なんかこう、尼子家と毛利家の勢力争いに巻き込まれた熊谷家のような心境を持つのは、どちらにも多少なりともご縁があって原稿を寄せさせていただいたりインタビューやご取材でやり取りしている経緯があるからでしょうか。

 まだ記事を読んだわけではありませんが、文春が東洋経済オンラインを叩いているというので、この辺の経済ライターやジャーナリストの中で一部騒ぎが広がっているので、記事を読まずに言いたいことを言いたいと思います。別にどちらかの陣営から「書け」と言われたわけではないことは最初にお伝えしておきます。私はそんな器用な男ではありません。

「週刊文春」8月9日発売号掲載記事について 編集部からのお知らせ
http://toyokeizai.net/articles/-/183823
「東洋経済オンライン」衝撃の内部告発  
http://bunshun.jp/articles/-/3708

 私も地味に連載させていただいているので、みんなよろしくねって思うわけですけど。

子育てにおける「お姉さん」と「おばさん」の境界線問題
http://bunshun.jp/articles/-/3646

 で、叩かれた東洋経済オンラインも自らのメディアで激しく反論しているわけですが、そこのアクセスランキングで上位に「男はみんな『元カノの成分』でできている」とか「ディズニーランドでバレる『残念な人』の末路」とか「女よりアニメを選んだ男が46歳で迎えた転機」など、どこを切り取っても東洋ではあっても経済ではない記事が読まれているわけで、週刊文春のいう「下ネタ」とは言えずとも「下世話」ではあるわけで、東洋経済にいた石橋湛山が脳梗塞で倒れかねないような状況であることは確かです。

 一方、文春オンラインも記事上位が「ローラ 「10年奴隷契約」をロサンゼルスで独占直撃!」であり「雨上がり宮迫博之“決死の不倫”直撃動画を公開!」であるあたりに格式の高さでは東洋経済と芸術的な譲り合いを披露しているようにも見えるあたりに微妙な雰囲気はします。逆に言えば、それだけ文春も東洋経済も話題を呼びそうな下世話な記事でネットユーザーにアピールし、しっかりとページビューを稼ぎながらメディアとしての信頼感を確保してメディアビジネスで頑張っているという風にも言えるわけであります。

 もちろん、インターネットでビジネスをする私からすれば、ページビュー(PV)を稼ぐための記事の質の良し悪しもさることながら、メディアの勝ちを計るのにPVはもはや最適解から遠くなったというのもまた事実でありまして、もにょもにょする部分はあります。いまや、東洋経済オンラインよりも文春オンラインのほうが後発なのに良い読者層を抱えていると思われて啖呵が高くなってきているわけで、いずれ文春オンラインがブランドコンテンツと称してオンライン広告特集でも営業を始めかねない勢いです。

 仮に本当に東洋経済が「編集部の一貫した方針は『幅広い対象をファクトとエビデンスに基いて正確に報じていく』という点にあ」ると主張するならば、わざわざロイター配信記事の中からブラジルの美尻コンテストの記事を買ってきて東洋経済のカンムリで配信(アグリゲート)し、アクセスを取りに行く姿勢はどうなのかと言われてどう説明するんだろうという気持ちはあります。「そういう記事ばかりじゃないよ」と言いたいのでしょうが、反論文の中で出ているアクセスランキング上位の記事で、むしろ純正な本来の経済記事は上位20位にひとつもない印象です、少なくともタイトルを見る限りでは。

ブラジル「美尻」コンテスト、水着でパレード 候補者27人が金融街で美しいお尻を披露 | ロイター - 東洋経済オンライン http://toyokeizai.net/articles/-/183938

 この手の「ブラジル美尻コンテスト」のような下世話な記事もランキング上位だったわけで、その東洋経済の内部告発者は総じてインチキ臭いとしても、アドネットワークや記事ランキングをヲチしている人からすれば「文春に適当なこと書かれて東洋経済編集部もムカついたのかもしれないけど、経済系のジャーナルを真面目にやっている人はアクセス稼ぎでこういう記事を出されるのはげんなりする」部分はあるかもしれません。

 東洋経済の本誌で地道に企業取材をしたり、決算発表などの記者会見周りをしている人たちからすれば、東洋経済本誌と東洋経済オンラインとで抜き差しならぬ相容れないところがあるのだろうなあというのは想像がつきます。あんな記事を東洋経済の看板で掲載して、本誌に良い影響があるとは思えない、という話は以前からずっとあります。でも、読まれているしビジネスにもなるのであれば、オンラインは独自の整腸の道を歩みたいと思うのも自然なことなので、そこはうまく折り合いをつけるしかないんじゃないかと思うんですよね。今回の文春が取り上げた告発者も、オンラインではなく本誌や周辺の人がいるんだろうなあというエピソードが混ざっている気もします。

 逆に、ビジネスの文脈とは異なる形で柔らかい記事を増やしてアクセスを伸ばしていくことは文春にとっても脅威でしょうから、そういう「告発」に乗りやすかった側面はあるのかもしれません。文春も来た告発内容をもう少し詳しく検証していれば、東洋経済オンライン編集部から「ガセネタ流すんじゃねえ死ね」というような反論を喰らわずに済んだのではないかとすら思います。これはもう「詰め」の問題だと思うので。

 書き手としてもビジネスの面からしても、週刊文春や東洋経済オンラインが相互監視しながら緊張感をもって良い品質の記事を出し続けることが大事だと思っています。やっぱり読まれてナンボと、良いものを読まれたいという、両立させるのがむつかしい世界でやっているのが無料オンラインコンテンツの宿命ですからね。文春側も東洋経済オンライン側もイライラするところはあるとは感じますが、良い意味で切磋琢磨していっていただきたい、と強く願うところでございます。

 なお、Newspicksはクソみたいなピッカーのコメントで他人の記事を安全なところからDISるのやめてください。徳力基彦送り込むぞ

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