池田信夫さんの言う「コロナウイルスの危険をことさらに煽るな」というテーマはまあ理解できるとしても、北海道大学の西浦博さん以下、厚生労働省のクラスター対策班が手がけた日本の感染防止策については概ねの成果が出ていると理解していいと思うんですよ。

 ところが、池田信夫さんが自説を補強したくて書いている記事があまりにも低質でデマ同様の内容なので、さすがに頭がおかしいのではないかと。

「新型コロナで42万人死ぬ」という西浦モデルは本当か
架空シミュレーションで国民を脅す「青年将校」(魚拓)
https://web.archive.org/web/20200417075925/https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/60207

 これ、要するにアクセス稼ぎのために書いてる与太記事なんですが、要するに池田信夫さんというのは感染症関連のモデル計算についての知見がないってことですよね。

 現状でもパンパンになっている医療現場の苦労が絶えないところへ、外出を野放図にやって再生産数が上がりさらに大量の感染者が具体的に出てしまったとき、一番恐れるパンデミックが容易に発生しうることへの理解もないってことなんでしょうか、池田信夫さんは。

 定量的な感染症モデルの実数計算については、すでに各種資料が出ていて、いまでは第三者でも公表された数字をベースにフェルミ推定かけながら再生産数の推移を計算することができます。もちろん、仮説として接触数が生み出す再生産数を大きくすればハンマーは大きくなるし、多くの接触機会を削減できるモデルを作れば再生産しないで済みますよ。

http://akkie.mods.jp/2019-nCoV/images/9/98/%E6%84%9F%E6%9F%93%E7%97%87%E6%95%B0%E7%90%86%E3%83%A2%E3%83%87%E3%83%AB%E7%B7%8F%E8%AA%AC_%282006%2C_%E8%A5%BF%E6%B5%A6%29.pdf

http://dr-urashima.jp/pdf/kaneki-2.pdf

https://www.ms.u-tokyo.ac.jp/~inaba/inaba2009_actuary_manuscript.pdf

 そればかりか、一般的な調査研究に資するスプレッドシートのテンプレや、R言語でのサンプルも出ていて、西浦博さんのいうコロナウイルス感染死者数の想定が何も政策的手当てをしなかった場合に最大42万人になり得るというところまでは相応に検証可能です。ここには、医療崩壊して必要な手当てを受けることができないで亡くなってしまう直接の死者数が最悪それだけ出るよというシミュレーションであることは言うまでもなく、この数字やモデルでの算定の仕方に正面から否定する馬鹿は池田信夫さんぐらいではないかと思います。

 確立された推計方法と、池田信夫さんをどちらを信用するかと言われたら、もちろん推計方法を信頼します。

 何しろ池田信夫さんの与太記事は書けばウケると思ったのか、あるいは平常の経済に戻したいと願っている人たちに対して信者商売をしたいのか分かりませんが、続々と与太記事を書いています。もちろん私もコロナ対策をしっかりやった後は頑張って平常の経済に戻していきたいとは思いますが、だからといって、いまのコロナウイルス対策のために出ている知見を否定するほど愚かでもありません。感染しない、感染を広げないため、なるだけ自宅にいますし、慎ましく生活するのは致し方ないと思っております。それなのに、池田信夫さんの記事はこれですよ。

安倍政権が隠す新型コロナ「日本の奇跡」の原因
死亡率が欧米の100分の1なのは自粛のおかげではない(魚拓)
https://web.archive.org/web/20200502124037/https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/60369

 いや、あなた感染症モデルの仕組みも分からないのに、この前の記事で「西浦博さんのシミュレーションはシミュレーションではなくフィクション」とか中傷していたじゃないですか。自粛のお陰かお陰でないかなんて、推計も満足にできない池田信夫さんが断定して書けることじゃないでしょ。

 医師が必要と判断したPCR検査の拡大と、CTを活用した確定診断の推進をやって、全体的な感染規模の確認をこれから手がけようというところで、池田信夫さんが上杉隆なみのゴミを量産するのはイカンと思うんですよ。

西浦博氏の「8割の接触削減」という本末転倒(魚拓)
https://web.archive.org/web/20200414082607/http://agora-web.jp/archives/2045352.html

 一か月前に池田信夫さんが何を言っているのかと思って見ていたら、こんなことを書いているんですよね。

[引用]


ネット上にこういう言説が増えてきた。安倍首相が緊急事態宣言で引用した西浦博氏の「8割の接触削減」は専門家会議の見解ではないが、「東京の感染者数が30日後に毎日6000人になる」というショッキングな予想と「接触を80%削減すれば感染はゼロになる」という劇的な効果を予言したからだ。

ところが、このシミュレーションには実証的な根拠がない。基本再生産数が2.5という想定は「ドイツ並み」だというが、日本の実効再生産数は1以下だ。感染者数には検査数のバイアスがあるが、死亡率も次の図のように先進国で群を抜いて低い。これから日本の再生産数がドイツ並みになることは、変化率が異常に上方屈折しない限りありえない。

--ここまで--


 西浦博さんやクラスター対策班の発表した内容について「実証的な根拠がない」と言っておきながら、その池田信夫さんの主張そのものに何らの反証や根拠もなく、ただひとつ死亡率だけ見て「他の国より死亡率が低いのだから、再生産数はドイツよりも低くなるはずだ」と言ってるだけですね。

 西浦さんたちは「自由に出歩いたら再生産数が上がる恐れがあるので接触機会を減らせ」って主張して、また政府も個別に感染者の発生したクラスターを叩く戦術で遅滞させながら国民に手洗いを将来したり、外出を控えるよう求めてきたのでどうにかなった、という話です。

 過剰な感染症対策が経済を殺しかねないという主張はもちろん理解できます。しかし、この手の「コロナウイルスはたいしたことがない」と言いたいがために、理解もしていない感染症モデルや統計的な推定も理解せず、専門家でもすべては分からないから確実な対策を打ち日本人の生命を守ろうという話を専門家ではない池田信夫さんが断定的に物言いして与太記事を量産するというのはどういうことなのかという気分になれますね。

 経済対策を念頭に置いた出口戦略が必要であるというのは当然としても、相応に成果を挙げていると見られる日本の感染症対策と、それを支えたコロナウイルス対策専門家会議やクラスター対策班についてはきちんと事後に分析内容と実態を検証しながら今後のニューノーマル、アフターコロナの問題について議論するべきでしょう。

 なお、池田信夫オンラインサロンが100人超えたと信者商売を誇っていたようですが、以前やってたサロンは潰れたんですか? 私のサロンはお陰様で満員のため新規会員を募集しておりませんが、いま、ケビン松永さんのらえもんさんがリアル経済を眺めるサロンをやっておられますが、こっちも盛り上がっております。ご興味のある方は是非どうぞ。

のらえもんとケビン松永の近未来予想図
https://lounge.dmm.com/detail/2358/

山本一郎(やまもといちろう) 非公式Twitter
https://twitter.com/kirik_news
山本一郎(やまもといちろう)YouTube

sagi_bokin_gienkin.png