先般掲載しました当ブログのエントリーにおいて、長谷川豊さんより一部反論があったようです。



「姉歯物件は大震災でビクともしていなかった」と長谷川豊が言ってんだけどさ

http://kirik.tea-nifty.com/diary/2014/08/post-44b9.html



 まず、私は長谷川豊さんとは面識が無く、長谷川さんを単なる一著名人と見ておりまして、その長谷川さんによる姉歯物件の耐震偽装に関する記述で明らかな与太話が書いてありましたのでこれの間違いの部分を否定する目的でエントリーを書いたものです。長谷川さんに対する敬称略というのはもちろん著名人の記述に対して論評する一般的な方法に基づいたものでしたが(当然ながら、私もおおいに呼び捨てられるし、それ自体は何ら問題ないと思いますが)、長谷川さんが気になるということでしたらそれについてはお詫びいたします。



 で、ちょっと忙しいので反応自体は駆け足になってしまいますが、長谷川さんが書いた反論エントリーについては正直なところ何が趣旨だかいまひとつ良く分かりません。



やまもといちろうさんの記事について

http://blogos.com/article/92827/



 もともとの長谷川さんの記事で、私が賛同するのは姉歯偽装の問題が発生した際に、マスコミによる報道が過熱し、あることないこと書かれた上で、被疑者となった人物の奥方が心労で自殺をされてしまったというのは「行き過ぎ」だという点です。これについては、テレビや週刊誌がバッシングを続け、必要以上にプライバシーが暴き立てられた結果、悲惨な結末となってしまったのは、メディアに関連する人間として襟を正す必要はあるでしょう。


 ただし、そのマスコミの体質についての批判だけで終えていれば何の問題もなかったものを、どういうわけか「あの姉歯物件は東日本大震災でビクともしていなかった」というタイトルで記述していて話になりません。



 と言いますか、ビクともしてなくても放置していたのなら、それは単なる違法状態です。

 威張ってる場合ではありません。



 重度な耐震偽装が問題視された構造計算書に基づいて施工された物件はすでに国会でも議論され、国土交通省から報告書が上がっておりますので、いまさら細かな指摘することは控えます。



http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha05/07/071121/01.pd

http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha05/07/071206/02.pdf



 長谷川さんが”「取材した内容は頭に入れたうえで、ゼロに戻して、一人でも多くの人が読みやすい文章」を綴ってるつもり”なのは理解しますが、同時に以下のように記述されています。



[引用] 実際に発表されていない物件をはじめ、耐震強度は不足しているものもやや不足しているものも、全然足りていないものも含めると、都内だけで数十棟ほどあります



 つまり違法状態にある姉歯物件が数十棟いまなおあるという話でしょうか。



 取材されたのであればリストを出していただければと思うわけですよ。



 姉歯物件については分譲マンションも含めて裁判が行われており、建築主のヒューザーの小嶋被告に執行猶予判決が2009年3月に出ましたし、損害賠償裁判もざっとぐぐれば22件行われていることが分かります。おそらく実際にはそれ以上の法的措置が取られているとは思いますが。



 そして損害賠償などで結審した内容でいえば、2010年、2011年には姉歯設計の姉歯元建築士にのみそれぞれ4,600万円、約1億5,500万円の賠償命令が出るなどしていますね。そして、2012年には横浜地裁で14億円、東京地裁で7,400万円の賠償が出ました。これらはほんの一例です。



 長谷川さんが取材したならお分かりでしょうが、保有水平耐力比の最小値が0.6を下回り重度偽装とされた物件39棟の姉歯物件のうち、少なくとも13棟が取り壊され、22棟が補強工事が施される形となっています。他にも怪しい物件はあるのかもしれませんが、ぶっちゃけいえばすべての物件はメディアがどう報道しようとも被害者がご自身で損害を回復させたり、物件を価値あるものとするために裁判を起こすなどして戦っておられるわけです。



 当然、物件を管理している不動産業者同士の横のつながりもそれなりにありますし、違法状態のまま放置している危険な物件については姉歯物件に限らず報告義務があります。むしろ、そのような報告義務に違反している物件があるなら、マスコミの報道批判とは別の文脈で報じるべきでしょう。



 で、長谷川さんが以下のように書いています。



[引用] そういう物件の中に、現在も、「補強工事は行われていないものの震災時にビクともしなかった物件」があります。間違いなくあります。少なくとも僕が取材した2012年12月の段階では。



 つまり、違法状態の建築物を取材に行って、ビクともしないと住民に取材してそれで終わっていたということなんでしょうか。取材者としては、そちらのほうがよほど問題だと思いますが。三年ほど前に日経アーキテクチュアでは問題となった物件の取り壊し、再建設に関する記事が書かれていましたが、長谷川さんが称する取材に基づく報道というのはこういう記事のことを言うんじゃないですか。



グランドステージ藤沢の建て替え完了

http://kenplatz.nikkeibp.co.jp/article/building/news/20100524/541370/



 本件は事故物件ですから、裁判になっているものは経過を問い合わせたり、国交省の報告書と突き合わせたり、競売から検索してどのような報告内容になっているか経緯を確認したりぐらいはできるでしょう。物件見に行って住民にアテて「ビクともしなかった」とか書いているようでは取材になってないことぐらいは気づいて欲しいと思います。



 最後になりますが、来週25日月曜朝にフジテレビ系『とくダネ!』に出演する予定なので、みんな観てね。