90%台がゴロゴロしています。もちろん、開店できないわけですから売り上げなど上がるはずもないのですが、百貨店各社の4月速報で見てもこれは大変なことになりつつあります。

大手百貨店/4月「新型ウイルス」で5社大幅減少「三越伊勢丹」9割減|流通ニュース https://www.ryutsuu.biz/sales/m050126.html

[引用]

三越伊勢丹90.8%減、J.フロントリテイリング(大丸松坂屋百貨店)78.1%減、エイチ・ツー・オー(阪急阪神百貨店)76.5%減、高島屋75.8%減、そごう・西武71.4%減だった。

--ここまで--


 負けが百貨店業界とすると、一部堅調だったのはチェーン店やテイクアウト店、スーパーを含むGMS
、オンラインショップなどを併設する事業者などで、映画館やゲームセンターなどアミューズメント施設が沈没しているのを除けば「コロナ負け組の業態」がニューノーマル到来前に淘汰されていくのだろうなあと思います。

 地味に効いているのは2021年度の固定資産税や都市計画税の減免ですが、不動産オーナーで3月から年内までの不動産収入が3割減少とかいったら借入金でB/Sが膨らんでいるところは税金が安くなるメリットを享受するころには破綻してそうで怖ろしいですね。目下、売り物件が続発している理由も「減税メリットを受ける以前に手前のキャッシュがない」ということなのかなと思います。

 同様に、地味に流通系物件の採算も夏以降低下する可能性が出て、釣られて居住系も中小デベロッパーさんの在庫ぶん投げの幅が厚くなってきて中古市場が荒れそうな感じはします。もしも何かしたいなら海外投資を手仕舞った金融機関がバルクで拾っていくファンドを新設すれば凄く世の中のためになるのではないかと思いますが、やらないのだろうなあ。

 いずれにせよ、危機対応については、私も兼ねて主張している通り、まずは「無担保融資の拡大」と、その後の「それなりの規模の給付&幅広い所得層に向けての減税」がセットであって、そして一部インフラ事業や金融などへの公的資金注入による国有化、自治体の再々編などを狙うニューディール的な財政拡大が一時的に必要なのではないかと考えています。その点では、与党も野党も案外考えていることは同じなので、コロナ後の経済対策については挙国一致で頑張っていってほしいなあと願っています。公明党がまとめている支援策の概要に、今後何が積み増されていくのかは思案のしどころです。

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 ところで、この支援策を見て例の松田公太さんと「外食産業の声」を担いでいるベクトルグループが何か言っています。

頑張っている成長過程の企業に死ねと言っているようなもの(松田公太) #BLOGOS https://blogos.com/outline/456046/

 事業をやるからには頑張るのは当たり前の話だし、成長過程だろうが老舗の百貨店だろうが誰も「死ね」なんて言ってないよね。確かに松田公太さんの言う通り3分の2の支援割合なのに公的金融機関からの融資で上限月額50万というのは少ないのは事実ですけどね。それも、融資枠なので事業者あたりであって、出店数あたりではないかもしれない、というのは厳しいなあという感覚を持つのも事実です。

 ただ、以前も書きましたが現預金を持ってない飲食店に限定して賃料棒引きモラトリアムを目指せとか松田公太さんに言われても「それはあなたとその周辺の話ですよね」ということで、困るわけですよ。家賃保証会社入れて、保証人も取ってる会社が集団の減賃交渉に応じるはずもない。野党5党の話は別筋から流れてきましたが、おそらくですが大部分の内容は蹴飛ばされて終わりです。

 主要な議題については、概ね記事に書いておきました。

【松田公太「コロナで客が来ないから」外食産業の家賃棒引き法の無法地帯】 | BEST T!MESコラム https://www.kk-bestsellers.com/articles/-/11603/
こういう難局のために、現預金はある|山本一郎(やまもといちろう) #note https://note.com/kirik/n/nf1c3bc66e011



 客が来なくて売上が出ないので、物件借りて営業している業態はどこも苦しい、という当たり前のことをよく踏まえたうえで、政策は公平に救済されるよう決定されるべきだと思うんですよね。「飲食店が日本の文化を守っている」と言いたい気持ちは分かりますよ。でも、じゃあ同じように苦しいファッション・アパレル業界の店舗は守られなくていいのか、そういう飲食店に付加価値の高い美味しい農産品を届けてくれる流通は、生産者は、どうなのかという話ですよ。

 もともと飲食店というのは3年5年で8割潰れる業態であることを前提に不動産業界も保証会社を入れ、保証人と保証金を取っているわけなので、非常事態だからどうにかして欲しいという話ではなく、非常事態があることを織り込んだうえで、こういうときのために保証金を入れてもらっているのだということぐらいはさすがに理解してロビー活動をしてほしいなあと思います。

 これから遊戯業界というかぱちんこ界隈も大変なことになるようですし、エッセンシャルな業態以外では当面は冬の時代が来るのは仕方がないんですよ。これから梅雨入りして夏本番だったとしても冬支度をしながら、適切にカネ余りインフレに備えるというのが大事なのではないでしょうか。

山本一郎(やまもといちろう)YouTube
https://www.youtube.com/channel/UCYngjP_3hOC-yu2A077rKbQ
山本一郎既刊!『ズレずに生き抜く』(文藝春秋・刊)

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