アスクルの社長だった岩田彰一郎さんが業績不振に陥ったので、大株主であるヤフージャパンやプラスらが岩田さんの解任に動いたところ、社外取締役だけでなく冨山和彦さんや日本証券取引所の面々が「少数株主の利益を害するガバナンス不在だ」と騒いだのは記憶に新しいところですね。

 というか、社外取締役が機能しているのであれば、倉庫が燃えたアスクルがその後もたいした利益を出していないことに対して、前社長の岩田さん以下経営陣を取り替える発案をするぐらいのことをしなければならなかったと思うんですよ。

 業績ずっと芳しくないんですから。

日本取引所CEO、ヤフーの議決権行使に懸念表明-アスクル問題
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2019-07-30/PVFKZF6S972801
「伸び悩み」アスクルの微妙な経営陣をヤフー&プラスが解任できない謎展開が面白い - やまもといちろう 公式ブログ https://lineblog.me/yamamotoichiro/archives/13231396.html

 こういうガバナンスの問題は、確かに親子上場どころか、ソフトバンクG、ソフトバンクKK、ヤフージャパン、アスクルと4層構造で上場させている日本の証券市場、すなわち日本取引所が、いままで平気で親子上場を認めてきた経緯にこそ問題があると思うんですよね。もしもガバナンスに問題があり、親子上場が少数株主の利益を損ねる恐れがあるとするのならば、経済産業省のガイドラインがどうとか言う前に「そもそも親子上場を維持させるな」という日本取引所自体のガバナンスをどうにかしないといけません。

 ところが、上場情報見ていると、今度はKDDI傘下のコンテンツ子会社であるSupership社が株式上場に向けて準備中であるという謎のリリースが出ました。そのリリースに何の意味があるのかは分かりませんが、とにかくそういうリリースが出た以上は、それこそ親会社であるKDDIの意向のままにSupership社が経営させられて少数株主の利益を毀損する可能性はあります。別にKDDIが悪いわけではなく、そもそもアスクルの話はそういう理屈でずっと言っていたわけじゃないですか。

Supershipホールディングスの株式上場準備の開始について | 2019年 | KDDI株式会社 https://news.kddi.com/kddi/corporate/newsrelease/2019/08/09/3959.html

 それを防ぐには、KDDIが支配的な株式を持たないぐらい売り出すことが前提になりますし、KDDIのような大企業が育てた子会社を上場させることで事業をリスクオフし、上場益を手に本業のドライブをかけられるようにする、というのは大事な論点だと思うんですよね。繰り返しますが、KDDIが悪いのではなく、親子上場はガバナンス上不適切だと日本取引所が言うからには、せめて新規上場の審査にあたってはそれと疑われる上場案件についてはもう少しきちんとした処置を取ってほしいという気持ちが強くあります。

 ソフトバンクグループは駄目で、KDDIは良いのだ、とするならば、これは単なるダブルスタンダードであって、いままで冨山和彦さんや、ついでに退任させられたアスクル社外取締役でもある日本取引所前CEOの斉藤惇さんら、市場の側の都合で上場企業が振り回されるようなことは避けたほうが良いと思うんですよね。

アスクル社長解任劇、「主謀者」は存在したのか 前社長の保身か、それとも支配株主の横暴? | 企業経営・会計・制度 - 東洋経済オンライン https://toyokeizai.net/articles/-/296089

 また、東洋経済の山田雄一郎さんがこのような記事を書いていました。実際、ソフトバンクGの宮内謙社長が語った内容についても触れています。

[引用]

そして、「ロハコは前期92億円の赤字でした。他社のことなので詳しく述べるわけにはいかないが、マスコミの皆さん、アスクルの実態をもっと調べられたらいかがですか。もっと(アスクルやロハコ事業の)業績をみてください。(アスクル解任劇には)事業を伸ばす大義があったのではないか。半年くらい経ったらそれが証明されてくると思いますよ」と語りかけた。

-ここまで-

[引用]

岩田前社長のことを古くから知る関係者がみると、今回の騒動には既視感が漂う。2012年、発行済み株式数の74%に当たる新株をヤフーへ第三者で割り当て、株式は大きく希薄化した。その結果、「当時、岩田社長は大株主から解任される見込みだったが、ヤフーへの巨額増資で大株主の持ち分を希薄化し、解任をのがれた」(関係者)という。

-ここまで-


 つまりは、アスクル問題の本質というのは大株主ヤフーの横暴というよりも、岩田さんの保身と日本取引所のダブルスタンダードの問題であって、この問題は非常に根が深いものだと感じます。

 関連する話として、以前これがらみの記事を書こうとしたら、大手広告代理店系のPR会社から人を介して「アスクル・岩田社長側に有利な内容の記事を書いてほしい」という結構露骨な要請があり、また、今回解任される社外取締役の
斉藤惇さんは日本プロ野球機構(NPB)のコミッショナーであり、球団を持つソフトバンクや楽天は斉藤さんの顔に泥を塗るつもりなのかというお話もいただきました。むしろ、今回は業績不振の経営陣を大株主が更迭できない&そんな経営陣をガバナンスや経営的な独立性を理由に解任しない社外取締役の問題であって、恥ずかしい想いをするのは親子上場を認めまくっている日本取引所や不思議な圧力の具にされているNPBじゃないかと思うんですが。

 ちょっと海外にいたりしていたので、あまりきちんと取材したり調べたりはしていませんが、個人的にはまだまだ奥行きのある話なのかなと思いました。JDIの件も含めて、注意深く見ていきたいと思います。


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