あんま連エントリするつもりもないんですが、ちょっと午後電話が鳴りやまない状態でして、ずっと外出中だったので電話の電源が切れてしまいました。

 それはそれとして、連絡の内容で「被害に遭った岡本顕一郎さんの人柄について」という内容ならまあ分からなくもないんですが、かなりの割合が事件の被害者の背後関係についてでして、変な報道になりかねないなと思って一応の注意喚起であります。

 あくまで私の私見ですが。

・ はてな社が加害者を放置したのが原因ではないか

 はてな社とは発信者情報開示請求で争ったこともあり、はてな社の考え方、筋の通し方もある程度知る私としては、はてな社の対応は非常に堅実&筋が通っており、適切に申し立てをしたり、話し合うことのできる組織だと思っています。

 今回、取り沙汰されている加害者がはてな社のサービス「アノニマスダイヤリー(通称、「増田」 はてな社に登録IDは知られるが、対外的には匿名状態となる掲示板サービス)」でヒートアップしたことが原因とされていますが、過去に他利用者に対する誹謗中傷が繰り返され、無数のID抹消をされているという点で、中傷され続けた(そして殺された)岡本さんも、中傷の場となったはてな社も、殺害にまで至る行為を起こす人物による中傷投稿だったという事実は不知であり、そんな未来を予見しようもなかった、と言えましょう。

 一方、この加害者はどうも度重なる誹謗中傷に対して業を煮やしたユーザーによる発信者情報開示請求が申し立てられ、5月に個人情報の開示決定が出た、とされています。これらの問題に対して、加害者がさんざん誹謗中傷を繰り返してきたにもかかわらず、ID抹消や裁判所の開示命令を見て「自分が追い詰められている」と認識してもおかしくはなく、だからこそ、犯行に及ぶ動機となった可能性は否定できません。

 だからといって、問題の責任を岡本さんやはてな社の対応に求めるのは問題があると思います。

・「福岡が危ない」という件

 福岡県に凶悪犯が多く、ネットではよく「修羅の国・福岡」と表現されることがあります。
 もちろん本件事件は凶悪犯罪だとは思いますが、ある種の通り魔的な犯行とみられ、福岡という土地柄や繁華街に責任を帰すべきものではありません。

 どこの地域でも一定の割合で発生し得る犯罪であって、「だから福岡が危ない」と論じるのはやめたほうがいいと感じます。

・加害者が「40代無職引きこもり」という件

 今回の事件について、加害者のペルソナとして「40代無職引きこもり」ではないかという話が出ており、いわゆる失うものの無い”無敵の人”の犯罪であるという見解を持っているメディアが多いようです。また、取材に基づいてか、精神的に問題を抱えていたという情報も出ているようです。

 この手の凶悪犯罪で犯行に及んだ人の背景を考えるのに、属性を見るのは常ではありますが、無用なレッテルを貼り、メディアが「自分たちとは関係のない属性の人たちが行った凶悪犯罪である」と線引きをして報道するということが定番化しているようにも思います。

 秋葉原での刺殺事件や、アイドル握手会での刃傷沙汰など、一定の割合で起き得る事件について、その特殊性や、再現性を属性に求めるのは問題です。40代はともかく、無職であることや引きこもりが、常に重篤な凶悪犯罪の温床となるわけでもなく、希少事例を無理矢理一般化し、レッテル貼りによって無用な差別や偏見を持たせること自体がこの事件から得られる教訓を毀損するものだと思います。

・わかりやすい報道について

 ネットや雑誌でモノを書いている人間として、取材されれば一定の回答をするのはある種の義務だと思っています。ただ、当事者とある程度以上の交流があった人間として、岡本さんの死が変な形で報じられ、本来得られるべき教訓が無になるのは、それこそ岡本さんが無駄に命を散らしてしまった、加害者も自ら益なく破滅してしまったことになります。

 ちょうど岡本さんは経緯もあって独立しようってところで自らの名前を世間的にきちんと売る必要があるということで、本の執筆やイベントでの登壇とリアルでの活動を広げているところに、今回のような出合い頭の事故に遭ったというのが真相であろうかと思います。そうであるならば、実名で活動することの本来のリスクや、名前が知られることで出会ってしまう問題のある人の確率というあたりは、思い至す必要はあろうかと感じるのです。

 匿名で「Hagex」として長年ネットで頑張ってきて、ここから実名で活動するにあたり、いろいろと”先行事例”として相談に乗ってきた私としても痛恨であると同時に「それは私の身に起きていたとしてもなにも不思議ではないし、実際そういう危険が繰り返しあった」ことは、今回の事件で改めて感じました。

 この手の話は、報道で分かりやすくするのはむつかしいと思うのです。「ネット社会が危険だ」とか「有名になるリスク」などと一般化されてしまうと、たちまちネットで匿名で発言する人は問題だ、という流れに一気に行くでしょう。また、匿名で発言できる人たちを制限しろ、という流れになりかねません。それが岡本さんの死で進んでしまうようであれば彼の望むことではなかったように思いますし、ネットにしか居場所のない一定数以上の人たちに問題を押し付けて無かったことにする、いままでと変わらない日本社会であり続けると感じるからです。

 岡本さんにはもっと明るく幸せな人生を歩んでほしかったし、加害者やその家族も何か輝くようなものがあれば良かったなと思うところ大ですが、つくづく痛恨でありました。


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