大阪府が、営業の自粛要請に応じないぱちんこ店に対して店名公表で晒したところ、事実上の「開店情報」となってしまいお店が大盛況になるも、その後営業停止に追い込まれるという事件が発生しました。

大阪府が休業要請に応じないパチンコ店名を公表…店は盛況、公表に効果はあるのか?
https://www.fnn.jp/articles/-/36854
大阪府店名公表パチンコ全店休業
https://www3.nhk.or.jp/kansai-news/20200430/2000029109.html

 千葉県では、知事の森田健作さんが休業指示も見込んだ強い対策を、まだ営業しているぱちんこ店に対して行うことを示唆するなどヒートアップしてきました。
 福岡や茨城などでも似たような問題が続発していて「自粛下でも営業する自由」を巡る最先端の争いがぱちんこ業界で勃発したというのは興味深い現象であります。

 「厳しい罰則も含めて、(休業指示に従わない店舗などへの)強制力は必要になる」と述べている経済財政再生相&コロナ担当相の西村康稔さんは3日のNHK番組で罰則について踏み込んでおりました。

 いや、これもう乱世乱世。

 あまりにも乱世すぎるので、Youtubeの更新が捗ります。

今、パチンコ屋さんに「営業する自由」はあるのでしょうか。 私権の制限/囚人のジレンマ/ゲーム理論/自由を巡る争い/ https://youtu.be/1q4s-t7LJDs 



 「休業指示は補償とセットで」というのも別に法律で決まっているものではなく、同様に、自粛要請も休業指示もいずれも私権(財産権)の制限に直結するもので、これも別に法律で決まっているものではありません。あくまで、国家として、日本社会において重篤な状況や場合によっては死に至らしめる感染症の拡大を防ぐためという公益を目的として、現状での法令が許す範囲内で自粛を要請して感染状況をコントロールしたいという話です。

 なので、休業に応じないとする一部のぱちんこ業界も、圧力を強める国や都道府県、自治体の対応も、どちらも是なのでありまして、言い分は両者にあるのでむつかしいところなんですよね。これらは、強制力がない限り本質的な意味で抜本的なコロナウイルス対策などできないという日本の統治機能の構造的欠陥を意味するものと言えます。

 また、先日は維新の会・音喜多駿さんがぱちんこ業界の人たち(パチンコ未来ラボ・木曽崇さんら)との議論をYoutubeにアップしていましたが、こういうの、どんどんやったらいいと思うんですよ。

パチンコ業界の「中の人」たちと大激論!VSパチンコ未来ラボ意見交換ダイジェス https://youtu.be/mTjPiqQZ5A0

 基本的に、俗説として良くある「ぱちんこ業界と警察庁・警視庁の癒着」なんてものは、昭和50年代ならいざしらず、いまは特定の大物警察キャリアのOBが天下る程度で、警察警邏の現場で頑張る現役からすれば「面倒な業界管理」を強いられ、また、過去の(やや不合理であった)ぱちんこ行政を踏襲しなければならない状況に対しても危機感を持っているわけですよ。ぱちんこでは三店方式で換金していて、事実上のギャンブルではないのか、と国会で問われても「そのような事実は認識していない」という過去の答弁や指導の内容を逸脱しないという不文律があって、みんな面倒だなと思っておるわけです。だからこそ、筋が悪くても「ぱちんこ新法が必要だ」とかいう話になる。

 しまいには、先日西村博之(ひろゆき)さんが「ぱちんこは違法」と放言したらしく、直後に木曽崇さんに真っ二つにされてましたが、一時の娯楽に供する目的で上限に厳しい制限を設けて遊戯を提供しているぱちんこ業界は原則として適法なので問題なく事業ができているというのは大前提の事実です。

パチンコは「グレー」ではないし「違法」でもない(木曽崇) - Y!ニュース https://news.yahoo.co.jp/byline/takashikiso/20200427-00175459/

 一方で、本当に適法であるならば、なぜわざわざ故買商が仕切る景品交換を挟んだ三店方式でなければ適法性を担保できないのか、直接ぱちんこ店舗が胴元になって不特定多数を対象に賭博を行うことはできないのだとかそういう法律上の立て付けを一回本来は整理しなければならない状況であるのもまた、事実だとは思うんですよね。

 しかしながら、今回のコロナウイルス騒ぎのお陰で、そういう過去に積み重ねてきたギャンブルと風営法・警報賭博罪(185条)の議論を大きく超えて、休業指示と営業の自由という超最前線にぱちんこ業界は立たされた、というのは非常に興味深いのです。

 さらには、北海道大学・西浦博先生をはじめとして厚生労働省のクラスター班が表現に困って「夜のクラスター」みたいに語っていたコンパニオン派遣やデリバリーヘルスのような無店舗型風俗営業、および銀座の高級コールガール店舗、パパ活ラウンジなどは、猛烈に感染源となっていて、ぱちんこ店ほど明確に「お前ら閉めろ」とは言われなくとも問題になっていることは確かです。

 実際、夜の街クラスターが騒ぎになったのは福井県で、頭のおかしい上場企業経営者が銀座で性交渉して感染し、福井にやってきてそのまま福井でも性交渉に励んで感染拡大の一端を担ってスーパースプレッダーになったという石田純一もかくやという展開になったのも記憶に新しいところです。

 営業を続けているネイルサロンも含め、これだけ口を酸っぱくして「三密・集近閉は避けて欲しい」と要請が出ていて、それは回り回って感染者をうっかり出したら自分たちの首を絞める可能性の認識もないのか、という言い分が一方にあります。そして、反対する一方にはそうは言っても国や都道府県があれこれ言おうとも憲法に認められた私権の制限はなかなかむつかしいという大前提に立って、営業する自由を前面に立ててぱちんこ愛好者を一手に集めるホールの生存戦略もまたあります。

 どちらが正しいのかという話になるわけですが、ここにきて我らが総理の安倍晋三さんが、突然「こういうときのために緊急事態条項に対応するためにも憲法改正が必要だ、という斜め上からの議論を吹っ掛けてきました。あと一か月足らず、国民が結束して一丸となってコロナ対策を乗り切らなければならないというときに、改憲議論という国民感情を二分するような爆弾を投げ込んでくるあたりに、ああ、安倍ちゃんというのはどうしても改憲したくてしょうがないんだなという悲しい情念に見舞われるのであります。

コロナ対応で改憲訴える首相 便乗?与党内にも疑問の声:朝日新聞デジタル https://www.asahi.com/articles/ASN536W4VN53UTFK004.html
コロナで改憲主張「筋違い」 専門家が危惧する三つの点:朝日新聞デジタル https://www.asahi.com/articles/ASN4Z7G8HN4VUTFK007.html

 そういう議論に対して、京都大学の曽我部真裕さんという教授の人が正面から「んな必要ねえよ」とぶん殴っているのが印象的です。まあ、実際必要ないでしょうからね。

 この感染症対策のための自粛要請、従わない店舗が人を集めて繁盛する、それだと困るので休業指示に踏み込む、しかし法的根拠を巡って曖昧な部分を突いてなお営業を強行する店舗がさらに繁盛する、という日本社会の制度的エラーを巡る議論は、是非皆さん興味を持って見ていていただきたいと思います。アフターコロナ、ニューノーマルを議論するときに絶対主要な議題になると思うので。

山本一郎既刊!『ズレずに生き抜く』(文藝春秋・刊)