さっき、Nathanさんに金子勝せんせが馬鹿にされていたけれど、でも金子勝せんせの問題意識って国家が個人情報を利活用することには一定の理解は示しつつも、でも権力が国民を監視することは許せないという一件矛盾した心理をうまく表現していると思うんですよ。

https://twitter.com/Nathankirinoha/status/1254912773810577408

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 まあ、左派からすれば憎むほど憎い安倍晋三政権が為す横暴を目の当たりにして、個人情報を自由にさせるなんて許せない! って言いたいのも分かるんですけどね。

 で、そんなすったもんだも含めて、コロナウイルス対策を機に国家による国民の情報をどう扱うべきかという論考を森田朗先生が執筆されています。

国家による保護と統制をどこまで許容できるか
令和版「この国のかたち」:NFIからの提言Vol.1(1/3) | JBpress(日本ビジネスプレス)
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/60314

 この中で、森田朗先生は、はっきりと「新しい民主主義を形作るのは、新しい情報制度」であると論じておられます。

[引用]

私自身は、この問題を解く鍵は、国における情報制度にあると思っている。現代の福祉国家において、健康で文化的な生活をすべての国民に保障し、国民各自に最適の行政サービスをきめ細かく提供するためには、国家は、国民についての詳細な情報を保有せざるを得ない。また、社会の状況についても詳細なデータを収集し、それを活用することによって、安全で効率的な社会を実現することができる。

--ここまで--

 テーマとしては、人口減少に差し掛かり国力が衰退局面に入った我が国が、いままでのような右肩上がりを前提とした諸制度を引きずったまま制度疲労を起こしている状況でコロナウイルスが直撃しましたと。

 しかし、実際には安倍晋三政権は独裁どころか、国民の行動を強制的に縛るような仕組みを持っておらず、強権すら発動できないなかで国民に「外出の自粛」を求め、しかし国民は満員電車に乗りぱちんこ屋に行きバーベキューに繰り出すという状況であります。

 感染症拡大を抑えられた他の国はと言えば、金子勝先生が賞賛する韓国のように国民の情報を政府が直接管理し、外出禁止を守らない国民に対しては刑事罰という棍棒でぶん殴って回るという方法に出ているところがあります。スマホの位置情報を「感染症対策のために」きちんと国家や国家から委託された民間が適切に管理し、国民の情報を必要に応じて使ったり使わなかったりする、という政策手段をもっているわけです。

コロナウイルス(COVID-19)対策で専制・共産国家のやり方を称賛するのって怖ろしくない? | プレタポルテ by 夜間飛行
http://pret.yakan-hiko.com/2020/02/27/yamamoto_200227/

 大事なことは、感染症対策や地震のような災害時に、必要に応じて個人に関する情報を国家や都道府県、自治体、あるいはこれらが委託した民間企業が使えることで、国民の生命や財産の安全が守られ、必要な補償や手当てが行き渡り、死ななくて良い、倒れなくて良い人たちが無難に危機を乗り越えられるという目的に限定することです。

 問題は、一党独裁の専制主義か、議論を尽くして個人の権利を前提とする民主主義かという選択の問題ではなく、民主主義を大前提としながら、危機にあっては適切に情報管理がなされる情報法制の完成度にあります。

 そのために、マイナンバーを使い、国民の口座情報や健康情報を管理し、位置情報によって安全かどうかを判断できるサービスに繋げていく。あるいは、補償を行ったり健康を維持するのに必要なマッシブデータを活用するためにどのような政策を実現するのが望ましいのか、公共政策と公衆衛生の両面から最適解を図るべきだと思うんですよね。

 解決には自治体ごとに個人情報に関する条例が異なる2000個問題もありますし、もっと包括的に情報法をすべての法体系のうえにかぶせる必要も出てくるかもしれない。データ資本主義の幕開けと言いながらも、いま目の前の公的書類をオンライン上で済ませられないからせっせと実印を捺し、各種証明書を窓口で貰ったり郵送してもらったりする不合理がまだ現実にそこにあるのです。しかも、それを手掛けるのは公務員の皆さんであり、病院でも、大企業でも、あらゆるところで不合理がそのままになっていて、情報化が進まない。

 こういう問題を解決せしめるために、NFI(次世代基盤政策研究所)が森田朗先生を中心に結成されたわけでありまして、本連載「令和版『この国のかたち』:NFIからの提言」につきましては次回、私めが担当させていただきます。
 今後のNFIの活動に、ぜひご期待ください。

山本一郎既刊!『ズレずに生き抜く』(文藝春秋・刊)
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