統一地方選の前哨戦とも言われる、暴言辞任に伴う明石市長選(一回目)が3月10日告示日、17日投開票ということで、調査方もいろいろとさざめき立っています。

統一地方選2019
https://www.nhk.or.jp/senkyo/database/touitsu/2019/

 今回は別の仕事もあり選挙情勢調査みたいなものは手伝わない予定ですが、国勢選挙とは異なりいろんなムーブが地方政治にあり、後ほど触れますが大阪維新(維新の会)がらみなんかも含めて動きが急で、何を軸足に日本の地方行政、地方政治を判断するのかというのはなかなか一本化はむつかしいというのが正直なところです。

 なぜむつかしいかという点では、地方経済の低迷、その原因である地元産業を支える人口の減少、高齢化による活力の低下が著しく、新しい手を考えて地方が打とうにも、リソースの奪い合いにしかならず、頑張れば頑張るほど効果が低い施策の連発で逆に疲弊し死期を早める自治体が出てくる、そのような自治体の政治には魅力がなく、地方政治への関心も低下する… のスパイラルがあることは、従前から問題視されてきました。

 明石市もまた、衰退する郊外という代表的なカテゴリーに位置し、神戸や大阪といった大都市へのアクセスが至便でありながら、人口減少トレンドを覆す施策を打ちだすことがむつかしく、また「ヒョーゴスラビア」と揶揄されるほど各地域の独特な文化基盤もあって、票読みとは別に何を地域の柱として政策を立案していくのか、という点で常に混乱と論争が呼び覚まされる地域でもありました。

 泉房穂さんの前の市長である北口寛人さんが、通称「たこフェリー」の問題で問責決議を市議会から突き付けられ辞任に追い込まれると、激戦の市長選挙で泉さんが僅差で勝利し、その後2期の明石市長選を勝ち抜いて、今回の暴言問題を受け全国的に批判されて再び辞任に追い込まれ、今回の選挙となったわけであります。

 その泉房穂さんとの対談はヤフーニュースに一部を記事化し、残りは私の有料メルマガ「人間迷路」で掲載する予定です。正直初対面の割には随分いろいろと突っ込んだお話もしてくださり、また、泉さんが真摯に反省の弁を繰り返し、繰り返し口にされていたのは新鮮な衝撃でした。普通、一通り謝っても選挙に通りたい一心で政策を放す候補者が多いのも事実ですが、暴言やその背景にあるご出生地、ご家族の問題、ご経歴や政治活動に関わることも赤裸々にお話になられ、そういう裏表のない人なのだなという感覚を強く受けたのは事実です。

「暴言」前明石市長・泉房穂さん、出直し出馬表明の真意を問う(追記・修正あり)(山本一郎) - Y!ニュース https://news.yahoo.co.jp/byline/yamamotoichiro/20190307-00117356/
山本一郎(やまもといちろう) 有料メールマガジン「人間迷路」
http://yakan-hiko.com/kirik.html

 北口さんの問責決議の内容は簡便ですが、地方政治には良くあるタイプの問題で、北口さんもこんなことで退任に追い込まれるというのは本意ではなかったことでしょう。この問題については、神戸新聞をはじめ地元のメディアも賛否両論含めて盛んに報道をして、地方政治独特の雰囲気を醸し出していました。

北口寛人市長に対する問責決議
http://www2.city.akashi.lg.jp/gikai/d-3/ikensho22_12_5.pdf
明石市幹部が造反→明石市長北口寬人が退任→後継指名の泉房穂が当選
http://sclapskobe.blog.shinobi.jp/Entry/592/

 記事にもありますが、市民の足でもあった、明石淡路フェリー(たこフェリー)の存続にあたって、元市長・北口さんの私利私欲であるかのような報道が繰り返し行われ、市議会での発言との実態の矛盾が表出し、退陣に追い込まれるものでありました。北口さんは私も大学の先輩ということもあり、ほんのり話は聞かされていましたが、彼は彼で、大変なご苦労をされたように外からは見えます。

 一方、泉さんの暴言問題は明石市職員に対して、パワハラ的に暴言をぶち込んだ一方、その発言の姿勢は神戸新聞が報じた通り市民の安全の側に立って職員の仕事が遅いことを強く叱責するものであって、概ね私利私欲とは無縁で、お前ら市民のために働けという姿勢が前面に出ていたという点で、どちらも部下による市長発言の録音が起点とはいえちょっと異質なところがあります。

明石市長・泉房穂氏の暴言をよく読むと、市民の命を守るための正論である件(山本一郎) - Y!ニュース https://news.yahoo.co.jp/byline/yamamotoichiro/20190129-00112928/
神戸新聞NEXT|総合|部下に「辞表出しても許さんぞ」「自分の家売れ」 明石市長の暴言詳報 https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/201901/0012019280.shtml

 北口さんにせよ、泉さんにせよ、地方政治においてその活動を評価する人たちは少なくありません。今回審判を下す明石市民がどう判断をするのかは分かりませんが、私は兵庫県で「神戸市ではない自治体」と扱われ続けてきた明石市のような中堅都市の悲哀を感じずにはいられません。政策面でも財政面でも、自分の足で立っているのはむつかしい規模の自治体なのです。

 北口さんは、そういう明石市をどうにかするために地元財界の有力者と結びつき、兵庫県知事の意向も踏まえたうえでの政治を目指し、泉さんは明石市の立地や活力を信じて政策の中心に子どもを置いて、子どもが増えれば子どもと暮らす勤労家庭が増えるはずだという独立した地方政治を目指した。前者は業者との癒着を疑われ、後者は強引の市政運営でパワハラと指弾された。どちらも単なる地方政治あるあるで終わらせてはならない問題じゃないかと感じずにはいられません。

 人口減少傾向にあり、財源面でも危険な状態になりかけていた明石市を本当の意味で回復させたのは、確かに泉さんであり、市運営の成功に関する功績はあります。一方、近隣市からすれば、明石市は他の地域から子どもを奪い、明石市によって沈没させられた、という被害意識のような意見もあります。ただまあ、それは地域間の政策がどれだけ市民にとって意味があり、魅力的なものであるかの競争であり、人口面では特にマイナスサムゲームであることは言うまでもなく、今後の日本の地方政治における重要なテーマの一つであることは指摘されるでしょう。

 そのうえで、泉さんとの話とは全く別に、ジェノバライン問題は常に横たわります。ぶっちゃけ、地方政治好きならみんな知ってる兵庫県知事・井戸敏三さんと公明(党)がらみの微妙なポイントのひとつで、つまりは総務省(旧自治省)からの落下傘候補とは何か、地方政治を中央が統制する戦後長らく続いた重要な体制の「制度疲労」に関わるものです。資本金6,000万円、正規従業員16名にすぎないこの事業がなぜこんな大きな舞台仕掛けの中心にくるのかは、関係者一同、なにが国民、地域、経済にとって合理的なのか胸に手を当てて沈思黙考するべき事項ではないかと思いますし、暴言テープどころではない吹き飛び方をヒョーゴスラビアで起こす危険性のある話を分かっていて放置し続ける理由が良く分からないんですよね。

 そして、目を転じれば大阪府府知事・大阪市市長の松井一郎さん、吉村洋文さんがそれぞれ辞任し、たすき掛けで出馬する話が出てきました。大阪都構想をどうにか進めようという話のようですが、それが具体的にどのような意味を持つのかはともかく、これが地方政治のダイナミズムなのだと言われるとそうなのかなともギリギリ思えるレベルの話と言えましょうか。

大阪知事・市長が辞職願…ダブル選来月7日 「入れ替え出馬」表明 : 政治 : 読売新聞オンライン https://www.yomiuri.co.jp/politics/20190308-OYT1T50204/

 良くも悪くも、これが地方政治の現実だということではありますが、地方自治体の首長に関する資質や実績をどう判断するのかという問題は、よくよく考えていかなければなりません。市民がここまで泉さんを知っているのは、泉さんがある種の発達障害的な狂人的集中力で主要な政策を推し進め、なかば市職員を恫喝してまで前に進むという奇特で奇抜な市民のための政治家であったからという側面が否めません。裏返せば、そのぐらい根性入れて爆発的に地方政治を推し進めない限り、人口回復はしないし、市民に意味のある政治にならないことがある、ということでもあります。

 泉さんが再選するのかは分かりませんし、北口さんが復活されることも考えられますし、まったく新しい風になるのかもしれませんが、それはそれとしても、泉さんの自立的な政策が「自治体成功」モデルケースになっていくのかなとも外野としては思います。もちろん他にもいろいろ感じることはありますが、右肩上がりの日本の政治思想や制度設計を見直すために、ひとつの事例として明石市は見ておいて良いのでは、と考える次第です。

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