ブロッキング議論は、憲法問題にまで発展し、宍戸常寿先生や森亮二先生といったきちんとした人まで巻き込んで大論争になりましたが、実のところ、突き詰めれば「出版社は(差し止められるだけの)権利を持っていない」けど「海賊版サイトを差し止めたい」という実務問題です。

 クラウドフレア社が「削除請求に応じない」「仮処分が出ても守らない(であろう)」と川上量生さんが言っていたのは、単にアメリカでの請求において本当の権利者は漫画家であり、出版社ではないという実務上の問題に過ぎません。

 事実、今回山口貴士弁護士がカリフォルニア州で行った裁判においては、中川譲さんがきちんと連携を取り、権利者が現地弁護士事務所を起用して証拠開示手続きを行って、きちんと下手人の開示にまで漕ぎ着けています。山口先生の手配が適切で、実務面でもきちんと処理を行えば、クラウドフレア社は開示する

海賊版サイト「漫画村」の運営者を特定か 法的措置へ https://www.buzzfeed.com/jp/takumiharimaya/manga-mura

 また、日本でも山岡裕明弁護士がクラウドフレア社や某部ときちんと話し合い、開示にまで至っています。山岡先生はかなり丁寧な対応をされたようで、日本でもアメリカでも適切な申し立てを行う実務に心を砕けば、ブロッキングのような危うい方法に拠らずとも問題を軽減することができ、運営監理者を突き止めることは可能だ、ということに尽きます。

クラウドフレアに「発信者情報開示」命令、海賊版サイト「ブロッキング」に影響も|弁護士ドットコムニュース
https://www.bengo4.com/internet/n_8660/

 一方で、川上量生さんはTwitterやはてなブログなどで、繰り返しクラウドフレア社が発信者情報開示やキャッシュなどの削除仮処分が出ても応じない可能性について繰り返し言及していました。

 しかしながら、これはコンテンツ関連の配信で裁判をした経験のある方がおられればご存知の通り、クラウドフレア社はもともとちゃんと削除してくれる業者のひとつで、川上さんは何を根拠にそんな話をしているんだろうと疑問に思ったわけです。

カドカワ川上量生氏、クラウドフレア社は法的措置では対応できないという見解を示す(山本一郎) - Y!ニュース https://news.yahoo.co.jp/byline/yamamotoichiro/20181009-00099878/

 これは、冒頭に書きました通り、出版社は実際には権利者ではありません。クラウドフレア社が、例えばアメリカでディズニーやベルテルスマンなどメディア大手のコンテンツ削除請求や発信者情報の証拠保全措置に応じるのも、これらの米系メディア大手はきちんと権利者であり、法廷でその立証ができるから開示や削除に応じるのであって、日本の出版社が中途半端な権利で差し止めをしても「本当の権利者連れて来いよ」と言われて終わることもまた多いわけです(Freebooks裁判のように、そうでない場合もあります)。クラウドフレア社が請求に応じて開示した件数は1,400件以上に及びます。

 川上さんが「ブロッキングしかない」「緊急避難である」と言っているのは、ひとえに出版物の権利を持っていない出版業界だからそう言わざるを得ないだけであって、本来の権利者である漫画家がきちんと弁護士を雇い申し立てをすればすべてのケースで海賊版サイトの運営管理者は特定できると言えます。

 運営管理者が特定できるのは、海賊版サイトの運営の性質上、大量のデータを配信する必要があるからです。採算に乗るレベルで大量の配信を行い、広告モデルなり月額購読モデルなりを成立させるには、低価格でタイムリーに配信できるCDNを日本に置かなければほとんど実現できません。配信方法を突き止めることは容易である以上、その契約元も含めた発信者情報を開示させる法的手続き・実務さえしっかり揃っていれば、コンテンツのPiracyはほとんど防ぐことができる、というのが実態です。

 ブロッキングが必要だ、ということで立ち上がったタスクフォースも、これで無事、不要になります。タスクフォース組成の根拠がなくなったからです。

インターネット上の海賊版対策に関する検討会議(タスクフォース)の設置について
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/kensho_hyoka_kikaku/2018/kaizoku/dai1/siryou1-1.pdf

[引用]

インターネット上の海賊版による被害が拡大を続けている。特に、昨今、運営管理者の特定が困難であり、侵害コンテンツの削除要請すらできないマンガを中心とする巨大海賊版サイトが出現し、多くのインターネットユーザーのアクセスが集中する中、順調に拡大しつつあった電子コミック市場の売り上げが激減するなど、著作権者、著作隣接権者又は出版権者の権利が著しく損なわれる事態となっている。

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 クラウドフレア社に仮処分の申請どころか、海賊版被害の申し立てや状況のヒアリングをすることもなく、山岡先生が開示した通り、日本ではクラウドフレア社への仮処分決定が公開されるのは初めてです(公開されない仮処分で開示した決定があるかどうかは別の話です)。

 つまり、「運営管理者の特定が困難であり、侵害コンテンツの削除要請すらできない」という事態説明が虚偽であったことが、山口弁護士、山岡弁護士の活躍により明らかになったわけですから、ブロッキングを行うための緊急避難の是非について論じる必要もなくなった、と言えます。

 本日13時から、JAIPA(日本インターネットプロバイダ協会)でシンポジウムがあり、ギリギリ間に合ったかなというレベルで申し訳ないのですが、通信事業者や法曹界・法学者の皆さんが真摯にこの問題について議論してきたことは非常に貴重な知見が詰まっていると思いますので、ぜひ良い形で問題の締めくくりに向けた闊達な意見交換をしていただきたく願っております。

海賊版サイトブロッキングについて考えるシンポジウム~ISPは著作権侵害における加害者か?~
https://www.jaipa.or.jp/topics/2018/10/isp.php

 なお、データ経済時代の日本のデータ戦略については、いまなお空洞であり、日本人にとって、日本社会にとってより良いデータの取り扱い方とは何か、世界との競争の中で日本がどういう生き残り方をしていくのかを模索していただきたいと存じます。

“憲法違反“な官邸「マンガ海賊版対策」の雑さ加減 #山本一郎
http://bunshun.jp/articles/-/9048



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