例によって、経営共創基盤CEOの冨山和彦さんが騒いでいました。

「大人の嘘」とインターンシップ有識者会議 冨山和彦(経営共創基盤CEO)|経済界 http://net.keizaikai.co.jp/archives/25751

 文部科学省での議論も退廃的だけど、冨山さんの企業人教育万歳で文系理系も中央地方も一緒くたに語る雑な姿勢も微妙だなと思うところでして、インターンシップは必要だけど授業内容や成果に見合った仕組みづくりは大事だろうという方向で議論が発展的に進むことを希望してやみません。

 ちなみに、冨山和彦さんは以前「G型大学とL型大学に分けて、国際的に通用するエリートを教育する大学と、実務家として国内社会の経済活動を担う人材を育成する大学を政策的に分けよう」と提言して物議を醸した御仁でもあります。

 網羅的な議論はソーシャルメディアリスク研究所の田淵義朗さんがプレジデントに記事を掲載していたのでご参照いただければと思います。いい奴もダメな奴も一緒に大学行かせてもしょうがないし、国際的に通用する奴を選抜する仕組みぐらい作れよというのは一見合理的だけど、どうも冨山さんは文系学部しか見てない気がするんですよねえ。

「G型大学×L型大学」一部のトップ校以外は職業訓練校へ発言の波紋:PRESIDENT Online - プレジデント http://president.jp/articles/-/14035

 で、冨山さんの文章の中では「日本の大学生の勉強量が欧米より少ないのは、大半の大学および教員の無為無策、無能怠慢が主因である」と痛烈に批判していますが、個人的に大学の中から見て思うのは大学が無為無策というより教授陣が少ない予算で研究せざるを得ないこと、スタッフも充実しないところで雑務も教務も研究も営業も兼ねていること、教職員規程が厳格なため高給で優秀な研究者を教授待遇で呼ぶことができないこと、人事が硬直化していて優秀な若手研究者ほど海外に出て行ってしまうこと、優秀な教員も二線級な教員も評価のKPIがはっきりしないので研究にも教育内容にも優劣がつかずインセンティブが働かないことなどが挙げられます。

 要するに大学に然るべきマネジメントが備わらず、学問の世界で名を挙げた人が教授会に上がり、そこの互選で学長が決まるというシステムである以上、マネジメントもガバナンスも働かないのは当然なんですよね。

 この辺の議論は大学改革支援・学位授与機構などでも散々議論されていることであって、別に冨山さんが叫ばなくても10年以上前から言われてきたことなんですが、なぜそれでも改革されないのか、改善された大学が日本国内で評価されないのかといったあたりは考えるべき部分は大きいと思います。

http://www.niad.ac.jp/n_chousa/

 で、いわゆる科研費が行き渡らない問題にしても、経営不振の大学が行政の責任で統廃合されない事情にしても、かなりの意味で文部科学省の組織的な硬直が課題になっているのはまあ事実だと思うのです。先日問題になった文科省前次官の前川喜平さんのケースにしても、前川さんが個人的に駄目だというより、長年にわたって文科省は微妙であり続けた結果がこれだったという風にも言えなくもありません。文科省の中にもまともな官僚は少なくないし、問題意識を持っている人たちもたくさんいるのですが、具体的な対応も改善もなされないまま、少ない予算で研究者が大学内に放置され、スタッフも置けずマネジメントもない状態では学生の学力も上がらないであろうし、研究成果としての論文も日本だけが低迷するということだって考えられます。

 勢い、そういう大学であるべきかという議論になると、俄然冨山さんの話に合理性を見出すことになるわけですけど、それは文部科学省が駄目なのでどうにかしよう、中からでも外からでも大学改革できるようにしようという話と、日本の産業力強化のためにどういう教育であるべきか考えようという話とは切り分けて考える必要があるわけです。前者からすれば冨山さんの話は正論だけど、後者からすれば冨山さんは事情も満足に知らずに高飛車に論じやがって馬鹿なんじゃないのという結論になるわけですよ。

 それが、周り回って大学から社会人になるにあたってのパスの一つであるインターンをどう扱うかですら、満足に着地しないことになるわけです。加計学園が獣医学部を作る作らないの問題や文科省からの大学教員への天下りなどなどの事情と同様に、これらはいわば「症状」であって、「病気の原因」はこの国の若者をどちらの方向に育成し、どういうリソースを分配し、高等教育としてどのような仕組みを提供し、さらに優秀な教員に然るべき待遇を与えて研究なり教育に専念させるのか、という話をまずしないと駄目なんですよね。

 ちなみに、この冨山さんが批判してる文科省の文書、ちゃんと読んだほうがいいです。前提条件として、はっきり「日本のインターンシップは国際的に見て参加率が特に低い」けど「事前・事後学習が実施されず教育的効果が十分でないなど、質的な充実についても課題」だとはっきり書いてあります。

 冨山さんがわいわい言うのであれば、採用直結のインターンシップの教育効果がどこにあり、これを拡大することで日本の大学教育にどのような質的貢献が果たされるのかをまず論じないと有効な批判にならないよな、と思うわけです。

インターンシップの更なる充実に向けて 議論の取りまとめ
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/076/gaiyou/1386864.htm

 私なんかは、もしもいまの大学をどうにかしろと言われたら、まず教授以下教員において、研究と教育に分けて、評価基準をより明確にし、研究にも教育にも無関係な雑務から教員を開放することを先にやると思います。マネジメントが存在しないのが日本の大学の共通した問題点だと思うからです。

 より政策面で言うならば、文科省の考えも踏まえたうえで、欠員の多い大学の統廃合に踏み込みつつ、国家予算である科学研究費の使い方についてもっと相応しいルールを作ることが大事だと思っています。きちんとKPIを設定し、何をクリアするために文部科学行政が行われるべきかについて、しっかりと議論することが大事であって、職業人として質の良い学生を大学卒業後に産業界に送り込むのはそのKPIの向こう側にある変数だと理解する必要があるんじゃないでしょうか。

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