今朝、ちょうどパナマペーパーの番組をやるということでNHKの「週刊ニュース深読み」に出演したところ、午後になって一部の外資系証券経由で「本件問題は、米国主導のスキャンダルリークだったのではないか」というような情報が出回って、週末でみんな暇なんだろうと思いつつ、そういう合理的な疑いがあってもおかしくないよね、とは思います。10日に予告されている内容は、おそらく言われているほど(日本やアメリカにとっては)たいした内容にはならないのかもしれませんが、そもそも二重課税や為替予約の仕組みをオフショアで使うことと、租税回避の仕組みを構築することとは本来異なるはずです。

“税金逃れ”に世界が怒り! パナマ文書って何?
http://www.nhk.or.jp/fukayomi/maru/2016/160507.html

 また、保険商品を組み合わせたり、なんとか特区などの国や地域別の産業振興策を組み合わせる仕組みは、別に秘匿性が高くなくても「必要だから使う」「余分に税金を払わなくてすむのであれば、いま払っている税金が減らせる分の何割かを手数料で払っても構わない」という合理的な判断が成立するなら普通に活用されるものです。適法だから使って何が悪いという話ではなく、企業が税金を余分に払おうとしても、株主がそれを納得しないのが通常である以上は、そこの地域でビジネスを行う上でのCSRとしての現地納税みたいな話になるわけですね。

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 番組の冒頭で、森信茂樹せんせがいきなり「世界中どこにいても、日本在住者は日本の税金がかかる」と仰ったので、海外の日系現地法人が価格移転税制の枠内で現地で経常利益を出し現地で税金を払う、グループ決算をしたり、為替予約を機動的にやるためにオフショア口座を使うといった話にはいたらずじまいでした。どこの国でも徴税担当者は同じ発想ですから、企業やファンドの責任者は当局対応として「聞かれたことだけを喋る」という話になってしまうのもむべなるかな、といったところでしょうか。

 なお、オフショアがいけない、タックスヘイブンが駄目だとなると、現在主流となっている海外の直接投資や、香港市場などでの上場のためにケイマン諸島やヴァージン諸島などにホールディングカンパニーを立てるといった定番の租税回避策はできなくなります。もちろん、そういう手当てを日本がすれば、そのようなお金はなくなるわけですが、それは日本人が海外に投資をする際に一方的に不利になるだけでなく、海外から日本に投資するときそのような規制があるなら必要最低限の資金しか日本に置かないという話になります。まあ、対日投資を呼び込みたくないというなら話は別ですが、これから日本の国債消化余力が乏しくなりそうなところで海外からの商人を寄せ付けないというのは結果として日本が海外で資金調達をしたいとなったときに90年代のような余計なプレミアムを払わないと金が借りられないという本末転倒な事態に陥るので、うまい具合にやってよね、と思う次第でございます。

 したがって、透明性を確保して、納得できる税体系にしましょう、という本筋は誰も反対しないのですが、実際には透明性を確保するための申告制度を義務付けたら、外からカネが日本に入らなくなるうえ、日本企業が海外で何か展開するときに不利を起こす可能性があります。

東電、海外に210億円蓄財 公的支援1兆円 裏で税逃れ
 たとえば、一昨年東京電力が海外子会社を通じて事業を行い、別の海外事業者との取引で得た利益をプールしてたら、東京新聞から謎の叱責を食らうという「事件」がありました。現地で稼いだ現地のお金を現地に置いて現地で納税することは別に公的サービスだろうがファンドだろうが問題にはならないはずが、公的支援を得ていたからそれが駄目だ、税逃れだという話になるのであれば大変なことです。 

 語るべきことはさまざまあるのですが、企業は利益を追求することが求められているけれども、同時に市民社会の一員としての責任も果たさなければならないので、適切な納税を公平感のある形で行わなければなりません。一方で、制度として透明性を強めようとしたときに起きる諸問題については、企業と国民の間で決定的に利害が対立するものでもあります。投資家は概ねにおいて両方の立場ですので、放送を通じてもう少し「何が対立軸なんだっけ」というのは語ったほうが良かったかなと思いつつ、語ったところで言葉足らずだと誤解も広がるんだろうなーと感じて、ぜんぜん違うことを喋っておりました。

 どうせICIJが次の公表をするので、取り急ぎはそれを正座して待ちたいと思います。はい。