まあもうどうしようもないので、受け止めて、前に進めるしかないのですが。

 本当は、3月12日ごろには大規模イベントの開催自粛が東京都から各種イベンターには申し入れられており、感染が確認されて騒動になっていたライブハウスや、各種劇場での公演、さらに大規模なDJイベントなどもイベント開催取りやめに追い込まれました。

 このような状況で5月上旬に予定されていたコミックマーケットもあの規模、あの人口密度で開催を強行できるはずもなく、非常に残念なことではありますが中止の発表となったのは仕方ない。誰も悪くないと思うんですよね。

 コミケ準備会から、各サークルに19時過ぎに開催中止のメールが飛んだかと思いますが、詳細は公式サイトに今夜19時30分ごろから順次掲載されるとのことです。(追記:一部、掲載されました)

コミックマーケット98の開催中止について
https://www.comiket.co.jp/info-a/C98/C98Covid19Notice2.html

 私の想いはYoutubeに流しておきました。開催できないことは残念ですけど仕方がない。

0:04 / 12:17 コミックマーケット98中止決定に直面して、考えたこと。
https://www.youtube.com/watch?v=UUKo2xHj_Cc


 問題は、参加を決めていたサークルに対する返金をどうするのかや、その周辺の事業者に対するキャンセル補償をどうするかです。参加者さんへの対応をどうするのか、コミケ準備会も相当悩んだのではないかと思います。また、同人活動で自分はこういう表現をしたいと自腹を切って創作活動をしている人たちはどうにかなる部分もあるかもしれませんけれども、ブースの設営や男性女性を派遣していた事業者や、今回のコミケに向けて大きな発表準備をしていたコンテンツ企業などは千万単位で売上が飛び、貸し倒れることになります。

 東京都の側から言えば、都議会も都庁も随分頑張って各種調整を行ってはいたようです。ところが、7月に開催する2020年東京オリンピックの開催が新型コロナウイルス対策で一年延期になった時点で、都内の各種イベントに関して規模を問わず強い自粛要請しない理由が無くなりました。一大イベントであるオリンピックが中止になるのに、ナイトクラブやライブが営業できる、イベント開催できるはずがありません。

 これは、しょうがないんですよね。もう、どうしようもない。誰も悪くないのです。

 当然、コミケは状況としていかに準備会が万全な対策を打ち、参加者たちが規律をいままで以上に守ったとしても、あんな人口密度である以上はコロナウイルスの感染クラスターにならないはずがありません。楽しみにしている、どうしてもやりたいという私たち個人の情念はどうであれ、中止は当然です。コミケ準備会も状況を真摯に検討してきちんと結論を出したと思います。

 一方で、参加を予定していたサークルさんへの返金は当然行うとしても、事業者や関係先への支払いや、中止決定に対する補償はどうするのか、という問題は残ります。筋論で言うならば、今回は東京都が一段強い対応をするということでコミケを含む都下のあらゆるイベントや飲食店、風俗営業に対して自粛を求めていますので、その中止・休業に対する補償を国なり都なり特別区なり自治体なりが行います、というのはあります。つまり、これだけのカネをあげるから営業しないでね、イベントをやめてねという話です。

 今回の一連の中止においては、東京都庁でも都議会でも「線引き論」が出ていて、少なくとも7月のオリンピック中止までのイベントについては現金での補償を行う意図や予定はなさそうです。あの芸能事務所がやる劇場公演の中止は東京都が補償するが、こっちのライブイベントは金銭補償しない、という線引きを都や自治体が行うことができない、なのですべての事業者に対して公平に中止・休業に対して金銭補償はしない、という意味になるのではないかと思います。公平と言えば公平ですが、エンターテイメントで頑張ってきた産業からすると向かい風どころの騒ぎではありません。

 また、一足先に経済危機に陥りそうな韓国や、一息ついたとはいえフル稼働には程遠い中国の状況を見ると、中国・韓国ほかアジア系の高い制作能力や製作委員会への資金供給が途絶える連鎖の一端にこのコミケ中止がぶつかるので、困難を受けてコンテンツ産業全体、文化活動全体が変容していかなければならなくなるのでは、と思うのです。

韓国との貿易(コンテンツ系)で何が起きているのかと、日本企業の課題をありのままに語る|山本一郎(やまもといちろう) #note https://note.com/kirik/n/nbe4ace9c0530

 こういう状況なので、一刻も早く発注を止めて、ブレーキを踏んで発注をキャンセルしないと関連する事業者が大損をだしたり潰れたりして信用不安を起こしてしまうので、できれば(一部の事業者がコミケ向けの支払いが部分的に発生するであろう)25日には中止を公式に発表してほしかったなあとは思います。まあ、うちも「万が一、コミケが強行開催されたなら違約になる」と考えて払っちゃいましたからね。同人さん向けの事業者は入金や支払いがもう少し先かもしれませんが、一般的に、ナイトクラブであれ劇場公演であれブッキングしてしまった実演家のギャラは中止でも支払わなければなりませんし、売ってしまったチケットの払い戻しをしなければなりません。コミケも同様に、委託してしまった仕事についてはお金を払わなければならないところも多いのではないでしょうか。

 不幸だったのは、30日31日が週末を挟んで月曜火曜だったことで、お支払いで困るようなところはいまから事業計画書を書いて都庁や金融機関に特別融資の申し込みをしにいくにも土日は銀行やってないんですよね。私の身の回りにも「今回、何かあると潰れるんだろうな」という業者さんも少なくありませんでしたので、この週末に資金繰り対応する必要がある業者が多いなら早め早めに情報を出していくしか回避方法はないのだろうなと思っていました。

 業者同士の横のつながりにおいてはさっさと情報はお伝えしていたのですが、関係先のTwitterで本件をスタッフに書いてもらったところ、なぜか先走った人たちが「コミケ準備会が公式に発表していない話なのだから、それはデマだ」といきり立つ反応があったようです。元気な人たちも多くて微笑ましく見ておりました。すでに超党派でイベントのキャンセルに対する補償をどうするのかという議連も立ち上がり、都庁や都議会、都庁記者クラブでもコミケだけでなく大型のイベントの中止はオリンピック延期決定後に強く要請する(事実上の強制に近い)のは知れている話で、業者間にも「中止ですので案件はクローズしてください」という失注の連絡が出ているのですから、行儀よくコミケ準備会の公式発表を待つ必要も私たちには無いんですよね。

音楽ライブの中止に補償を 超党派議員、支援策検討:日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO56903890X10C20A3PP8000/

 もちろん、本音では「そうは言っても強行開催したらどうなるだろうか」という興味本位もあったわけなんですが、いまのコロナウイルス対策の状況で言えば、当初の秋ごろまでにはどうにかなるだろうという楽観論は消え、ワクチン開発から感染状況を社会がコントロールできるようになるまで一年半以上の期間が必要だという流れになってきています。そうなると、冬コミ開催はもちろん他のイベントもクラブも興行も長い期間全部自粛・中止を余儀なくされますし、休業が続けば飲食店やナイトクラブはバタバタと倒産してしまいます。体験を売るコト消費にサービス業全体がシフトしていったことが、却って感染症対策の強化で壊滅してしまうという残念な状況がしばらく終わりそうにありません。

 そういう長く続くかもしれない危機的状況であるからこそ、いわゆるハレの舞台であるコミケもオンラインや分散開催も含めた方法を模索して、環境の変化に対応しながら柔軟にイベントの中身を変えていってほしい、より意味のある、さらなる価値を創出して、世界に誇れるものにしていってほしいと願っています。


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